第12話 旦那に求めるモノ


 「ねえ、もし胎盤が低いまんまだったら32週で管理入院になるかもしれないんだって。」

私は気が重いけど旦那に伝えた。

「ええー。マジで…。どうすんの?俺、店そんなに休めないんだけど。」

この旦那は私の身体より店の営業の方が気になる様だ。

「そんな事言っても仕方なくない?まだ時間あるからどうにかなるよ。前回も散々、騒いで胎盤が上がって普通分娩できるまでになったんだから大丈夫だよ。」

私は落ち着いて答えた。


恐らくうちの旦那は発達グレーだ。一つの事に集中してしまうと他が見えなくなる。私が2か月も入院してしまったら仕事をしながら育児しないといけないのだが、多分、旦那のキャパシティでは無理だ。

もし私が入院したなら子供が保育園に行ってる時間での営業になる。

ランチ営業からアイドルタイムなしでの18時閉店で、延長保育を利用する流れが一番いいだろう。日、祝は営業は休み。

売り上げがいい夜の営業が出来ないとなると相当痛手だけど仕方ない。それに子供が熱なんか出した日も店の営業は出来ない。そうなると予約が取れなくなってしまう。こんな不安定な営業がもし1か月以上も続いたらお客さんは離れて行き、売り上げは減少するだろう。この物価高の今の時代、経営は立ち行かなくなってもおかしくない。


この時だけは旦那が自営業ではなくて、普通のサラリーマンだったらよかったのになあと思ってしまった。


私の父親は私が生れてから一度もきちんと働いた事が無かった。

始めた仕事は何だかんだ文句を言ってすぐ辞めた。印象に残ってるのは弁当屋でバイトを始めた時に、朝の5時に家を出なくてはいけなかった。母親はフルタイムで仕事をしていたのだが、わざわざ父に合わせて4時頃起き、父を起こしてご飯を用意してあげた。母はそこまで準備してあげるとまた布団に戻った。

 その日、私と妹が朝、起きて来たら「明日は早い」と言っていた父がまだ居たのだ。

「あれ?今日はお仕事だったんじゃないの?」

と聞くと父は不機嫌な顔で

「今日は俺が朝早く仕事に行かなきゃいけないのに、お母さんがいってらっしゃいも言わずに寝たから行く気が失せた。俺が仕事行くっていうのにどういう神経してるんだ。」

とブツブツと文句を言っていた。。

その時、私はまだ小学生だったので、どういう事なのかハッキリとは分からなかったが母を見るとちょっと俯き加減にボンヤリとしていた。

父と母は私が中学に上がる時点で離婚した。子供心ながらに本当にどうしようもない男だなというのは分かっていた。

小学校を卒業する時に皆から集めたお金を車の中に置いてたら盗まれたと言っていたのを覚えているが多分コイツが盗ったのだろうと何となく分かった。

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