ためらい3
3月16日、水曜日午後1時51分
俺は三階の仕事場で今日入ってくるはずのブツの連絡を待っていた。
昨日、突然にJFKからのメールでブツを直接に配達するという。
こんなことは珍しい。
大体は、どこかの指定場所での受け渡しが普通だからだ。
ブツの受け渡しには常に危険が伴う。
依頼されたが見つけられなかった他の業者が、横取りや中止を目論ん
だりする場合があるからだ。
最悪、ブツもろとも破壊するやつさえいる。
仁義のないやつはどの世界にもいる。俺は窓から下の道路を見下ろし
た......。
僕は、素早く左右を確認した。
乗ってきた車の側で若い男が右手に何かを持って叫んでいる。
アンはおびえた顔でシートにうずくまっていた。
僕はその男に向かってゆっくりと近づいて行った。
若いがかなり鍛えた体だ。
ただの物取りか、もしそうなら僕の敵ではないだろう。
多分 99%以上の確率で簡単に倒せるだろう。 しかし、至近距離に近づき驚いた。
この男が持っていた武器は音波銃だ。
大きな音波を数ミリの弾口から打ちだす最新型の銃だった。
こいつは物取りなんかではない、大きな組織がこの取引の阻止か商品の横取りのために介入してきたのだ。
この銃の特徴は、一秒間に十発以上の破壊音波を出せることだ。
当たるとその場所は分厚い鉄板でも簡単に穴があく。
口径が大きいと破壊力が小さくなり、小さいと破壊力は大きい。
ほんの少しだが、僕はためらった。
戦の長老の教えを思い出した。 ためらうな、その数秒がミスを招く。
即決、即行動が戦いの基本じゃ。 ここで逃げれば僕の命は 100%助かる。
だがアンは、最悪の場合は殺されるかもしれない。 助けるために戦うのか、いったんここは逃げてから僕の任務を最重要にするのか。
商品を確実に安全に渡すというのが僕の使命だ。
でも......。その時に僕は国にいる妹のひざ小僧が思い浮かんだ。
そして、また、ためらった
。
いや、戦おう、決意した。
右側の上着の袖に隠しているナイフをそっと右手の中へ落とした。
僕は少しほほ笑みながらその男に近づいて行った。
「やあ、どうしたんだい。もしお金なら少しは渡せるよ」
もちろん、こいつは物取りなんかではないと分かっている、だが僕が
まだ油断しているというのをこいつに確認させたかったからだ。
「お金だって......今日のブツを貰いに来たんだよ......例の右手をな」
あと三メートルの所で僕は、右手のナイフを下からフルスイングで相
手の喉に向けて投げた。
やつの発射する破壊音が僕の右肩と右肺を貫いたのは、相手の喉にナ
イフが突き刺さった瞬間と同時だった。
痛みはすぐには来なかった。
きっと銃の口径は小さめだったのだろう。
「リンザリー様、緊急事態です。戦士トミンクが負傷しました。どうし
ましょう」
「え! あれほど最終受け渡しは注意するようにと言っていたのに。す
ぐに応援を呼びなさい。そして一番近い戦士を応援に駆けつけるよう」
「はい、了解しました。戦士が一人ブロンクスにいます。リンザリー様、
大変です。これはかなりの出血になっています。腕時計からの情報だけ
ではどこに負傷しているか不明ですが......。血圧がすごいスピードで落
ちてきています、これはかなり危険な状況です」
「トミンク死ぬな......死ぬな、頼む。お願いだから死なないでくれ。生
きて帰って来て。私との約束を守るんだ!」
僕は、朦朧とした意識の中で、腕時計で本部に連絡を送った。
そして、地面に倒れた。
泣きながらアンが上から僕を見ていた。
肺の中の血が咳と共に吹き出した。
一瞬アンが妹の顔と交差した。僕は微笑んでいた。
「リンザリー様、戦士トミンクの心臓が停止しました、さらに脳波も停 止......あ、あ、残念ですが、今死亡を確認致しました。次のご指示をお 願いします」
「死んだ! うそだ!JS25、心臓が止まっても人間はすぐには死なない。 すぐに蘇生手術をするんだ。早く、救急車を呼べ」
「リンザリー様、もう無理です。早くて五分以内に救急車が到着しても、 その時には脳は蘇生不可能な状態です。そしてさらに現在出血もかなり の量です。次のご指示をお願いします」
「うそだ......どうにかならないのか............トミンク......」
「JS25、すぐに長老達を呼んでくれ。緊急会議だ。それと緊急会議の前 に、ジャンに連絡をしてほんの少しの時間でいいからとても会いたいと伝えて......くれないか」
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