第37話 登校初日の昼



 ◆◇◆◇◆◇



 アカデミーの授業は基本的に午前中に集中している。

 これは学生達が自主練やクエストなどを行う時間を確保できるようにするための措置だ。

 今年のカリキュラムを見る限りでは、必修科目は全て午前中で、選択科目の大半は午後に授業が行われる予定らしい。

 まぁ、選択科目は必修科目よりも厳格ではない上に実習も多いので、スケジュールが変動することは珍しくない。

 とはいえ、流石に入学して初回の授業が予定通りに行われないということはないのだが。



「あー、疲れたぜ……」



 食堂の一角のテーブルに大男が突っ伏している。

 図体がデカい所為で小さな山みたいになっていた。



「ローガン。初回の授業から終盤寝てたのに疲れたのか?」


「あぁ……頭を働かせるのは苦手だからな」



 明るいオレンジ色の短髪がよく目立つローガン・バルバディスが、額をテーブルに付けたまま唸っている。

 物理試験枠で特進クラスに合格したローガンだが、彼は筋骨隆々の身体付きをした見た目通り、頭脳労働よりも肉体労働の方が得意なタイプだ。

 ある意味では期待を裏切らないキャラだが、実際のところローガンの地頭は決して悪くはない。

 単に当人の向き不向きの問題なのだが、こればっかりはキッカケでもない限り改善されることはないだろう。



「分かります、分かります。頭で考えるよりも身体を動かす方が楽ですから」


「フレイヤのそれは、また別のことのような気がするんだが……」



 一緒に昼食を摂っていたフレイヤがローガンの発言に同意するようなことを言っているが、たぶん意味が違うと思う。

 ローガンは頭脳労働が苦手で、フレイヤは頭脳労働が面倒という違いだな。



「まぁ、それでもバルバディス君もフレイヤさんも物理試験の合格枠だから実技試験の成績で挽回できるから良いじゃない。私は全てを満遍なくこなさないと翌年もSクラスというのは無理だわ」



 ローガンとフレイヤ同様に午前最後の授業である選択科目の〈近接戦闘〉を履修しており、そのままの流れで昼食を摂っていたディアドラが嘆くように言うが、あれだけ身体が動くなら十分だと思うのだが。

 〈成長〉の力を操る応用でほぼノーコストで自らの身体能力を一時的に増大させられるのは狡いと思う。



「女子の中で3位だったプランティルさんの発言とは思えないな」


「確かにそうですよねー。戦士系ジョブじゃないのが不思議なくらいです」



 ローガンもフレイヤも俺と同意見らしい。

 今日は初回というわけで、〈近接戦闘〉の授業では男女に分かれて武器と魔法抜きの素手による総当たり戦を行なった。

 その結果、現時点での女子の1位はフレイヤで、ディアドラは3位であることが分かった。

 なお、男子は1位クアン、2位ローガン、3位アンリという順番だ。

 やはり、幼少期から槍術以外の武術も最低限修めているクアンは素手でも強いし、ローガンの筋骨隆々な巨体はシンプルに強い。

 まぁ、2人に負けはしたが、近接格闘戦に手応えを感じたので、今後の頑張り次第といったところか。


 ちなみにクアンも昼食に誘ったが、先約があったため此処にはいない。

 クアンが言う先約の相手は、たぶん1学年上の婚約者のことだろう。

 婚約者との時間を邪魔するつもりはないので快く見送った。

 また誘ってくれと言っていたので後日誘うとしよう。



「私なんてまだまだよ。その点、リーン皇女様は素手でも強かったわね」


「そうですね。私も何度かイイのを喰らっちゃいました。流石はベルディア皇家です」


「それでも勝ったじゃないか」


「まぁ、そこは意地といいますか、得意分野ですからね」



 ゲームと同じならば、女主人公であるフレイヤの固有能力は【万能】のはず。

 この固有能力は文字通り万能なので、個々人の固有能力を除き、フレイヤの頑張り次第では凡ゆる力を習得することが可能だ。

 だから、チートキャラであるリーンに匹敵する力を手に入れることもフレイヤならば十分あり得る。



「皇女様と言えばよ。今朝は驚いたぜ。まさか皇女様が男子と一緒に登校してくるなんて。なぁ、アンリ」


「俺だって驚いたんだがな……」



 今日は入学後初の登校日ということでクラスごとにホームルームが行われた。

 そのため、多くの者達に俺とリーンが一緒に登校してきたところを目撃されることになった。

 当然、クラスメイトである3人にも目撃されている。



「皇女様と何の話をしたんですか?」


「普段どんなことをしてるとか、かな? 俺が平民出なのに入学試験2位だったから気になったみたいだ」



 公には俺が実際は入学試験総合1位だったことは内緒なので表向きの順位を告げておく。

 猫を被っているリーンが、お淑やかな口調でアレコレと俺のことを尋ねてくるから、傍目からは会話が弾んでいるように見えたらしく、行く先々の授業で周りから似たようなことを聞かれていた。

 まぁ、今後のことを考えれば全く関係がないよりはマシ……かもしれない。



「なるほど。アンリから聞きたいことがあるからリーン皇女様は寮の前で待っていたのね」



 リーン本人は忘れ物があるとか言っていたが、ディアドラが言う通りならば本当は俺を待っていたようだ。

 どれだけ俺のことを問い質したかったんだか……。




 

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