【短編版】 モテすぎて拗らせてる美人4姉妹と暮らす事になったけど、俺も拗らせてるから大変です。~目が覚めたら義姉と義妹に抱きしめられてた~

空豆 空(そらまめくう)

第1話 目が覚めたら美人なお姉さんが一緒に寝てた

(!?)


 まだ薄暗い朝、息苦しさに目が覚めた俺――水無瀬みなせ修吾しゅうごは驚愕した。


 それは、いつもと違う枕のせいでも、慣れないふかふかのベッドのせいでもなく、同じベッドに美人なお姉さんが眠っていて、しかもその胸にしっかりと抱きしめられていたからだ。


 やわらかな質量と弾力に押しつぶされて、酸素を求めて顔をあげてみれば、そこにはお姉さんのきれいな寝顔があった。


 長いまつ毛に艶やかな肌、薄紅色の可愛らしい唇。そこから漏れる寝息は色っぽくもあるのに、少しぽってりとした頬のせいで可愛らしくも感じる。


(……どう、いう、こと!???)


 あまりの状況に心臓がドクドクと自己主張しはじめて、顔に熱がじわりと込み上げた。脳内は寝起きにしてパニック状態で、今にも酸欠と高血圧で意識が飛んでしまいそうだ。


 一体、どうしてこんなことになったのだろう。


 俺は昨日普通にひとりで寝たはずで、目が覚めたらこの状況だった。まったくもって状況が飲み込めない。かといって、せっかく気持ちよさそうに眠っているのに起こすのも躊躇ってしまう。


 そんなお姉さんの名前は水無瀬みなせ苺花いちはさん。母の再婚により俺の義理の姉になり、昨日から一緒に住むことになった。歳は俺より3つ上の19歳。


「んぅ、しいか、おきちゃった? もうちょっとねようよ、まだアラームなってないよー……」


 むにゃむにゃと苺花いちはさんは柔らかい声で寝言のようなことを呟きながら、まだ夢の中で微睡んでいるような無防備な表情で俺の身体をさらに抱きしめた。


 ぎゅううっと、お姉さんの柔らかな質感に包み込まる。


(まさか俺のこと、椎香しいかちゃんと間違えてる!?)


 『椎香しいかちゃん』というのは、同じく母の再婚により俺の義理の妹になった小学1年生の女の子。なのだけど――俺、これでも高校2年生で、身体も趣味程度には鍛えてるからそれなりに筋肉質だと思うのに、間違えるかなぁ、普通。


 そう思った時、苺花いちはさんはふわりと俺の髪を撫でながら、まるで愛おしむように俺の頭に頬擦りをした。彼女の柔らかな頬が俺の髪に触れる瞬間、ふわっと甘いシャンプーのような香りが俺の鼻腔をくすぐって、心臓の鼓動はさらに激しさを増していく。


「!!」


 さすがに驚いてびくっと反射的に身体が跳ねた時、『え?』と小さな声を漏らして苺花いちはさんがぼんやりと目を開いた。


 反射的に見つめてしまった俺とパチッと目が合い、ぼんやりとしていた苺花いちはさんの焦点が一気に定まっていくのが見て取れて、気まずさを感じる。


「え!? しゅ、しゅうごくん!? え、わ、ごめんっ」


 まだ喉は寝ぼけたままでありつつも驚いたような苺花いちはさんの声。


 けれど物理的に近いこの距離感で見つめ合ったままになっている俺は、頭が真っ白になって何と言ったらいいのか分からない。


 すると、背後からも女の子の声が聞こえてきて、俺は心臓が飛び出るかと思うほど驚いてしまった。


「んんう~。もう、いーちゃん、うるさい。しいか、まだねるのー」


「うえぇぇえええ!???」


 自分の声とも思えないくらいの変な声に自分で驚きながら、苺花いちはさんのみならず、背中側からは椎香しいかちゃんにも抱きしめられているということにこの時初めて気付いた。


(なに?? なんなの、この状況)


 俺はさらに動揺しながら椎香しいかちゃんに声をかけた。


「え、椎香しいかちゃん!? どうしてこんなところに!?」


 すると起きたばかりの椎香しいかちゃんは、甘えるように俺の背中に頬を擦りつける。その頬は苺花いちはさんよりもさらにぷにぷにとして温かい。


「だーって。しいか、おにーちゃんといっしょに寝たかったんだもん。ね、もうちょっといっしょに寝よ? こっち向いてほしいな、おにーちゃん」


 まだ眠気を帯びたままの甘えた声で言いながら、俺の身体を椎香しいかちゃんの方へ向けようと手を回してきたけれど、重かったらしく、諦めたようにそのままよじ登って俺と苺花いちはさんの間に入ってきた。


 そしてまた俺の身体にぎゅっと抱きついて頬をすり寄せると、おもむろに両手を伸ばして俺の頬に触れ、俺の顔の近くにその幼い顔を近づけ焦点の合い切らないぼんやりとした瞳でじっと見つめてきた。


「……朝からおにーちゃんかっこいい。ねぇ、おはよーのちゅー、しよ?」


 そんなことを言ってくる椎香しいかちゃんこそ、まるで仔猫のような黒目がちで丸い瞳が印象的な可愛らしい顔をしている。

 なんてことに気を取られているうちに、ぷにっとした感触が俺の唇に触れた。


 けれどその感触に目を丸くする暇もなく苺花いちはさんが椎香しいかちゃんの肩を掴んですっと引き剥がす。


「こらっ椎香しいか!! だめだってば!! ごめんね、修吾君。椎香しいかが、また……」


 椎香しいかちゃんを抱き寄せたまま、苺花いちはさんが申し訳なさそうに眉をひそめた。


 実は、昨日の夜にも俺は椎香しいかちゃんから甘えるようにキスをされていたのだ。椎香しいかちゃんはこの歳にしてなのか、この歳だからなのか、もしかしたらキス魔なのかもしれないと思いつつ。


 それよりも、俺は苺花いちはさんがなぜここにいるかの方が気になって仕方がない。


「あ、いえ、それより……苺花いちはさんはなんで俺のベッドに……??」


 俺の問いかけに苺花いちはさんは恥ずかしそうに顔を赤らめて、俯いたまま小さな声で答えた。


「あ……えっと。ごめんなさい。夜中トイレに行った後、間違えちゃったみたい。昨日までここが私の部屋だったから……」


 その言葉に妙に合点がいった。親の再婚により、俺と母がこの家に住むことになったから、俺にこの部屋を渡すために苺花いちはさんは椎香しいかちゃんと相部屋になってくれたのか。


 もともと苺花いちはさんはよく椎香しいかちゃんと一緒に寝ていたみたいだし、寝ぼけて俺を椎香しいかちゃんと間違えたというのもまぁ、分からなくもない気がした。……椎香しいかちゃんはわざと入ってきた確信犯みたいだけれど。


「ああ、そういうこと……。びっくりしました」


 少し冷静さを取り戻すように答えながらも、一番びっくりしたのは彼女たちが俺のベッドに寝ていたことじゃなく、それを嫌だと思わなかった自分に対してだ。


 俺……ずっと女性に苦手意識があって避けてきたのに。それもこれも、家族になったからだろうか。


 そう思いながらふと苺花いちはさんへと視線を移してみると、すっと視線を外された。


 ……やっぱり気のせいじゃない。苺花いちはさんは偶発的に視線が合わない限り、俺の目を見ることを避けている。これは今に始まったことじゃなく、出会った初日からそうだ。


 他の人と同じように俺にも笑顔を向けてくれるし会話もしてくれる。けれど視線だけは、俺にだけ合わせようとしてこない。


 なんでだよ。せっかく仲良くしようと思ってるのに。少し、寂しい。


 抱きしめられて、髪を撫でられ頬を寄せられたあの感触は、俺を椎香しいかちゃんだと間違えていたからで。分かり切っているのにドキドキしてしまった自分が恥ずかしくなる。


「あ、えっと。じゃあ、部屋、戻るねっ。ほら、椎香しいかも一緒に戻ろ」


 そして苺花いちはさんは慌てるようにベッドから出ると、椎香しいかちゃんにおいでおいでと手招きをした。


「えー。しいか、もっとおにーちゃんといたかったのに」


 椎香しいかちゃんは苺花いちはさんのその声に少しだけ頬を膨らませてから、再び俺に抱きつき直して笑顔をみせた。


「えっへへぇ。おにーちゃん、だーいすきっ。また、あとでね」


 子供らしくて愛らしいその表情に、少し素直さも感じる。


「ん。また後でね」


 俺も椎香しいかちゃんを抱き留めて髪を撫でると、またねと部屋の外へと送り出した。


 すると苺花いちはさんはドアの傍でくるっと振り返る。


「あ、そうだ、修吾君。朝ごはん、目玉焼きかスクランブルエッグ、どっちがいい?」


 唐突な質問に。


「え? ……目玉焼き……がいいです」


 反射的に答えた。


「じゃあ、半熟と完熟、どっちが好き?」


 すると彼女の質問はさらに続き。


「えっと……半熟……です」


 俺はやや戸惑いながら答えると、苺花いちはさんは目線は合わないままふわっと笑った。


「あ、いっしょー。私も半熟が好き。よし、今日の朝ごはんは半熟の目玉焼きにするねっ。じゃあ、また後で」


 そしてにこっと俺に微笑みかけた苺花いちはさんと、ほんの一瞬だけ目が合った。その瞬間。


 ただそれだけの瞬間なのに。ドキッと心臓が苦しくなってしまった自分に気付いてまた顔に熱が込み上げた。



「うあー」


 誰も居なくなった部屋の中で、バフッとベッドに倒れ込む。


 枕元からはふわっとイチゴのような甘い香りがして、確かにここに苺花いちはさんが寝ていたのだと実感してしまう。


(なんだよ。視線は合わせてくれないくせに、俺の好み聞いてくるとか。合わせてくれなかったくせに、ほんの一瞬だけ見つめてくるとか。なんだよ、それでいて微笑みかけてくるとか)


 俺……今まで女性を避けてきたはずなのに。女性に興味すらなかったはずなのに。まさか義理の姉に対してこんな気持ちになるなんて。こんな気持ちになった相手が、義理の姉だなんて。


 苺花いちはさんは、俺のことどう思ってるんだろう。


 勝手にまたドキドキと囃し立ててくる自分の心臓の音がむず痒くて、俺は『あー!!』と叫びながら枕に顔を埋めた。



 ――実は、母の再婚によりできたは、苺花いちはさんと椎香しいかちゃんだけではない。


 けれどこの時の俺にはまだ、さらに賑やかになっていく気配を感じる余裕なんてなかったのだった。

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