19.この森に住む人たち(1)

「お肉の準備が出来たわ」

「鉄のナイフも作っておいたぞ」

「二人とも、ありがとう。じゃあ、出発するか」


 お世話になった事がある人たちに渡すお土産の準備が終わると、私たちは家を出た。


「これから会う人はどれくらいいるの?」

「数人で纏まっているグループが五つぐらいある。俺たちが交流しているのはそれくらいだ。本当はもっと数がいるみたいだ」

「そうなんだ」


 数人のグループが五つか。意外と交流している人たちは少ない。この森には五百三十二人の人が住んでいる。それらの人たちを集めれば、きっと立派な村が出来ると思う。


 やっぱり、一か所に集めたほうが利便性が良い。お互いに協力して助け合えるし、人の数は何よりも武器になる。その人たちの力を借りて畑を作ったり、狩りをしたりしたら……きっと生活は豊かになるだろう。


 じゃあ、どうやって人を集めるかを考えないと。ナビを使えば、どこに誰がいて何人いるっていう事は簡単に分かる。後は、バラバラに住んでいる人が一か所に集まって住んでくれるかという事。


 数人ずつのグループに別れて暮しているんだ、大勢の人と一か所に暮す事に抵抗を持っているのかもしれない。それをどうやって一か所に集合して暮していくように話を付けるのかが問題だ。


 とりあえず、これから出会う人たちの人となりを見て、色々と決めて行こう。まず住む人の事を見ないと、何が必要か分からないから。


 そんな事を考えていると、目の前に拠点らしきものが見えてきた。枝を突き立てて屋根を草で覆っただけの建屋と焚火の跡が残っている。その周りには数人の人もいた。


「よぉ」

「おぉ、ロックじゃないか。久しぶりだな」


 ロックが挨拶をすると、その場にいた人が明るい返事をした。すると、周囲に散っていた人たちが集まって来る。


「今日はどうしたんだ?」

「食料が沢山手に入ったんだ。おすそ分けでもしようと思って」

「そうなのか。そいつは助かる」


 ロックが気さくに話しかけると、対応した男性は嬉しそうな声を上げた。


「で、肝心の食料はどこにある?」

「リリア、頼む」

「うん」


 ロックに呼ばれたリリアは手の上に肉と鉄ナイフを出現させた。


「なっ……い、今……急に物が現れたぞ!」

「実はな……リリアにスキルが目覚めたんだ」

「な、なんだって!? スキルがか!?」


 その男性が驚くと、周囲にいた人も驚いた様子だ。


「忌み子にスキルや魔法が目覚めるなんて、知らないぞ」

「それには事情があるんだ」

「そ、そうなのか? ま、まぁ……積もる話もあるだろうから、ちょっと座っていけ」


 男性の誘導に従い、私たちは地べたに座った。すると、視線が私の方に向く。


「新しい子がいるな。それに翼が生えた人種なんて初めて見たぞ」


 そこでようやく、私とアリエルが認識された。ここは自己紹介が必要だ。よし、良い印象を残すぞ。


「はじめまして。最近この森に捨てられたシアです、五歳です」

「そうか、最近この森に来たのか……」


 なんか、しんみりとした雰囲気になった。ここに住む人たちの目が悲しそうに変わって、とても居心地が悪い。こんな小さな子が捨てられたってなると、そんな気持ちにもなるよね。


 もっと、明るい感じで悩みなんてないよ! っていう風に自己紹介をした方が良かったかな。こんな暗い雰囲気にするつもりじゃなかったのに……!


 アリエル、次の自己紹介で明るくして!


「私はアリエルと申します。神様でおられるシア様の担当天使をしています」

「神様? 天使?」


 しょっぱなから神様と天使のネタをぶっこんでくるなー! すっごく、不思議そうな顔をしているからー!


「はい! シア様はこの地にようやく戻られた神様なのですよ。この土地に住む人たちを豊かにする使命を帯びていらっしゃいます」

「は……はぁ……」


 いやいや、そのネタをぶっこむのは早いって! もっと交流を深めてから言った方がいいのに! ほらほら、すっごく不思議そうな顔をしているよ! あー……良い印象を与えるつもりが、なんだか良く分からない印象になってしまった。


「なんだか、面白い子たちだな」

「とても良い子だ」

「そうか、人数が増えて大変じゃないか?」

「いいや、とても助かっている」


 ロックと男性が世間話をしていると、その男性が話題を変える。


「それで、リリアがスキルに目覚めたって……本当か?」

「あぁ、本当だ」

「どんなスキルなんだ?」

「私のスキルは物を沢山保管したり、好きなように出したり入れたりできるよ」

「ほう……そんなスキルを覚えたのか」


 リリアのスキルの話になり、ここに住む人たちは興味津々といった感じだ。それに、どことなく喜んでいるのは気のせいじゃないはずだ。


「スキルを覚えたのはめでたい。スキルがあるんだ、村や町に戻るのか?」


 その言葉に驚かされた。そうか、スキルがあるんだから、もう忌み子じゃない。村や町に行けば、それ相応の対応で生きていくことが出来る。


 じゃあ、リリアは村や町に戻ってしまうの? その事を考えると途端に寂しくなった。リリアを見ていると、リリアも驚いたようだ。


「えっ、そんなつもりはないよ! 全然考えてなかった!」

「でも、俺たちみたいな忌み子じゃないんだ。村や町に戻ったほうがいいんじゃないか? あそこには色んな物があるぞ」

「うっ、確かにそうだけど……今更戻るなんて」


 男性はリリアの身を案じ、村や町に戻ることを推奨した。だけど、リリアは戻りたくないような雰囲気だ。


「もう忌み子じゃないけど、前と同じような態度を取られるのが怖くて……。出来れば、森にいたいな」

「……そうだよな。奴隷みたいに働かされた過去を思い出すと、戻るのは辛いな。悪い、ちょっとお節介を焼いたみたいだ」

「ううん、いいの。それに、これから生活がどんどん良くなっていく予定なの。だから、みんなと協力して生活を豊かなものにしたいの」


 リリアが村や町に戻ることを考えなくて良かった。スキルがあれば普通の人として暮せるけれど、リリアが選んだのはこちらでの暮らし。その期待に応えたい!


「なぁ、なぁ! 俺もスキルを覚えたんだぜ!」

「何!? カイトもか!?」

「俺は職業に着いた」

「職業って言ったら、スキルを覚えた先で貰える称号のようなものじゃないか! 三人とも凄いな! 一体、どうしたんだ!?」


 立て続けに二人もスキルを覚えたことと職業が付いた事を言うと、男性も他の人たちも驚いた様子だった。


「それはな、シアが神様だから俺たちに力を与えてくれたんだ」


 えっ、それ……今ぶっこみますか!? もうちょっと後の方が良くないですか!?

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