第6話 友との再会、そして
扉の奥は、どこなのかわからないが木々が生い茂っている様子を見るに、おそらくどこかの森だと思う。
近くからはゴウゴウという音が聞こえてくる。聞き覚えのある音は、ブレンネン山の火山活動の音だ。と言うことは、ブレンネン山が近くにあるのだろう。
『ゲート』を閉じると、ゲートは消えてしまった。もう、後戻りはできない。まぁ、ルーエンを連れ帰るまで戻るつもりは毛頭ない。
目の前には大きな塔がそびえたっている。これが、今の『ゲベリオン教団』の拠点なのだろう。
塔の入り口の門には、紋章である六芒星の中央に目玉のマークが書かれているのを見るに、おそらく拠点で間違いない。
門はちょっと押しただけではびくともしないため、力を入れようと体勢を低くすると、突如門から声が聞こえてきた。
『合言葉は?』
門を開けるためには、合言葉が必要なようだ。だが、俺は『ゲベリオン教団』の人間ではないため、合言葉なんてわからない。
試しに、開けてください、と言ってみたがうんともすんとも言わない。仮に迷い込んだ人間が入り込まないようにするための策なのだろうが、こんなところで足止めをくらうわけにはいかない。早いところ、ルーエンの無事を確かめたい。
足で思い切り蹴ると門は簡単に吹っ飛ばすことができた。
塔の中に入ると、薄暗くヒヤッとする感じを受けた。吹き飛ばした入り口から風が入り込み、不気味な叫び声のように聞こえてくる。
塔の壁には螺旋状に、上へと続く階段がある。見上げると、どうやら塔のてっぺんまで続いているように見える。
最上階からは禍々しい雰囲気を感じる。とりあえず塔の最上階を目指そうと、螺旋階段へと近づいていくと、床に何かが転がっているのが見える。
いや、あれは……。
「ルーエン!」
階段のそばの床に転がるルーエンの姿を発見した。服もボロボロで、ひどい怪我をしている。床には血溜まりができている。意識はないが、心臓の鼓動は感じる。今すぐ回復すればまだ助けられるかもしれない。
…………。
いや、考えるのは後だ。今はとにかく、最大限の回復魔法でルーエンの怪我を治すことに専念しよう。
顔を腕で拭ってから、俺はルーエンの体に両手をかざした。魔力を込めると、ルーエンの身体が黄緑色の光に包まれ、ルーエンの怪我はみるみるうちに回復した。
ルーエンの意識はまだ戻らないが、怪我を回復したことで苦しそうだった表情は落ち着いたものになり、呼吸も整ったように感じる。
無事なのは良かったが、ルーエンの腰には俺が初めて一人でDランクの依頼に行く際に贈った短剣は無くなっている。
山で遭遇した黒いローブの男は短剣に宿した魔力を欲していたから、奪われてしまったのだろう。そのせいでこんな大怪我を。
短剣自体はいくらでも作ることはできる。だが、そういう問題ではない。俺が初めてルーエンにプレゼントした、という気持ちはあの時限りのものだ。二度と同じ状況にはならない。
山でルーエンを見つけたときに、連れ去られる前にルーエンを助けられていればこんなことにならなかった。俺が焦って、魔力を使い果たしたせいで、ルーエンをこんな目に合わせてしまった。
謝っても謝りきれないことを俺はルーエンにしてしまった。ルーエンであれば、謝れば許してくれることだろう。だが、俺が俺を許すことができない。
このまま、この体たらくでルーエンを危険に晒しただけで終わってしまうことはありえない。何がなんでも、ルーエンの短剣は取り返してみせる。
その上で『ゲベリオン教団』という、人の気持ちを踏みにじる教団の存在は許してはいけない。今度こそ引導を渡す必要がある。
拳を握り、上の階に進もうと思うが、ルーエンをこのままにしておくと敵に捕まってしまうかもしれない。
ルーエンを横たわらせ、雷の結界を張る。触れたものを電撃で焼き尽くす結界だ。これで、余計な介入は誰にもできない。俺が戻ってくるまでは安心だ。
「……短剣は絶対に取り返してくる。だから、ここで待っててくれ」
意識のないルーエンに声をかけ、塔の頂上を見上げると、相変わらず禍々しい雰囲気を感じる。目的地は最上階だ。剣を引き抜き、駆け足で階段を登っていると上の階から声が聞こえてきた。
「どうやって中に入ったか分からんが侵入者だ! ヒュリテ様はゲベリオン様の復活で忙しい。邪魔をさせるな!」
俺が正規の方法で門を開けなかったからか、侵入していたことがバレていたようだ。塔の上から緑のローブを着た集団が降りてきた。
俺の目当ては黒いローブの男だ。今降りてきている連中は俺の目当てではないが、降りながらも爆弾の魔道具で攻撃を仕掛けてくる。
邪魔をしてくる以上は倒さなければいけない。魔道具の猛襲を、剣の一振りで薙ぎ払う。あらぬ方向で爆発が起こり、緑のローブの集団は驚いた様子である。
これならどうだ、と今度は雷を発生させる魔道具で攻撃してきた。ただ、雷は俺の専売特許だ。剣に雷を吸収させ、剣の一振りと一緒にのせて打ち出した。
攻撃を喰らった緑のローブの集団が階段の上に倒れ、そのまま落下していく者もいるが、おそらく大丈夫だろう。
「……今、気が立ってるんだ。邪魔をするなら容赦しないぞ」
集団を無効化しながら階段を駆け上がっていくと、次々と上層から降りてくる緑のローブの集団。この集団は、ゲベリオンという神を崇拝しているという。どのような神なのかは分からないが、それだけ崇拝している人がいるのだろう。
だが、人の気持ちを踏み躙ってまで崇拝する神というのを崇めている連中をそのままにして置けない。
降りてくる緑のローブの連中を剣戟と電撃で制圧していく。
それにしても、この連中は、魔法を使えないようだ。
魔道具として、爆弾などを使ってくることはあるが、俺のように魔力を電撃に変えたりして攻撃してくる人が見受けられない。驚く様子で、俺の攻撃を見ているばかりである。
流石に高い位置まで登ってきて下に落とすのは気が引けるので、その場に転がしておくか、壁にめり込ませておく。
魔法を使用してこなかったこともあり、全く苦戦することなく、あっという間に最上階の門の前に辿り着いた。
門の奥からは、禍々しい気配を感じる。
この奥にルーエンの気持ちを踏み躙った奴がいる。俺が渡した短剣を死にそうな怪我をしてまで守って。
情け容赦なんて無用だ。最大限の電撃放ち、門を破壊した。
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