『恋する七月』
七月は恋多き月である。
学生にとっては夏休みの始まる月であり、この長い休みをより楽しもうと恋の相手を求める人は少なくない。
また、そうでなくても、海に夏祭りに花火大会……と、この月は男女の仲が近づく機会が多い。夜の海辺で線香花火、なんてものは青春の原風景として誰の心にもあるような情景だ。
夏が暑いから人も熱くなるのか、あるいはその逆か。
圭介が史織と付き合い始めたのも、そんな七月の暑い日だった。
皆で行ったプールの帰り道、立ち寄った売店でかき氷を頬張りながら、圭介は史織に思いを伝えた。少し悩むような仕草をみせた史織だったが、圭介の真っ直ぐな気持ちを受け入れ、二人は晴れて恋仲になった。
圭介はこの世の素晴らしさを詩に書き起こしたいくらいに喜んだ。そんな圭介を、史織は微笑ましく見つめていた。
それから二人は暑い夏を楽しんだ。
恋する女子の性なのか、史織は付き合い始めると、圭介以上に熱い思いで接してくれた。
そんな二人は端から見れば問答無用に仲良しカップルで、友人達には恋仲であることを伝えていなかったが、感づいて冷やかしてくる奴は多かった。しかしそんな周りの反応も、幸せの最中にいる圭介にとってはまんざら悪いものでもなかった。
楽しく、刺激的で、幸せな日々は、この夏が終わっても続いていくのだと思っていた。
だがそれは圭介の願望に過ぎなかった。
夏の終わりと共に二人の関係も終わりを迎えた。
「終わりにしよう」と言った史織の思いは、圭介には知る由も無い。
だが、もうあの暑い夏の二人に戻らないことは確かだった。
「何がいけなかったんだろう」
そう愚痴を溢した圭介に、親友が答えた。
「恋する七月は厄介なのさ」
親友は遠い目をしていた。
「どんなにあついといっても、少し経ったらあきが来る」
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