幕間 仏滅神殺の三つ巴―白兵―
続き
メイン視点は【粉擬】。
因みに、1階〜2階及び2階〜3階の間は実は高さ10mあるんすよ。其れ以上は普通に天井はそこ迄高く無い
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エントランスでは、【手取り足取り】と【イゴーロナク】のぶつかり合いに【粉擬】等三人が介入する様な形で戦闘が継続していた。
時折、吹き抜けから【蘇芳】の狙撃する銃声が頭上で鳴り響き、足元では【手取り足取り】へと向かって蠕動する【管理番号:2091】の流れに足を取られそうになるも、幸いと云うべきか捕食よりも合流を目的としている様で、集られて装備諸共貪られる事は無いが、這い回られる事が不快な事に変わりは無い。
其れでも彼等がいるエントランスが死地である事に代わりなく、【イゴーロナク】自身の巨躯から繰り出される拳や口、蹴りや、《イブン=グハジの眼》によって可視化された【霊的構造体】となって作成された【異形の眷属】の攻撃や【イゴーロナクの付属手】の乱打、そして【手取り足取り】の四肢の簒奪と云う結果を強制する多腕による掴み掛かりや、数珠繋ぎとなった脚の束による変幻自在の鞭の様な叩き付けや薙ぎ払いは、どれもが一撃で致命傷となり得る脅威として襲い掛かって来る。
更に問題なのは、【手取り足取り】が【管理番号:2091】に展開させた半球状の内部の距離が狂った空間異常領域によって身を守っている事か。
【管理番号:2091】を踏み潰して漏れ出た内臓混じりの生臭い淡い緑青の体液と、残った薄皮で滑りそうになる足を踏ん張り、鎮圧、
時折、損傷や絶命と同時に、捕食して体内に残っていた物体や空間が溢れ出して、地雷の様に近くにいた他の【管理番号:2091】や【イゴーロナク】、そして【粉擬】等三人を襲う。
吹き出た空間が揺らぐ泡沫となって膨れて、慌てて【粉擬】は範囲内から脚を抜いて、横に離れる。
直ぐに縮小する空間は内部の全てを圧縮して、内部諸共消失する。
問答無用の欠損を与え兼ねない地雷に冷や汗を流しながらも前に進む【粉擬】へと、【手取り足取り】の腕の薙ぎ払いに付与された空間の波動する震撃が、少なくとも【粉擬】には回避防御不能の範囲即死攻撃として襲い掛かる。
「《絶空破砕》」
【粉擬】と【手取り足取り】の間に伸びた死臭を伴う
瞬間、揺らぎ迫る空間が罅割れて砕け散る。更に其れだけには留まらず、走る亀裂は【手取り足取り】が掌握し纏う【管理番号:2091】が吐き出し構築した空間異常領域による内部の距離が狂った安全地帯へと波及して、半球状の領域を崩壊させる。
防壁の喪失を察知した【手取り足取り】が、自身の体表を覆う【管理番号:2091】へと再度の展開を思念で命じるが、【管理番号:2091】は空間の放出を行う様子を見せない。
「利害が一致したから、【
其れを無力化する存在がいる以上はやれないよな?」
【猟犬】の言葉通り、【管理番号:2091】は展開した空間異常領域を破壊した【猟犬】を警戒して、再度の展開を躊躇っていた。
何より、そもそもの前提として【管理番号:2091】の保有する空間は、捕食した食料を体内により多く保管して、捕食する食料が存在しない場合の餓死を防ぐ為の手段であり、応用的に其の一部を狩りや護身に使う程度で、本来であれば【手取り足取り】がやらせた様な大規模な空間異常領域の展開は、間違っても行わない。更に云えば、空間量のバランスをしくじれば、其の瞬間に圧死どころか消失する危険が伴う為に、易易と使える訳では無いのだ。
左頬の罅割れを広げて内側から黝い靄を溢れさせながらニヒルに嗤う【猟犬】が左腕に力を込めると、左手を起点に屈折して罅割れた空間の境界を【猟犬】が放つ物と同質の黝い靄が溢れ出しながら奔る。
黝い靄から、本来の物とは違う相容れぬ領域を構築する空間の存在を感知した【管理番号:2091】が、【手取り足取り】の体表で波打つ様に上体を起こして警戒と威嚇の為に身体を揺らす。
が、其れは的外れだと示す様に、黝い靄の一部の吹き出す様な動きと共に、中から高速で飛び出した無数の銃弾が【手取り足取り】の周囲から襲い掛かり、防御行動をしていなかった故に無防備な身体を穿って、【管理番号:2091】や砕けた破片が飛び散る。
『行け』
左腕を振って空間の亀裂への干渉を解除して、半身になって下がり進路を譲った【猟犬】の前を通り過ぎて【粉擬】は駆ける。
「
【蘇芳】の狙撃する隙を作る為に【Dr.アレク】に足止めされていた【イゴーロナク】が足元にあった何かを【付属手】で掴み、【手取り足取り】に向けて投げ付けた。
投擲された何か――【イゴーロナクの従者】が短く声を出すと、皮が千切れ、肉が捻じれ、骨が圧し折れ、臓腑や血管が裂ける水っぽい湿った音と乾いた硬い物が壊れる音の不快な二重奏を響かせながら、襤褸布に包まれた身体を急速に肥大化させて、其の姿を大きく変容させる。
ボコボコと沸騰する液体を包んだ様に激しく波打たせて拡大していく身体から、眼が存在しない穴だけの耳鼻と、主の手にある物に良く似た大きく裂けた口のある小さな頭部が容易く取れて分離する。
最も観測されてきた無頭の巨人の姿とも、先程まで取っていた前傾姿勢の獣じみた印象を受ける退廃した姿とも違う、人型の気配はあれど、其れ等とは掛け離れた姿へと肉体を形成していく。
転落した頭部の断面から太く長い粘液に塗れた蛆や蛭の様なブヨブヨとした触腕が伸びてのたうち回る様に蠢く。
他の二種の姿と同様にブヨブヨとした肥満体の胴からは、肩幅のある両肩から四本二対の贅肉では無く筋肉で肥大化した太い腕が生えて、人間の物と類似した掌には当然の様に醜悪な口が開いて舌なめずりをしている。
腹部が縦に大きく裂ける。開き現れたのは、掌にあった物を拡大した様なヌチャリとした唾液が糸を引く悍ましい赤々とした口内。
襤褸布が完全に破れて張り付いた恰幅の良い身体を支えるに相応しい様に見える脚が左右一対の他に、其の間の臀部に相当する辺りから三本目の脚が後ろ向きに生えていた。
足止めをしていた筈が、逆に足止めされる立場になった【Dr.アレク】は、即座に【眷属】の合間を縫って斧を投擲するが、割り込む様に顕現した【付属手】に阻まれて空中で爆炎を上げて落下する。
吹き抜けから銃声が鳴り響き、【従者】を依代に再度の顕現を果たそうとする【イゴーロナク】の変異途中の不完全な身体を穿ち、赤黒い体液が銃創から噴き出す。
が、直後に【蘇芳】の物とは別の銃声が鳴り響くと、吹き抜けから【蘇芳】を抱き抱えた【脱兎】が飛び出してきた。
『【
『こっちは、【
【蘇芳】を抱き抱えたまま、既に【管理番号:2091】の大部分が【手取り足取り】に集まって露出した床に到達する直前で《被害を逸らす》で落下ダメージを無効化した後に受け身を取って転がる【脱兎】と、苦虫を噛み潰したように顔を顰めて態とらしく笑う【Dr.アレク】が互いにそれぞれ、【想定外の乱入者】及び【【蘇芳】の隠蔽の看破】と、【【イゴーロナク】の未知の行動】を示す暗号を通信越しに伝え合う。
更に、吹き抜けから【蘇芳】と【脱兎】の後を追って飛び降りた、黒い足首迄覆い隠すローブを纏ったガスマスクを着けた人物が四人、床に足から着地すると、開いた右袖の中から滑らせる様に、明らかに長さや形状から考えて収まるとは思えない抜き身の偃月刀を刃先から取り出すと、左手の拳銃と共に【粉擬】等へと無言で襲い掛かる。
【イゴーロナク】はエントランス戦の開幕の仕返しの様に、急速に増大する体重を乗せて上右手の拳を振り下ろして、自身の身体に【管理番号:2091】を集める【手取り足取り】の頭部を殴り付ける。
ガクンと上体ごと頭を下に大きく揺らした【手取り足取り】は、直後に上にのしかかる【イゴーロナク】の巨躯によって上体を床に叩き付けられて押し潰されながらも、【管理番号:2091】を差し向けながら、腕を床に突くのでは無く上に伸ばして両脚で自身の身体を跨ぎ、三本目の脚で足蹴にしてマウントポジションを取る【イゴーロナク】の身体を掴み、押さえ込みの解除と手脚の簒奪を狙う。
【イゴーロナク】は、全身を貪る【管理番号:2091】を無視して殺到する手を四本の腕で振り払うと、一瞬の隙を突いて【手取り足取り】の頸に触腕を巻き付けて、無理矢理自身の胴に開いた大口へと頭部を引き込んでいく。
「「「「………………」」」」
『畜生!!最悪だ、クソったれッ!!』
『おっと、……【猟犬】に同意するね。
取り敢えず、【
「どうすんだ?此れ、作戦破綻してんだろ!?」
『決まっているだろ?
『……そうなるよなぁ〜……』
「最悪想定のサブプラン無しとか正気かよ!?
クソが、聞こえてたか!?【脱兎】、【白瀬】、もう勝手にやるぞ!!」
【蘇芳】と【脱兎】を襲撃しただろう乱入者達の銃弾や偃月刀を回避し捌きながら、隙を見て通話したエントランス組の他二人に碌な案が無い事に、自身よりも余っ程そう云う事態にいるだろうに、コイツ等マジか!?と、【粉擬】は呆れと驚きが思わず声に出す。
尚、当の【粉擬】もぶっちゃけ、今の状況をどうにか出来る代案は一つも無い!!
其れでもやるしかねぇと【脱兎】と【蘇芳】に声を掛けて目の前の乱入者の偃月刀の袈裟斬りを、右腕の【吸衝充填式13型穿杭殻】で弾き、左手で腹部を殴り付ける。
半身になって其れを避けた乱入者の流れる様な回し蹴りを下がって回避した【粉擬】は思考する。
どうも乱入者は【イゴーロナク】とは別陣営らしく、時折【粉擬】等から離れたり、間に入る様に誘導して【従者】や【眷属】、【付属手】からの攻撃の対処をしたり、【手取り足取り】の頭部を喰らおうとする【イゴーロナク】へと拳銃で攻撃している。
「【脱兎】、お前手札は?」
『大分、魔力を消耗したから《魔術》は厳しいね。能力でヘイト稼ぎは出来るだろうけど……』
「この乱戦では危険だな」
『まぁ、【白瀬】を背負って駆け回るよ』
「分かった」
通信の直後に、其の言葉通りに【脱兎】に背負われた【蘇芳】が【FN SCAR-H PR】を構えて【イゴーロナク】へと射撃する姿が視界の端に映る。
元々、【イゴーロナク】に特化した力を付与した銃弾を撃ち込む役目を負って貰っていた以上、対象外の【手取り足取り】や乱入者の対処は難しい。正確には、銃弾其の物のダメージは与えられるが、其れだけでしか無いのだ。
【粉擬】は、【脱兎】も《被害を逸らす》でかなり消耗した以上は、【蘇芳】の補佐以上は難しいと判断する。
(さて、どうするか……?)
【粉擬】には、【
だが、まだ切れない。条件が足りない。
進路を阻む乱入者は、明らかに対人慣れしている。否、恐らくは【粉擬】が完全な異形でも対処出来るだろう実力を持っている事を戦闘の中で感じ取っていた。
先を見れば、上体を無理矢理持ち上げられて胸部や背部に亀裂を走らせながら仰け反らされている【手取り足取り】が、数珠繋ぎになっている下半身の脚を蛸や烏賊の様に広げて、其の一部を鞭の様に撓らせて【イゴーロナク】へと叩き付けている。
ダメージは大して無くても鬱陶しくはあるようで、【イゴーロナク】は頭部を引き摺り込みながらも四本腕で振り払う様な動作をしている。
【蘇芳】が再び発砲する。――【
何故?と【粉擬】は思考の端で思うが、発砲した【蘇芳】は確信を持って吹き抜けの居る何かを追う様に視線を動かす。
そして、通信機越しに【粉擬】は【蘇芳】が口にした
『
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