黒い塔で、大きな「決断の時」


ボクは黒い塔の、目の前にいた。


長い間、歩き続けてきたせいか、ボクの身体は限りなく薄くなっているような気がする。


相変わらず、足音はしないし、影もない。手を見ても、指の輪郭がぼやけて、まるで霧のように形が曖昧になっていた。


──このまま進めば、ボクは本当に消えてしまってなくなるのではないか?


それでも、歩みを止めるわけにはいかなかった。


黒い塔の扉に手をかける。音もなく開く。


中は真っ暗だった。


「待っていたぞ」


奥から声が響く。


あの影の声だ。


ボクはゆっくりと歩みを進めた。




黒い塔の中は異様だった。


空間が歪んでいる。塔には壁も床も天井もなく、ただ暗闇が広がっている。そして、中央にはが立っていた。


今のボクよりも完全なボク。


しっかりと顔があり、声があり、存在がはっきりとしている。


そして、影が囁く。


「これが、お前が失っただ」


ボクは息を呑んだ。


「お前は、世界を消した代償として、自分自身を失い続けている。もうすぐ、お前は完全に消えてなくなる」


そんな……。


ボクは世界を戻したいだけだった。


でも、それをするために、ボクは自分自身を失ってしまうのか?


──いや。


そもそも「世界を戻したい」という思いすら、本当にボクのものだったのか?


影が静かに言う。


「お前には、最後の選択を与える」


「元の世界に戻してお前はこのまま消えるか、自分を元に戻して世界はこのまま、誰もいない世界を続けるかを決めろ」


ボクは、言葉を失った。


世界を元に戻せば、ボクは完全に消える。


しかし、ボクを元に戻せば、世界はこのまま、誰もいない世界は続いていく。


どちらを選ぶべきなのか?


塔の中の空間が歪んでいく。


選ばなければならない。


ボクはどちらを選ぶべきなのか──



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