第21話 筆記と魔法の試験



 ◆◇◆◇◆◇



 アルダーアカデミーの入学試験が始まった。

 物理、魔法、筆記の3科目の中で最初に行われたのは筆記試験だ。

 出題内容は算術や言語、社会の一般常識といった前世の地球でも扱われる分野から始まり、魔法の知識を問う魔法学、ティアマート大陸の歴史を扱う大陸史、魔導具マジックアイテムや魔導列車といった技術的な内容である魔導技工学など地球にはない学問まで多岐に渡る。

 その出題科目の多様さもあって、2日間ある入学試験の半分は筆記試験に費やされる。


 受験生は受験番号で幾つかの教室に振り分けられてから筆記試験を受けるなど、既視感のある光景が教室内には広がっていた。

 前世の地球人としての記憶の中にある〈イビルミナス〉以外の事を思い出したことを新鮮に感じつつ、筆記試験を淡々とこなしていった。

 入学試験の1日目はそんな感じで特筆することなく終わった。


 事前に予約していた学園都市内のホテルで一夜を過ごしてから2日目の試験に臨む。

 入学試験の後半である今日は、午前は魔法試験、昼食を兼ねた昼休憩を挟んでから午後は物理試験となっている。

 なので、まずは魔法試験だ。

 魔法試験では、総魔力量、魔力制御力、使用可能な魔法属性数とその属性適性、魔法制御力、対魔物戦における魔法戦闘力、の5つが試験項目であり、個々で付けられた採点の総合点にて順位が決まる。

 ちなみに、魔法が全く使えない戦士系ジョブの受験生が受けるのは、総魔力量と魔力制御力の試験のみだ。

 2項目しか受けられないため必然的に魔法試験の成績は底辺になるが、総合成績の評価において不利にならぬよう、物理試験の点数に補正を掛けた上で総合順位が付けられるようになっていた。



「……受験番号666番。総魔力量評価A」



 魔法試験の大半は試験用の各種魔導機器を使って計測されるため、試験官の忖度によって点数が増減することはない。

 詳細な点数は受験生にも試験官にも開示されない代わりに、すぐにその場で評価ランクが明かされる。

 一番高いランクはSランクで、Aランクは2番目にあたるが、試験用の計測機器でSランク評価を受ける受験生はまずいないので、実質的にAランクは最高評価と言っていいだろう。



「受験番号666番。魔力制御力評価A」


「受験番号666番。使用可能属性は水と闇。属性等級は水はBランク、闇は……Sランク」



 魔力制御力の試験の後に行われた魔法属性試験にてSランク評価が出てしまった。

 ゲーム本編中にて、闇属性適性と魔法力の高さだけで合格したとアンリ本人が自嘲していただけはある。

 本来のアンリ以上に魔法力も鍛えているはずなので、ゲーム本編と違って魔法試験の結果だけでも特進クラスであるSクラスに入れるかもしれないな。

 魔法属性適性の試験で一気に周囲の関心を集めてしまったが、ある程度は事前に分かっていたことなので、特に気にすることなく次の試験に進んだ。


 次の魔法制御力を測る試験では、扱える属性魔法を使って空中を飛び回る魔力構造体の仮想ターゲットを効率良く倒せるかを見られる。

 多数の鳥型の魔力構造体を、如何に少ない魔力で、無駄なく、最小の手順で倒せるかを見られるわけだが、多数の敵を纏めて倒すような範囲魔法の使用は禁止されている。

 この最適な魔法を選ぶセンスも採点基準になっていた。



「『闇の多幻晶体ダークプリズム』」



 使い慣れた上級闇魔法を行使すると、出現した闇の結晶体の多数ある鏡面の一部から黒いレーザーを一斉に解き放った。

 同時に放たれた複数のレーザーは、それぞれが1体の魔力鳥を撃ち抜くだけに留まらず、そのまま貫通して2体3体と撃ち抜いてみせた。

 その照射状態を維持したまま結晶体を操作し、魔力鳥が飛び回る空間を薙ぎ払うようにレーザーを縦横無尽に振り回していく。

 その結果、魔法発動から10秒足らずで全50体の魔力鳥を漏れなく撃破してみせた。



「受験番号666番。魔法制御力評価A」



 消費魔力量の多い上級魔法を使ったからか、Sランク評価にはならなかった。

 まぁ、Aランクは取れたから良しとしよう。

 さて、最後の魔法試験である魔法のみを使った対魔物戦に挑むとするか。



「受験番号666番の相手は、トロールだ」



 対戦場に召喚されたのは醜悪な見た目の人型魔物である〈トロール〉だった。

 最後の魔物戦で戦う魔物は受験生によって異なっており、ここまでの他の魔法試験項目の評価に応じて変化する。

 出現する魔物の種類は全部で十数種類いるらしいが、その中でもトロールは高い再生能力を持つため最上位の難易度の魔物なんだとか。

 試験前に集めた情報を振り返りながら、試合開始の合図と共に突進してきたトロールの攻撃を魔法で回避する。



「『影の飛び地シャドウジャンプ』」


「ヴゥオ、アァ?」



 足元の影に包まれる形で短距離転移で目の前から俺が消えたことにトロールが困惑している。

 そんなトロールの背後から攻撃魔法を放った。



「『暗黒死穴ダークホール』」



 放った漆黒の球体がトロールの上半身に触れた瞬間、一気に膨れ上がった黒球によって巨大なトロールの身体の殆どが圧し潰された。

 原形が残っているのは両足のみであり、いくらトロールの再生力が高くてもここまでのダメージを受けていては再生することはできない。

 もっと最小の威力で綺麗に倒すこともできたが、それらの魔法は切り札なので一目があるここで見せたくはなかったため使わなかった。



「受験番号666番。対魔物戦評価S」



 トロールを瞬殺したからか、手段を選んでもSランク評価を貰えた。

 属性等級を除けば、SかAランクしか取っていないし、これは魔法科目の上位3名に入ったかもしれないな。



[アイテム〈死霊悪魔ガミジンの降霊印〉が発動しました]

[対象:トロールの能力を降ろします]

[成功しました]

[スロット2の【跳躍】を削除して【高速再生】が登録されました]



 ついでに地味にレアな魔物であるトロールの能力も手に入れることができた。

 この後の物理試験を前に幸先が良いものだ。



 

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