狐の唄

長月将

プロローグ

 

 意識が遠くなりそうだった。

 呼吸は荒く、体がふらふらする。立っているのもやっと。

 もう間もなく終わりが訪れようとしていた。

 そんな中、思い出すのは、あの日、彼と過ごした日々。

 前を見つめる。いつの間にか私の前に彼の影が立っていた。

 彼が私の前を走る。ふらふらとした足取りで、彼の影を追いかけた。

 好きになった男の子。好きになるべきではなかった男の子。でもこの想いを抑えることが出来ない。

 彼が遠くなる。どんどんと遠くなる。

 彼の影との距離が離れていく。

 そして彼が見えなくなった。

 私は立ち尽くした。


 ――いつの間にか大きな木の前にいるのに気付いた。


 その場で蹲る。

 もう体は氷のように重く言う事が聞かず、瞼も重くなった。

 意識が途切れそうになる。

 そんな時だった。


『あなたはもう間もなく寿命を迎えようとしています』


 声が聞こえてきた。


『最後にあなたの願いを叶えましょう』


 願い、私の願い……。

 私の願いは、ただ一つだった。

 私は願った。


 どうか……――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る