『こたつの柱』
我が家のこたつは、家族の暖を取る頼もしい存在だ。
しかし、その四方に立つ柱が、今日も美咲の苛立ちの種だった。
「ねえ、この柱、邪魔じゃない?」
美咲はこたつに足を入れながら、隣で寝転がる夫の裕太にぼやいた。
「んー、そうか?」
裕太はスマホに夢中で生返事だ。
美咲はため息をつく。
「足伸ばせないし、掃除のときも邪魔だし。でも、これがないとこたつが崩れるんだよね」
その言葉に、裕太が不敵に笑った。
「お前、それ俺のこと言ってるみたいだな。無いと困るけど、いても邪魔なダメ亭主ってか?」
美咲は一瞬言葉に詰まり、顔を赤らめて反論する。「そ、そんなつもりじゃないけど……でも確かに似てるかもね」
裕太は笑いながら起き上がり、
「じゃあ、この柱と俺、どっちがマシか試してみるか?」
と提案した。
「どうやって?」
美咲が尋ねると、裕太はこたつの柱を外し始めた。驚く美咲をよそに、彼は傾いたこたつを支えながら得意げに言う。
「ほら、これで足伸ばせるだろ?」
だが、次の瞬間、こたつの天板が傾き、乗っていたみかんとお茶が床に転がった。
「あっ!」
美咲が慌てて立ち上がる中、裕太は「やべっ」と呟く。
結局、二人でこたつを直し、柱を元に戻す羽目になった。
「やっぱり柱は必要だね。裕太は……まあ、いてもいいかな」
美咲は呆れながら笑った。
その日の夜、こたつの中で足を絡めながら、二人で温かいお茶を飲んだ。
柱は相変わらず邪魔だったが、裕太の笑顔を見ていると、美咲は「まあ、これでいいか」と心の中で呟いた。
無いと困るがあって邪魔――それも家族の形なのかもしれない。
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