六章 予算委員会(1)

国会の委員会の1つに『予算委員会』がある。予算の審議しんぎと議決を行なうための常任委員会である。予算は一年間の国政方針と直結ちょっけつするものであるので、政府施策をめぐり与野党で活発な政策論争が展開される。総理大臣含め各大臣が出席する国会活動の最も重要な場となっている。

予算委員会は、50名の委員より構成されるが、獲得かくとく議席数に応じて委員を選任されるので、議席の少ない曙新党の議員は残念ざんねんながら委員になれない。

渡辺は、なんとか弱小政党でも予算委員会の委員になれるよう交渉こうしょうしたが、無駄むだであった。政治の不都合な真実をあからさまにしてきた曙新党は、国会運営をスムーズに進めたい政権側にとってはけむたい存在なので、重要な予算委員会のメンバーには入れたくない事情もある。

「衆議院本会議で質問に立つしかないな。五木さん、なんとか質問に立てるよう交渉お願いしたいのですが・・」

「承知しました。なんとしてでも、質問する機会を得られるよう交渉してみせますよ」

渡辺は、今回衆議院となった曙新党 国会対策担当の五木利夫に交渉を依頼した。本会議で質問に立つためには、野党第一党の自立党を始め、各党の国会対策委員と相談しなければならない。五木は、どこかとぼけた味のある雰囲気を持っているので、他党との交渉にはうってつけの人物であった。彼が一言発すれば、場がなごむのである。

「よろしくお願いします」

渡辺は、そう五木に伝えると、ペコリと頭を下げた。


「それは、難しいですね。どの党ももっと時間が欲しいところを、何とかやりくりしてもらってますから・・・」

自立党国会対策委員長である井上裕は、無表情で五木にそう伝えた。

勿論もちろん、事情は重々承知しておりますが、弱小新党にも国会での発言の機会を与えるという意味で、何とかご配慮はいりょ 頂けないでしょうか? お願いします」

五木は、なんとか了解を得ようと必死ひっしだった。

「言いたくはないのですが・・

曙新党さんは、国会の場以外でも街頭演説などでいろいろと発言されていますが、他党に対する配慮はいりょが足りない部分がありますよ。特に、おたくの党首はね。政権与党の政策批判だけならまだしも、他の野党への批判も時々されてるので、自立党としてもこまっているんですよ」

「言い過ぎの部分があるとしたら、おび致します。街頭演説では、自分たちの考える政策を国民の皆さんに分かりやすく伝えるため、他の政策と比較して伝える場合があります。そういう時、そのようにお感じになるのかもしれませんが、あくまで政策の議論だとご理解願います。

国会は、言論のです。そして、国家の予算は、これからの日本をどのように運営していくのかを左右するとても大切なものです。

少数とはいえ国政政党である曙新党の議員が、予算委員会でも本会議でも予算に関し議論する機会がないというのは、国民の目にはどううつるとお思いですか? 我々に一票を投じて下さったみなさんも、納得されないと思います。

短時間でもいいです。短時間でもいいですから・・国会本会議で、質問の時間を頂けないでしょうか」

五木は、珍しく顔を紅潮こうちょうさせながら、早口でまくし立てた。

「・・・・」

しばらくして、井上が静かに口を開いた。

「自立党のわくを、少しだけ曙新党にゆずることにします。ただし、です。それ以上は無理です」

「分かりました。ご配慮頂き、ありがとうございます」

五木は、5分という短い時間に納得できない気持ちはあったが、その事をおくびにも出さずに頭を下げその場をした。

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