第7話 そう考えれば希望しかない


 そう強く誓いながらその時が来るのを虎視眈々と待っていた。


 そして遂にその時が来た。


 ラインハルトとスフィアが婚約破棄をしたという話をお父様から聞いた時は、不謹慎ながらも喜びのあまり踊り出しそうであった。


 しかしながらその気持ちをグッと堪えてお父様にラインハルトと婚約をしたいと申し出た所、お父様はまるで苦虫を嚙み潰したような表情をしつつ『考える』と短く返すのみ。


 確かにここ最近のラインハルトの評価から見ても渋りたいお父様の気持ちも理解できるのだが、スフィアというラインハルトを縛り付けていた女性から解放された今、攻撃的になってしまった元凶から離れる事により元の優しかった頃(四歳くらいの頃)のラインハルトに戻っているのは間違いない為、そのラインハルトを見ればきっとお父様の評価も変わる事だろう。


 そんな、近い未来ラインハルトと婚約する事を想像しつつもはやる気持ちを抑えながらラインハルトが学園へ登校するのを待っているとついに登校してくる姿が見えた。


 本当は家まで押しかけてしまいたかったのだが、流石に女性が異性の家に押しかけるというのははしたない気がしたので、我慢するのが大変だった分、ラインハルトの姿を見た時わたくしの感情は爆発してしまいそうなほど高ぶっていた。


 それこそ周囲の目など気にせずに抱きついてしまいたいと、そう思うくらいには。


 スフィアと婚約している時は話しかける事は自重して一日数回までと自分に課していただけに、これからはいくらでも話しても、誰も迷惑にはならないと思うと、もうそれだけでこれからの学園生活が一気に色づいたように思えてくる。


 そして、第一声はどんな言葉をかけてやれば良いのだろうか? ここはやはり優しく傷ついたラインハルトの心を癒して差し上げるのが良いのではなかろうか?


 などとあれやこれやと考えながら発した言葉は、ラインハルトの傷を抉るような内容であり、自分でも内心思っても無い言葉が出てしまい焦ってしまうのだが、焦る私とは裏腹にラインハルトは落ち着いた口調でわたくしの棘のある言葉を包み込み、あの頃ような穏やかな雰囲気で相対してくれるではないか。


 そんなラインハルトの姿を見てわたくしの仮説は正しかったのだと確信する。


 今日はちょっと照れてしまい少し高圧的な態度を取ってしまったのだけれども、それでも自分の素直な気持ちも要所要所で伝えられたと思うし、自分の気持ちを素直に出すというだけでこれほどまでに緊張してしまうとは思いもしなかったのだが、それでも表出せたのだ。


 確かに所によっては声を張る事ができずに聞き取りにくくなっていたかもしれないのだけれども、何も今日でラインハルトとお別れと言う訳でもないのだ。


 むしろラインハルトが婚約破棄をしたからこそ今日から私たちの新たな関係が始まる訳であり、今日うまくいかなかった事はしっかりと反省して明日以降につなげていけば良いのである。


 そう考えれば希望しかない。


 もう、スフィアに先を越された時のような思いはしたくないと、強く決意するのであった。



◆アルバートside



 あのスフィアが自らの意志でラインハルトとの婚約を破棄したと言うではないか。


 その話を聞いて俺は自分の下半身が滾ってくるのを止められなくなる。


 その気持ちの昂りを、今相手をしているどこかの貴族の四女だか五女だか相手に吐き出す。


 確か、片思いしている商人の跡取りがいるとかなんとか言っており、泣きながら俺との行為を嫌がった事だけは覚えているのだが、それ以外は全くといって良いほど覚えていない。逆にいえばそういうバックボーンがあったからこそ抱いてやったとも言えよう。


 他の誰かの事を想っている生娘を無理やり手籠めにする、これほど楽しい娯楽は他にない。


 どうせこの女も金さえ積めばすぐに寝返るだろうが、寝返った女を抱いても何も面白くない為、せめて三日はもって欲しい所である。


 だからこそ、この俺の誘いをフッたスフィアを強引に俺の物にしたいと、フられたあの時からずっと思っていたのである。


 いつ襲ってやろうかと毎日毎日妄想しては獲物が同じクラスにいるのに我慢する日々。


 どうせならば嫁ぎに行く前日に襲うのも良いし、ラインハルトの目の前で犯してやるのも良いし、その両方を同時にやっても良い。


 そんな事を妄想していくにつれそろそろ我慢の限界が来ていたところである。


 婚約破棄をしてしまったのは、俺からしてみれば犯す楽しみが一つ減ってしまう為それはそれで残念ではあるものの、流石に他者と婚約している貴族の娘を犯すとなればいくら皇帝の息子であったとしてもただでは済まない事くらいは、いくら俺でも理解はしているつもりである。


 しかしながら理解をしているからと言って欲求が無くなる訳ではないのもまた事実である。


 それにただでは済まないと言っても、一か月謹慎させられる程度であろう。


 流石に一か月も閉じ込められるのは想像しただけで気が狂いそうになるほどキツイ内容ではあるものの、何も死ぬ訳ではないのである。


 そう考えれば、スフィアを婚約者の前で犯す代金として考えれば一か月謹慎しても良いとすら思えるので、ラインハルトとまだ婚約している時にさっさと犯しておけばよかったと、若干の後悔をしている。


 かといって次の婚約者ができるまで待つのも耐えられそうにない。


「まぁ過ぎた事をいつまでも悔やんでいても仕方がない。それに気の強いスフィアの事である。婚約者がいなくとも十分に俺を楽しませてくれる事だろう。それに、ラインハルトはラインハルトでエリザベートという新しいおもちゃを手に入れているみたいだしな。ラインハルトの泣き叫ぶ姿はエリザベートを使えば良いだろう」


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