第156話 上司ロニーの判断
「ど、どうなっているんだ、こりゃ……」
どうして騎士団の所有する馬車の荷台にエルフが?
それも外見の年齢的にはどう見ても子ども……確か、エルフって成人になるまでの成長スピードは人間とほとんど変わらないけど、老化が緩やか何だっけ?
だからこの子もたぶん見た目通りの年齢でいいはず。
彼女の寝顔を眺めながら、素朴な疑問の答えを探して思考を巡らせる。
「ブラム川を越えてこの森に迷い込んだのか? だとしたら、一体どうやって……」
国内最大の流域面積を誇るブラム川。
少なくとも、この年齢の女の子が泳いで渡りきったということはないだろう。服は濡れていないようだから、もしかすると船を使った可能性もある。
いや、そもそも……警戒厳重なあの森をどうやって抜け出したんだ?
ビシャの森に暮らすエルフたちは、森から外へ出ることを固く禁じられていた。
ご丁寧に川の近くに見張り小屋を建てるくらいだからな。
そう簡単にわたることはできないはず。
「普通に考えたら協力者がいるはずだが……」
周りに人の気配はない。
というか、そもそもなぜ彼女はビシャの森から脱走を?
エルフの森といえば平和の象徴みたいなイメージを抱いていた。
ちょっと前まで、リンドレーはそれと真逆で石を投げたら悪党に当たるレベルでひどかったからなぁ。
するとここでエルフ少女に動きが。
「うぅん……」
こちらの苦悩などまるで関係ないとばかりに寝返りをうつエルフ少女。
しかし、まいったな……遺失物管理課のマニュアルに落とし物がエルフだったケースは想定されていなかった。
まあ、こういう場合は臨機応変な対応が求められるのだろうけど、いつも決まりきったことしかしていない俺にそんなアドリブはきかない。
「まいったなぁ……」
この短時間のうちにどれだけのため息が出たか。
それくらい、今俺が直面しているのは由々しき事態なのだ。
前世で暮らしていた現代日本だったら、まず上司に相談するという選択肢が浮かぶ。
俺の場合は……ロニーか。
連絡用に持ち歩いている小型の水晶を使って早速ロニーへこの非常事態を報告しようとする――が、その時、恐れていた事態が発生。
「あぅ……?」
このタイミングでエルフ少女が目を覚まし、さらにロニーとの通信が可能となった。
『レイジ? あなたが仕事中に連絡をしてくるなんて珍しいじゃない』
「いや、実はトラブっちゃって」
『トラブル? 回収任務中に?』
「あぁ、それで――」
「パパ?」
「っ!?」
寝ぼけているのか、エルフ少女は俺を父親と勘違いしているらしく、背中に覆いかぶさるように乗っかってきた。
『ねぇ、ちょっと……今、女の子の声でパパって聞こえた気がしたんだけど?』
「気のせいだ。確かにこの場には俺の他にもいるにはいるが、誓ってパパなんてことは――」
「えへへ~。パパだ~。やっと会えたよ~」
「ごふっ!?」
誤魔化しながらエルフ少女を引きはがしにかかるが……これがいけなかった。
未だに寝ぼけている少女は前方に回り込むとそのままタックルするような形で俺の腹部に顔をうずめる。
『だ、大丈夫なの? なんか鈍い音がしたけど……』
「問題ない――」
「パパ大好き~」
「ちょっ!?」
『……は?』
甘えるような声で頭を擦りつけるエルフ少女。
それは対照的に水晶を通して聞こえるロニーの声は完全にキレていた。
『あんた……仕事中に一体何を……』
「誤解だ、ロニー。とりあえず落ち着いてくれ」
くそっ!
こうなると分かっていたなら映像の見える大きな水晶を持ってきたというのに!
とにかく、ここは真実を告げて早期解決を目指すしかない。
「今俺はエルフ族の少女といるんだ」
『嘘をつくならもうちょっとマシなものにしなさいよ。ここから一番近いエルフ族の国といえばビシャの森だけど、あそこのエルフが勝手に森を出るわけないでしょう』
「だから俺も困惑しているんだよ」
『……本当なの?』
「当たり前だ。こんなしょうもない嘘をつくかよ」
エルフ少女は二度寝してしまったようなので、ここからは冷静な話し合いができそうだ。
「五番隊の乗っていた馬車の荷台で、十歳ほどのエルフ族の少女が寝ていたんだ。さっき君の言ったビシャの森からも近いから、恐らくそこから来たと思われる」
『十中八九そうなのでしょうけど……なぜ森を出たのかしら』
「俺もそれが気になっていた。起こしたらすぐに事情を聞こうと思う。――けど、問題は事情を聞いたあとだ。そのまま彼女を帰しても大丈夫そうか?」
不法入国からの強制送還って形をとるんだろうが、そうなるとビシャの森と連絡を取る必要がある。
これが正常に国交を結んでいる隣国ならば、俺がこのまま国境線まで送り届けるってこともできるんだが……エルフの場合は少々事情が異なるからな。
俺の独断だけでは動けない。
『私はすぐにこの件を騎士団長へ知らせ、今後の対応に関して指示をもらってくるわ』
「なら、俺は彼女のそばにいるよ」
『えぇ、お願い』
そこで通信は終了。
しかし、大変なことになってしまったな。
とりあえず、この子を起こして詳しい事情を聞く必要があるだろう。
……どうか、変なトラブルを持ち込むようなことがありませんように。
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