A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

@kunimitu0801

第1話「追放と再出発」

俺は、リオン・アルディス。A級パーティ『ザルツ』の一員として、戦闘以外のすべてを支えてきた。資金管理、武器の手入れ、アイテムの在庫確認。表立って目立つことはなかったが、俺の仕事があるからこそ、仲間たちは安心して戦いに集中できていた。

 だけど、それは俺の思い込みだったのかもしれない。

「リオン、お前は今日でパーティから抜けてくれ」

 リーダーのカイルは、冷たく言い放った。その言葉が信じられず、俺は耳を疑った。

「……冗談だろ?」

 誰かがからかっているのかと思った。だけど、カイルの目は真剣だった。魔術師のリナも戦士のダリオも、斥候のセリナも、誰一人として否定しない。ただ、気まずそうに目を逸らすだけだ。

「悪いな。お前がいると、どうしても足手まといにしかならないんだ。これから俺たちはもっと高みを目指すつもりだ」

 俺が足手まとい?

 笑わせるな。俺がいなければ、このパーティは回らなかったはずだ。依頼の報酬交渉も、装備の手入れも、アイテムの補充も、全部俺がやっていた。それをお前は知らないのか。

十年前、俺とカイルは十四歳、ダリオは十五歳の時に三人で『ザルツ』というパーティを結成した。未熟ながらも、共に戦い、支え合いながら成長してきた。二年後にリナが、さらに五年後にはセリナが加入し、俺たちはA級パーティとして名を馳せた。

 俺は戦闘ではあまり役に立つ事は出来なかったが、資金繰り、武器の手入れ、アイテムの管理に至るまで、全てを任されていた。俺の支えがあったからこそ、みんなは戦闘に集中できていたはずだ。

そう、信じていた。

 だが、それは幻想だったらしい。

「リオン、お前はもういらない」

 再び放たれたカイルの冷たい声が静寂を切り裂いた。

「はっきり言ってお前は戦えない。戦闘の場に立つ資格なんてないんだよ。さっきカイルになんて言われたか聞こえなかったのか。足手まとい」

 ダリオが鼻で笑いながらそう言った。

「まあ、戦闘で役に立っていない自覚はあったんだろうな。いろいろとやっていたみたいだがよ。結局、お前は裏方仕事しかできないんだろ?そんなのは誰でもできることだ」

 俺が誇りに思っていた俺の働きをダリオは真っ向から否定した。

 それを聞いていたリナは呆れたようにため息をつき、冷たく言い放つ。

「正直、リオンがいると戦闘に集中できないのよ。A級に上がって数年経つけど。これ以上、無駄な負担はかけたくないわ」

 セリナは何も言わなかった。ただ、視線をそらすだけだった。

「でも、俺はずっと……みんなのために――」

 言いかけた言葉は、カイルの一言に遮られた。

「お前は、ただの荷物だ。出て行け」

 誰もが俺を不要だと言った。俺が積み重ねてきた努力も、支えてきた日々も、全て無価値だったと突き付けられた。

 俺は自分の働きに誇りを持っている。

 どれだけこのパーティに貢献しているか。普段からどれだけ皆のサポートをしていたのか、行ってやりたい事は山ほどあった。

「……………」

 だけど……俺は何も言えなかった。

 言い返したところで、どうにもならないとわかっていた。すでに彼らの中で、俺は『不要な存在』として決まってしまっているのだ。

「……わかったよ」

 声が震えそうになるのを必死で堪えて、俺は背を向けた。彼らの視線が痛かった。何も知らないくせに、俺を軽く扱ったその態度が、胸に突き刺さった。

 それでも、俺は言った。

「今まで世話になったな」

 誰も答えなかった。

 俺は拠点として使っていた宿を出た。

 足元に散らばる小石の音だけが、やけに耳についた。

 それからどれだけの時間が経ったのだろう。一瞬だったかもしれないし数時間か経っていたかもしれない。ただ頭の中がぐるぐるとしている状態のまま歩いていた。

 目の前を見ると冒険者ギルドの入口があった。無意識にここに辿り着いてしまったようだ。

ギルドの扉をくぐると、慣れ親しんだ空気が俺を迎えた。だけど、今の俺には、その温かさすら冷たく感じた。

 何もかも失った。そんな気持ちで足を踏み入れた俺に、すぐに声をかけてきたのは幼馴染でもあるギルド受付嬢のエリナだった。

「リオン?どうしたの、その顔……」

 彼女の声は、いつもと変わらず優しかった。だけど、俺はその優しさに耐えられなかった。

「……追放された」

 その言葉が口をついて出た瞬間、胸の奥で何かが砕けた気がした。

 エリナは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに眉を寄せ、静かに言った。

「……信じられない。あなたがどれだけみんなを支えていたか、誰よりも私が知っているわ」

 俺は俯いた。今さらそんなことを言われても、失ったものは戻らない。

「でも、もう終わった。俺には……何もない」

 すると、エリナは力強く言った。

「それなら、ギルドで働いてみない?リオンならきっとできる。ギルドには、あなたの力が必要だと思う」

「えっ!?」

 俺は驚いて顔を上げた。

ギルドで働く……?戦いもできない俺に、そんな道があるのか?

「でも……俺は戦えない」

「戦うことだけが力じゃないわ。あなたがパーティを支えていたこと、私は知っているわ。だから、今度はギルドを支えてほしい」

 その言葉に、少しだけ胸が温かくなった。戦わなくても、人を支えられるなら――それも、俺の戦い方なのかもしれない。

「……考えてみる」

 エリナは微笑んだ。その笑顔に、ほんの少しだけ救われた気がした。


          *


 いきなりギルドで働く。とは言ってもいきなり職員になれるわけじゃない。

 だが、冒険者ギルドの職員でもそれなりに高い地位にいるエリナの計らいで、職員待遇で働けるようにしてくれたのだ。

 ギルドでの初めての仕事は、思っていた以上に厳しかった。

 依頼の管理、資金の調整、冒険者たちの進捗確認。戦場とは違うが、膨大な情報と書類の山に囲まれる日々が始まった。

 それでも、俺は諦めなかった。ここでさえも、支えられるものがあるのなら、俺にできることを探すしかない。

 そんな中、最初の難題が訪れた。

「リオンさん、この依頼の報酬、どう計算すればいいですか?」

 若いギルド職員が戸惑いながら声をかけてきた。見ると、依頼内容と報酬の計算が曖昧で、冒険者同士のトラブルの元になりかねない案件だった。

「これは……ちょっと複雑だな」

 だが、俺には数字を読み解く力がある。以前、パーティの資金繰りやアイテム管理を担当していた経験が生きた。

「こう計算すれば、誰も不満が出ないはずだ」

 そう言って、報酬の配分案を示すと、職員は驚いた表情で頷いた。

「すごい……ありがとうございます!」

 その感謝の言葉に、ほんの少しだけ自分が認められた気がした。

「はい。お疲れ様」

 エリナがお茶を持ってきてくれた。

「ありがとう」

 気付いたら喉がからからだった。

 俺は一気にお茶の飲み干す。

「ギルドの仕事はどう?」

「大変だな。いつもエリナ達はこんなことをしていてくれたんだな。ありがとう」

 今までパーティのみんなが戦闘に集中できるように裏方をしていた俺だが、冒険者達がきちんと働けるように裏方をしてくれていたのがギルド職員のみんなだ。俺は改めて感謝の気持ちが芽生えた。

「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも私達は命の危険は無いから」

 冒険者たちは常に命の危険をはらんでいる。毎年多数の殉職者が出ている。

「そうだったな。ここにはモンスターはいないのだけが救いだな」

 俺がそんな軽口を言った瞬間。

「ふざけるんじゃねえ!」

 遠くの席からどなり声が聞こえた。

「なんだ。今のは」

「行きましょう」

 俺とエリナは声がした方に向かう。

「ビクトルさん」

 その相手を見てエリナが名前を呟いた。

「誰だ。あれ」

 俺はエリナに尋ねる。

「C級のビクトルさん。よく問題を起こす人。しかも酔っ払っているわね」

酔ったビクトルが受付で怒鳴り散らし、職員たちは怯えて動けないでいた。

「ちょっと行ってくる」

「待って」

 ビクトルのところに行こうとするエリナを止めて俺が前に出る。

 ガタイがいいが。C級の冒険者だ。それに対してこっちは元A級だ。

 まあ、俺は正直A級を名乗る事はおこがましいことだろう。

 俺にA級の実力は微塵も無いし、B級や下手するとC級くらいと互角くらいだろう。だが酔っ払ったC級よりは上の字便はある。

 俺は静かに近づき、その前に立った。

「もうやめろ。迷惑だ」

「なんだてめぇ」

 だが、彼は聞く耳を持たない。

「やるならやってやるぞ!」

 ビクトルは剣を抜こうとした。

 俺はその前に剣を抜く腕を掴んで動きを止めた。

「なっ」

俺はそのまま、腰に下げた短剣を見せつけ、低い声で告げた。

「ここはギルドだ。暴れるなら、外でやれ」

 これでもこっちはA級の冒険者だ。殺意を込めて睨みつけてやった。

「わ、悪かった」

 その眼光に圧され、ビクトルは何も言わずに去っていった。

 周囲の職員たちは驚き、そして安心したように礼を述べてくれた。

「リオンさん、ありがとうございます」

 絡まれていた若い受付嬢から感謝された。

「リオン。凄かったわね。さすがA級」

 エリナが微笑みかけてきた。

「ああ。でも命の危険があったな」

 一歩間違ったら剣の抜き合いになっていた。

「あれくらいモンスターに比べたら大したことないわよ」

 そう言ってふとエリナの手を見ると大きめの棍棒が握られていた。

 いつの間に持っていたのだろうか。俺の幼馴染が意外と武闘派だと知ってしまった。

「ここも中々の戦場だな」

 俺は軽口を叩いて二人で笑いあった。

「でもね。リオン」

 笑顔のままでエリナは俺の腰に手を伸ばし、俺の短剣を手にした。

「職員は無許可の武器の携帯は原則禁止よ」

「あっ。ごめん」

 いつもの習慣で短剣をつけたままで来てしまっていた。それをエリナには見逃してもらえなかった。

「まあ、でも今日はこれも役に立ったから。きちんと申請しましょうね」

「はい」

 やんわりとエリナに注意される。

 短剣を没収されるトラブルもあったが、ギルド勤務の初日は無事に終わった。

「リオンさん。お疲れ様でした」

「リオンさん。凄い仕事できるんですね。驚きました」

「リオンさん。ビクトルさんを追っ払ってくれてありがとうございました」

 みんなに感謝されて冒険者だった時よりも達成感を感じた。

「明日からもよろしくね。リオン」

「ああ。宜しく頼むよ。エリナ」

 ここでも、俺にできることはある。

 そう思えた瞬間だった。

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