第34話 先生への謝罪

その日の夜は中々、寝付けなかった。傷も痛むし思うように身体も動かせない。そして何より喉が渇く。何回も目が覚めた。病棟はWi-Fiがないため携帯で暇つぶしも出来ない。ひたすら時間が過ぎて行くのを待った。


ようやくウトウトできたと思ったら朝が来た。喉が渇いて仕方ないので看護師さんにお水を飲むことが出来るか聞くと先生の確認待ちだと言われた。そこからまた時間が過ぎるのを待った。



先生が私の所に来てくれたのはお昼前だった。相変わらず無表情で淡々としていた。

先生の顔を見たら色んな感情がブワッと出て来た。


「先生、勝手ばかりしてすいませんでした。」


私は何よりも先に謝った。自分で診察の予定を変えたり、出血したにも関わらず家に帰してくれと頼んだり申し訳ない気持ちで一杯だった。


「もう、過ぎた事なので。」


先生はそう言ってくれた。




先生、もし昨日何か予定が入ってて潰れたのならごめんなさい。旦那の余計な一言が気になり私は心の中で謝った。



やっと水を飲む許可が下りた。久しぶりに飲んだ水はとても美味しくてボロボロの身体が生き返った。


そこから何時間かするとNICUの先生が来て子供の状況を説明してくれた。先生や看護師さん達が付いていてくれるとはいえ不安だ。説明には軽度新生児仮死状態とあった。生れて直ぐに泣き声が聞こえなかったのはそう言う事だったのか。

説明だけ受けると不安が募ってしまうがきっと現実を見ても不安にはなるだろう。

昨日の旦那の子供の動画を観るだけでも苦しかった。


「今日、見に行けたら後でNICUに行きましょう。」

と看護師さんが言ってくれた。会いたいけど会いたくない。複雑な心境だった。


余談だけど、お世話をしてくれた助産師さんが、私が大出血を起こした後の処置室に入って片付けをしたらしいのだが「殺人現場みたいだった」と言っていて、改めてゾッとした。



まだ体を起こしたりするのもやっとの状態なので、看護師さんが車イスに乗せて連れて行ってくれた。

NICUは今まで私は経験した事のない空気が流れていた。保育器に入ってる赤ちゃん、コットに寝てる赤ちゃん、全部で合わせて10人位居たのだろうか。

NICUの規定で、他のお子さんの詮索をしないというのがあり、覗いたりする事なんかも禁止されている。


NICUに居る親は皆、自分の子供だけを必死で見守っているのだ。


入口入って右側の手前から二番目。小さい赤ちゃんが保育器の中で寝ていた。

管に繋がれて酸素吸引器が取れない様に固定されているので顔がよく見えない。大きなオムツに毛がたくさん生えた背中が可愛かった。

お母さんのお腹の中に居る様な感じでうつぶせで丸まっていた。

この子はこの保育器を私のお腹の中だと思っているのだろうか。そう思うと胸が締め付けられそうになった。






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