第13話 そう、ひよったのである
今思えば多感な時期に周囲から悪い奴というレッテルを貼られている奴に助けられるというのは、前世で言う『ヤンキーに守られた、良くある少女漫画の展開──ドキドキ私だけに優しく、私だけが知っている彼の優しさ。純愛ストーリー──というヤツ』ではないか。
早い話が、ヤンキーが雨に濡れる子犬に傘をさすと好感度が爆上がりするあの理論である。
…………いや、万が一間違いの可能性もあるし俺の考え過ぎの可能性もあるのでここは様子見で行こう。流石にここで『今エリザベートは俺の事を好きだと思うが、その感情は一種の麻疹のようなものである。少し経てばエリザベートもその事に気付くだろう。だからこそ俺と婚約したいなどと考える事は今からでも遅くないから止めておけ』とか何とか言って違っていたら流石に恥ずかし過ぎる。
と、考えて俺はエリザベートへは基本ノータッチでいく事にする。
そう、ひよったのである。
言い方を変えれば、わざわざ藪を突いて蛇を出す必要も無いと考えたのだ。
それにもし本当に俺に惚れてしまっているとしても公爵家を継がないと知れば、所詮は貴族の女性である。勝手に諦めてくれるだろう。
流石に貴族と婚約できる立場であるにも関わらず、それを捨ててまで俺と婚約したいという女性がこの世界にどれだけいるというのか。
確かにこの世の中全てを調べ尽くせばそのような選択を選ぶもの好きな貴族の女性がいるのかもしれないが、しかしながらそんな女性と俺が出会う確率など天文学的な確率だろう。
しかもそこから婚約をしていない、かつ同年代という縛りまでついているのだ。
であればそんな女性はいないと考えるのが妥当であろう。
そんな事を俺が考えているとは露ほども思っていなさそうなエリザベートは、俺の元婚約者であるスフィアに敵対心を抱いているのかいつもよりも大胆になっており、普段はしないにも関わらず今日に関しては腕を絡めて来て胸を当て、スフィアにアピール(威嚇)をしている。
そんなエリザベートをスフィアは『何故こんなゴミクズの事をそこまで行動に移せる程好いているのだろうか?』という表情で見つめている。それが逆に俺の心に罪悪感というナイフが突き刺さる訳で……。
「おい、何俺様の前でイチャイチャしているんだよ貴様等。というかそんなゴミ男なぞ放っておいてスフィアとエリザベートは次期皇帝陛下である俺様をもてなすべきだろうがよ。何ボケッとしているんだ。さっさともてなせや」
そんなスフィアとエリザベートを見て何故かイチャイチャしているという風に見えてしまったアルバート皇子は、こんなクズのラインハルトよりも自分をもてなせと、怒りの感情を隠そうともせず言ってくる。
というかアルバート皇子に関しては怒りの感情を隠そうとしている場面を見たことないので、もう本能でそういう気が付いた時には言動をしてしまうのだろう。
「何を言い出すかと思えば……くだらない。そんなに異性を侍らせたいのならば金と権力で侍らせれば良いだろう。アルバート皇子も俺と同様クズなのだからまともな恋愛ができると思っている、または自分は無条件で異性にモテるだけのスペックを持っているとでも考えているのならば即刻その自分に対する評価は消した方がいいとは思うが」
「うるせぇ……っ! さっきから見ていれば調子に乗りやがってっ!! ………まぁ、そんな余裕ぶっこいていられるのは今の内だけだがなっ!!」
そして、どうしてこの状況からこのバカ皇子は俺がスフィアとエリザベートと、二人の女性とイチャイチャしているという風に見えるのだろうか?
目が腐っているのか女性に絡まれているという事がそのまま好意を持たれているという思考になってしまっているのか……。
そして万が一スフィアとエリザベートが俺に好意を寄せていたとしても俺の態度で察して欲しいのだが……。
まぁ、今までのアルバート皇子の言動から相手の態度からの感情を読み取れないのか、そもそも相手の立場に立って考えるという事をしないのでただ単に読み取ろうとしていないのだろう。
しかしながらアルバート皇子の『余裕ぶっこいていられるの今の内だけだからな』という言葉に少しばかり嫌な気がするのだが、所詮はこの皇子のする事である。
どうせ何かしようとしたところで大したことは無いだろう。
今有り得そうな一番最悪な展開なのだが、帝国軍を動かして俺を殺しに来る事なのだが、今の俺であれば余裕で逃げられるしな。しかも様々な方法で。
というか、そもそもいくらアルバート皇子とはいえ軍を動かす程の権力はもっていないだろうしな。
むしろ明らかに細工をしているであろうダンジョンへ入るパーティー分けで何を企んでいるのかの方が気になる。
しかしながら何をされても今の俺ではどうにかなりそうだと思ってしまうし、実際にどうにかなってしまうだろう。
「…………顔も見たくない人が二人もいるパーティーだなんて……ついてないにも程がありますね」
「別に、嫌なら腹痛でも何でも言い訳して休めば良いのではなくて? わたくしはラインハルト様と一緒の班であればそれで構いませんもの」
唯一問題があるとするのならばこのパーティーの空気の悪さだろう。正直な話、胃が痛い。
というか何故アルバートはわざわざスフィアとエリザベートを同じパーティーにしたのだろうか?
俺に何かこないだの仕返しをしたいというのであれば別に俺と同じパーティーになれば良いだけであろうに。
「バカにしないでちょうだい。ラインハルトとアルバートが居るからと言って逃げるように授業から抜け出すような私ではないわ」
「あらそう。それならそれでわたくしは構わないのだけれども、わたくしとラインハルト様との仲だけは邪魔しないでくだされば、後は貴女がどこで何をしようがわたくしには関係ございませんもの」
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