第17話 間違った方向へ

妊娠24週の妊婦検診でもまだ胎盤の位置が低いと言われた。私は先生が脅しをかけているのではないかと思っていた。

「このままだと、管理入院が必要になって来ますのでそれまでに身の回りの体制を整えておいた方がいいと思います。」

と無表情で淡々と説明された。

「上の子が居るので難しい時はどうすればいいのですか?」

私は「入院なんて出来ないよ」という雰囲気を出し遠回しに聞いてみた。

「それでは助産師と相談してください。」

と女医さんは表情を一つも変えずに慣れた感じで答えた。きっと今までも私の様な人が居たのだろう。


先生の受診を終えて助産師さんとの面談に入った。

「あの、うちは自営業で旦那がほぼ一人で営業しているので私が入院すると子供を見てくれる人が居ないんですが。」


「自治体の保健師さんとは話しました?」

「はい。でも私のライフスタイルと合うサービスが無くて、保健師さんからもいい提案が出来ずに申し訳ないって言われました。」

「ああ…そうなんですね。」

助産師さんは困った顔をしていた。

「あの、入院って絶対にしないといけないんですか?自宅安静じゃだめなんですか?」

「自宅で安静って言っても何かしらで動いちゃうでしょ?上のお子さんだってまだ小さいし。やっぱり入院してもらった方が安心だから。」

それは分かっている。けれど上の子の時も同じ前置胎盤でしかも警告出血があったのに35週以降に胎盤が上がって普通分娩出来る様になったんだから入院までする必要は無い気がする。私はモヤモヤと考えていた。


「あの、児童養護施設に入れる事出来ます?」


福祉センターに相談しに行った時、最後に私が「児童養護施設になる」と言った事に対して保健師さんが否定しなかった事を思い出した。


その頃の私は深く考える事を放棄していた。ニュースで母親が小さい子供を道連れに無理心中をしたと言うのを見た事がある。この選択は絶対に間違えてるのだけども、その時のお母さんはそうする事が正しいと思ったのだろう。恐らくその時の私の思考回路は、このお母さんの思考回路に近かったのではないだろうか。


冷静に考えればそんな児童養護施設なんて選択肢が出て来る事なんてあり得ないのにもう限界に近かったのかもしれない。

高齢で二人目の妊娠。嬉しいはずなんだけども、私が前置胎盤になってしまったせいで管理入院になるかもしれないという焦り。大きなお腹を抱えて仕事に家事にワンオペ育児にと身体もだいぶ疲れていた。


「それは保健師さんが言ったの?」

助産師さんは少し驚いていた。

「はい。そんな感じの事言ってました。」

私はそんな助産師さんを見ても思考回路は停止したままだった。

「あの、みとしろさん。私が区の福祉センターにお話ししますのでもう一度相談されてみてはいかがですか?」

そう言われてとりあえず「はい。」と答えた。


悪阻はだいぶん落ち着いて来たのだが食欲は無かった。

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