令和の曙ー政権交代ー

はじめに

テレビをつけると、衆議院解散総選挙の開票速報を放映（ほうえい）していた。

「いよいよ、衆議院解散総選挙 当日になりました」

進行を担（にな）うアナウンサーの横には、コメンテーターと言われる人たちが並び、今回の選挙に関する政権与党や野党の動き、政策などについてコメントしていた。

「今回の選挙に至（いた）る前には、かつての新党ブームのように、政権与党の責任党や野党第一党の自立党から多くの離党者が出て、新自党、一新党、有志党という新たな政党が立ち上がりました。それに伴い、他党からも離脱者が続出し、多党林立（たとうりんりつ）で混沌（こんとん）とした政情（せいじょう）になっています。

与党が過半数割れをするのか？ 野党共闘（きょうとう）で政権交代が起きるのか？ 今回の選挙結果が、大変 注目されるところです」

アナウンサーの言葉が終わるか終わらないうちに、与党寄りの発言をするコメンテーターが話し始めた。

「日本公共放送の調査では『責任党の支持率が下がってきているとはいえ、20%代をキープしています。

一方、野党の政党支持率は、変動はありますが12%〜0.5%です。

『消費税減税』で一部の野党が共闘していますが、政権交代が起きるまでの大きな動きにはならないのではないでしょうか」

すると、いつも冷静な物言いで知られるコメンテーターが、

「政党支持率調査は、調査の方法やタイミングによって変動がありますので、一つの参考としてみるものだと私は考えています。

現に、新聞社が調査した政党支持率が、新聞社によって10％前後異なることはよくあります。

今、政権与党である責任党の支持率が下がっているのは、30年間 日本経済が停滞（ていたい）し 不況が続く中で、物価が高騰（こうとう）し、実感として生活が苦しくなっている国民が多くなっていることが背景（はいけい）にあると思います。

また、昨年、高知県室戸市で大きな地震が起こりました。しかし、一年以上経（た）っても被災地の復興（ふっこう）が殆（ほとん）ど進んでおらず、日本政府から見放（みはな）されたように感じている人が多いのではないでしょうか。

一方、責任党の約４分の１の議員に『裏金を受けとった疑惑』があるものの、一部の議員が逮捕されただけで、根本的な原因は殆（ほとんど）ど解明（かいめい）されず、有耶無耶（うやむや）になったままです。

あれやこれやで、国民の政治不信に繋（つな）がっているのだと思います。

選挙関連情報に特化した報道社『選挙ジャーナル』の政党支持率を見てみると、『支持政党なし』の人が全体の40%以上もいます。これらの人が政権与党以外に投票すれば、『政権交代』は十分可能性があるのではないでしょうか。今回の選挙は、『これまでの政治が問われている選挙』と言っても過言（かごん）ではないと思います」

話が終わるや否（いな）や、ピンポンという大きな音とともにアナウンスが聞こえてきた。

〔今、青森２区で『当選確実』が出ました‥〕

投票が締（し）め切られてから殆ど時間が経過していないが、『当選確実』のアナウンスがされた。

ー毎度のことだが・・・

開票が未だ終わっていないだろうに、『なぜこんなに早く結果が分かるのか』いつも不思議（ふしぎ）に思う。

どちらにしろ、自分が躍進（やくしん）して欲しいと思っている『曙新党』の候補者は、当選するとしたら比例代表で選ばれるだろうから、詳細（しょうさい）が分かるのは明日朝になるに違いない。

今夜はテレビを消して、早めに寝ることにしようー

玄関の入り口を入ると4.5畳ほどのキッチンがあり、その横にはトイレとユニットバスへの扉（とびら）がある。キッチンの奥は、６畳一間の和室である。和室は、奥にベッド、その横にテレビがあり、反対の壁に本棚と洋服がけラックがあるだけの簡素（かんそ）な部屋であった。

明かりが消えると、部屋は物音ひとつしない静寂（せいじゃく）に包（つつ）まれた‥。