第16話 エリシアに看病される
翌朝、俺は目を覚ますと同時に、体の重さに違和感を覚えた。
「う、うぅ……なんだこれ……身体が鉛みたいに重い……」
ベッドから起き上がろうとするも、まるで全身が呪縛にかけられたかのように動かない。なんとか腕を動かして、杖を手に取る。
「は……早く解析魔法を……くっ、意識が……」
ふらついた足取りで立ち上がろうとした瞬間、床へと崩れ落ちた。視界がぐらりと揺れて、意識が遠のく。だが、完全に意識を手放す前に、廊下から響く足音が聞こえた。
「ライル!? ライル、大丈夫!?」
バンッと扉が開かれ、エリシアが駆け込んできた。彼女の顔は青ざめ、瞳は今にも泣き出しそうなほど潤んでいる。
「ラ……イル……??」
「ち、違う、俺はまだ……死んでないから……」
「ライルが死んじゃった……死んじゃったぁぁ!」
完全に人の話を聞いていないエリシアが、その場で咽び泣き始める。いや、あの、俺まだ生きてるんだけど。
「……だから勝手に殺すなっての」
なんとか言葉を絞り出し、ベッドに這い戻る俺を見て、エリシアの表情が驚きに変わった。
「えっ、生きてる……?」
「見ての通りだよ。悪いけど、体がだるくて……ちょっと調べてくれないか?」
「分かった! 今すぐ解析魔法をかけるね!」
エリシアはすぐに俺の額に手をかざし、魔力を集中させる。彼女の魔法はいつ見ても綺麗だ。光が優しく揺らめき、俺の体を包み込む。
「……うん、ライルはただの風邪みたいだね。命に関わる病気じゃなくて本当に良かったぁ……」
エリシアは安心したように胸を撫で下ろすと、にっこりと微笑んだ。……うん、可愛い。やっぱりエリシアの笑顔は反則だ。
「それじゃあ今日は私が看病してあげるね。ライルはずっとベッドでおとなしくしてること! 絶対だよ?」
「えぇ、まぁ……助かるけど。ありがとうな、エリシア」
「ふふっ、お礼なんていらないよ。だってライルは私のものなんだから。お世話するのは当然でしょ?」
嬉しそうに俺の頭を撫でるエリシア。その手の温もりが、なんだか心地良かった。
「ご飯作ってくるから、いい子で待っててねー」
エリシアはそう言って意気揚々と部屋を出ていった。元気な足音が廊下に響いている。
「はぁ……」
僕はため息をつく。風邪を滅多に引いたことがないのになぁ……。やっぱり急な環境の変化によるものなのだろうか……?
枕元に置いてあった一冊の手記を手に取る。これは昔アイラさんが僕のために書いてくれた手記だ。内容は薬草の効能が書かれたメモ帳のようなものだ。もちろん風邪に効く薬草についても書かれている。
「これを見つけられれば……」
寝込んでいるわけにもいかない。エリシアに迷惑をかけるのは本意じゃないし、それに――。
「アイラさんにもう届いたかな?」
もう読んだ頃だろうか?びっくりしてそうだな……。ちょっとどんな返事が来るか楽しみかも。
そんな事を考えながら、窓の外をぼんやりと眺めていると、足音が戻ってくる音が聞こえた。そして、エリシアがトレイを持って部屋に入ってくる。
「お待たせ! 特製お粥だよ」
「ありがとう」
受け取ろうと、手を伸ばすが、エリシアは「ダメ」と言いながら遠ざける。
「自分で食べるから……」
「ダメ! 私が食べさせるの!」
あぁこれは……、全く聞く耳を持ってくれないパターンだ。素直に言う事を聞いておこう。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「うんうん、じゃあはいあーん」
笑顔でそう言いながらスプーンを僕の口元へと差し出す。仕方なく口を開ける。うん……薬草が入っているからか、少し苦みがある味だ。
「……美味しい」
「ふふん、でしょ? ライルのために一生懸命作ったんだから!」
エリシアが嬉しそうに胸を張る。その姿を見てると、つい顔が緩んでしまう。だが、それでも体調は良くならないばかりか、むしろ悪化しているようだった。
「……ゴホッ、ゴホッ!」
「ライル!?」
エリシアの顔がみるみる青ざめる。そして、涙目になりながら僕の手をぎゅっと握りしめてくる。
「だ、大丈夫だから……」
「大丈夫じゃない! こんなの……私、どうすれば……」
彼女の手は震えていた。そんなに心配されるのは嬉しいけど、これはどうにもならない。
「エリシア、ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「……なに?」
「この手記に風邪に効く薬草が書かれてる。それを調べて、取ってきてほしい」
「えっ!? でも……私、ライルのそばにいたい……」
「わかってる。でも、お前にしか頼めないことなんだ」
「……私にしか?」
「そう。お前が僕のために動いてくれたら、きっと良くなるはずだ」
そう言いながら僕は手記を差し出す。エリシアはしばらく黙っていたが、やがて決意したように頷いた。
「……わかった。私、絶対に見つけてくるから!」
「ありがとう。無理はするなよ?」
「うん! 行ってくる!」
エリシアは手記を握りしめ、勢いよく部屋を飛び出していった。
「……本当に、大丈夫かな」
僕は彼女の後ろ姿を見送ると、再びベッドに身を沈めるのだった。
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