田舎に帰ったB級冒険者は幼馴染たちに結婚を迫られる

れっこちゃん

プロローグ お姫様ゲーム

 俺、ライル・ドーソンは戸惑っていた。


 田舎に帰ってきたばかりだというのに、いきなりこんな展開に巻き込まれるとは思ってもみなかった。


「ライル〜、私の膝枕はどう? 気持ちいいでしょ?」


 頬に柔らかな微笑みを浮かべ、銀髪の小柄な少女——セラ・ルミナリエが俺の顔を覗き込んでくる。穏やかで優しげな雰囲気を持つ彼女は、俺の幼馴染の中で一番おとなしい性格だ。しかし、それと同時に甘えたがりな一面もあり、こうして無邪気に膝枕を申し出るくらいには大胆なところがある。


「……いや、別に気持ちよさを堪能するつもりはないんだが」


 俺がなんとも言えない表情で呟くと、彼女はくすっと笑い、俺の額にそっと指を這わせる。


「ふふ、そう言いながら力を抜いてる。……こうしてると、昔みたい」

「……昔?」

「うん。私たち、よくこうして遊んでたよね。ライルは疲れるとすぐに座り込んじゃって、私がこうやって膝枕してあげてたの」


 そんなこともあったかもしれない。


 俺たちは幼いころ、毎日のように森で遊んでいた。疲れたら適当な場所に座り込み、草の上に寝転がって空を見上げていたものだ。あの頃と同じように、セラの指先が俺の髪を優しく撫でてくる。その心地よさに、思わず目を閉じそうになった——その瞬間。


「って、ちょっと待ったーっ!?」


 鋭い声が響いた。


「ライルが困ってるでしょ! 早くやめなさいよ!」


 俺の横で、拳を握りしめて怒るのは黒髪の少女、ノエル・ヴァルカス。彼女は俺たちの中でも特に勝ち気な性格で、面倒見がよく、どこか姉のような立ち位置にいる。だが、こういった状況になるとすぐに顔を真っ赤にしてしまうのが彼女の特徴だった。


「別に困ってるわけじゃ……」

「困ってるのよ、絶対! ライルが嫌がってるのがわからないの!? そんなことされたら……その……」


 ノエルは顔を逸らしながら、恥ずかしそうに言葉を詰まらせた。


「え〜? 女の子に膝枕されて喜ばない男なんている?」


 セラは、楽しそうに俺の髪を指でくるくると弄びながら微笑む。


「そ、そんなライルはいません! どこにもいません!」「……どんなライルだよ」


 俺は呆れながらノエルを見たが、彼女は目を逸らしてぷいっとそっぽを向いた。


「まあまあ、いいじゃない。これはゲームなんだから♪ さっさと次に進もうよ」


 そう軽やかに提案してきたのは、金髪の少女、マリー・ハーヴェスト。

 この村の名家の娘で、いわゆるお嬢様というやつだ。明るく行動力があり、人を引っ張るのが得意なタイプ。だが、突飛なアイデアを思いついては周囲を巻き込むことが多い。今日のこれも、間違いなく彼女の発案によるものだろう。


「さて、仕切り直しましょうか」


 セラが満足げに身を起こし、俺はようやく自由の身になった。

 ——そう、俺たちは今、『お姫様ゲーム』 をしているのだ。


 この村で昔から遊ばれてきた伝統的なゲーム。四枚の札のうち、一枚だけが「お姫様」で、残りは「王子様」。お姫様になった者は、王子たちに好きなお願いをすることができるのだ。

 変な伝統を残すなバカと言いたくなる。

 この村で昔から遊ばれてきた伝統的なゲーム。四枚の札のうち、一枚だけが「お姫様」で、残りは「王子様」。お姫様になった者は、王子たちに好きなお願いをすることができる。


「お姫様ゲームなんて久しぶりだね」


 セラが、札を軽く指先でなぞりながら微笑む。


「はぁ……こんな子供じみた遊び、まだやるんだ?」


 腕を組みながら、ノエルは呆れたような表情を見せる。言葉とは裏腹に、彼女の手の中にはしっかりと札が握られている。


「まあまあ、そう言わずに」


 俺は苦笑しつつ、手のひらにある札を見下ろした。


「はいはいお喋りは終わり、真剣勝負はまだ続きますからねっ!」

「真剣勝負なのか」

「じゃあ、一斉に開きますわよー?」


 マリーが声を上げる。俺たちは一斉に札を開いた。

 ……俺の札には、王冠の印がなかった。


「やりました、私がお姫様ですわ!」


 マリーが嬉しそうに手を叩く。

 その瞬間、セラの頬が膨らんだ。


「いいなぁ~ねぇ、マリーちゃん変わろうよ」

「ふふ、そのうち順番が回ってきますからお待ちください?♪」

「むぅーそうだね、次頑張る」


 よしよしとセラの頭を撫でるマリー。扱いが分かっていらっしゃる。


「さて……お姫様の命令ですもの、ここは思い切ってロマンティックなことをしてみたいですわね」


 マリーは優雅に微笑み、顎に指を当てながら考え込むと閃いたようだ。


「そうですわ! ここはやはり、恋文を書いていただきます!」

「……は?」


 俺は思わず聞き返してしまう。

 だけど、もっと過敏に反応している奴がいた。


「な、なにそれ!? そんなの、やらなくてもいいでしょ!」


 ノエルはバッと立ち上がり、動揺したようにマリーを見つめる。彼女の頬には、すでにじわりと赤みが差していた。


「せっかくの機会ですもの、楽しまなくてどうしますの?」

「いやいや、なんでラブレターなのよ!」

「だって、恋文を書くって素敵ですもの。昔の貴族は愛を言葉にして贈り合ったと聞きますわ。まさに、お姫様ゲームにふさわしい命令ではなくて?」


 マリーは無邪気に笑う。


「ちょ、ちょっと待って! それを人前で読むの!?」


 ノエルの声が若干裏返る。


「ええ、もちろんですわ♪ でも、それでは物足りませんので、ちょっとしたスパイスを加えますわね」

 

 俺が疑問を口にすると、マリーはさらなる要求を突きつけた。


「一番心に響かなかったラブレターを書いた人には罰ゲームをつけますわ!」

「おいおい、マジか……」


 俺は思わず頭を抱えた。

 マリーが悪戯っぽくウインクする。


「いいね、ルールは?」


 セラが興味深げに尋ねると、マリーは指を一本立てて得意げに笑った。


「簡単よ! 三分以内に書き上げること! そして、一番ときめかなかったラブレターを書いた人は——」


 彼女は一瞬考え込むように顎に手を当てる。

 そして、パッと表情を明るくして、手を叩いた。


「罰ゲームとして、その場で皆にプロポーズしなきゃいけない!」

「「はぁっ!?!?!?」」


 俺とノエルの驚愕の声が見事にハモった。


「お、おい、それは流石に……!」

「ちょっと待ちなさいよ!? 何その無茶苦茶なルール!」


 ノエルが抗議するも、マリーは意気揚々と腕を組んで、うんうんと頷いている。


「だって、ラブレターで勝負するなら、それくらいのリスクがないとつまらないじゃない?」

「いや、リスクがデカすぎるわよ」

「でも、よく考えてみて?」


 マリーがゆっくりとニヤリと笑いながら続ける。

 その視線には、何かを企んでいる気配が滲んでいた。


「負けたらプロポーズしなきゃいけないってことは、逆に言えば、勝てば自分の好きな展開にできるってことよね?」

「それってつまり……?」


 ノエルが眉をひそめる。


「そう、一番素敵なラブレターを書いた人が、ライルにプロポーズさせられるってことですわ♡」


 その瞬間、三人の視線が交錯する。

 セラは「ふふっ」と楽しそうに微笑みながら、俺の顔をじっと覗き込んできた。その無邪気な瞳が、妙に俺を追い詰める。


「ねぇ、ライル、もし負けたら、ちゃんと心を込めてプロポーズしてくれる?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! そもそも俺は負けるつもりは——」

「——ちゃんとプロポーズしてくれるんだよね?♪」


 セラが俺の言葉を遮り、可愛らしい笑顔を浮かべる。

 その一方で、ノエルが腕を組み、ゆっくりと考え込むように目を閉じた。

 そして、数秒後、すぅっと静かに息を吸い込む。


「……なるほど。確かに、負けたら最悪な展開になるけど、勝てば逆にこっちの望む結果にできるってことね」


 その言葉には、もはや最初の戸惑いはなかった。

 むしろ、彼女の瞳には鋭い光が宿っている。


「だったら、私は絶対に負けない……全力で書くからね」


 彼女の決意に、マリーがくすっと笑った。


「うんうん、それくらい気合を入れてくれたほうが、私もやりがいがありますわ!」

「え、お前も参加するの?」

「もちろんですわ! どうしてこんなに面白いゲームに参加しないことがありますの?」

「いやいや……」


 敵が三人になってしまった。


「うふふ、みんな真剣なんだね」


 セラが頬に手を添えながら、心から楽しそうに微笑む。

 だが、その奥には何か別の思惑が隠れている気がしてならない。


 ……ヤバい。


 これはもう単なるゲームじゃない。

 彼女たちは本気だ。

 しかも、それぞれの思惑が違う方向に絡み合って、どこか恐ろしいことになっている気がする。


 俺はゴクリと喉を鳴らした。

 もしかして……俺、詰んでないか?


「田舎に帰ってきただけなのに、なんでこうなったんだ……?」


 ——こうして、俺たちのお姫様ゲームの第二ラウンドが幕を開けたのだった。

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