ためらい1
朝六時半には、すでに僕は図書館に着いていた。
できれば一人でラスティ・シティまで行きたかったが、強引な副館長
の指示でアンと行くことになってしまった。
7時30分の約束まで、今日のブツの受け渡しのシーンを何度も頭の
中で繰り返した。
僕は戦士としてはあまり優秀だとは思っていない。
だが優秀ではないという自覚をしている、これが僕の武器であり防具
だ。
常に最悪の状況を予想してそれに対処する方法を事前に考えるしかな
いと思っている。
もし緊急で大事な場面になってから考えてもきっと最善の選択ができ
ない。
それは五人の長老たちにも何度も指摘されていた。
任務不履行にならないように、事前のあらゆる事態を予測しなさいと。
今日の通常配達分も含めた6件のすべての箱を再度検査した7時 29分に
やっとアンは来た。
僕は左手にはめた腕時計を見た。
それは戦士になった時、族長から頂いた最新型の時計だ。
球体を半分に割ってその半分が付いているみたいだ。
そして反射する信号光を操作して任務遂行の最終段階の状況を母国の
指令機関へ送った。
「おはようございます、トニー」
「おはよう、アン。今日も可愛いスカートだね」
「ええ、昨日とはただの色違いに見えるでしょう、でもメーカーも違う
のよ。この方がとても高いのよ。その腕時計変わっているわね、見せて
くれる?」
「ああ、いいよ。ほら角度を変えると時間や日付が浮き上がるんだ。そ してこの光を遮るとほら......ね......母の写真が見えるだろ。横にいるの は妹なんだ」
「へー、凄いのね。あら、可愛い妹さんね。これどこで売っているの?」
「いや、僕は知らないんだ。故郷から出てくる時に知り合いに貰ったか ら。さあ、それより八時になったらすぐに出発したいんだ。早く館内に 入って今日の登録を済ませて来てくれよ。僕はもう済んでいる、車を裏 手に持って行って待っているよ」
ほとんどデート気分のアンをせかしながら、僕は国の指令機関の返事を待った。
2分後に『無事任務完了を祈る』の連絡が来た。
さあ、僕の戦いが始まった。
この国立医学書図書館はホワイトハウスより少し南に位置している。
ラスティ・シティへは以前四つの高速道路があったが今は二つになっている。
その代わりにネオシティには五つの高速道路と二つのモノレールが完成している。
配達に使用する車はもちろん公用車だ。
それも国家重要車両ランク 3 のマーク入りの最新車だ。 現在、車両ランクは 50 に分類されている。
ランク 1 は大統領関係、ランク 2 は軍上層部と上下院議員と州知事、
そしてランク 3 が厚生省つまり医学関係者の専用となっている。
この 3 ランクの車はすべての警察の検問を受け付けない。
つまり万が一、国が非常事態になっても優先順位が上なのでどこでも簡単に
通過できる。
二年前、ロサンゼルスで九十二名の死者が出る毒ガスのテロが起きた。
その時に厚生省の緊急車両が郡警察の検問で二時間以上も足止めされてしまった。
その時の州知事はリコールで失脚、新知事は「命はすべてに優先する」 との公約で緊急医療体制の強化を提案。
すべての救急車両に高価なロボット医師の搭載の義務化などを決定した。
それ以来、厚生省の関係車両はランク 15 から一気に 3 に引き上げら れた。
僕は鼻歌まじりのノー天気なお嬢様を助手席に乗せて出発した。
ラスティ・シティまで370キロメートルだ。
右手にペンタゴンを見た後に、左にはアーリントン墓地が見えてきた。
無 名 戦 士 の 墓
ここ Tomb of the Unknowns だ。
僕は交差点で密かに同じ職業の人々のために黙祷をした。 誰にせよ戦いを終えた戦士に敬意を表している。
僕たちは 395 号線を北上し、95 号(インターステイト 95)のデラウェアターンパイクの高速道路を順調に時速120キロメートルで進んだ。
あらゆる道路の50キロメートルごとに郡警察の自動検問がある。
赤いアーチ状の輪を車が通過した時、その車両が盗難車や犯罪者が乗車している
場合は反応してサイレンが鳴り響く。 もちろん、スピード違反なども同様だ。
だがこのランク 3 の特殊信号を発する車は素通りだ。もし時速190キロメートルで
ぶっ飛ばしてもだ。
さらに200キロメートルごとにある国家警察のロボットによる厳しい検問も、すべて検問員が特殊信号をこの車から受信した瞬間に OK の ランプが点いて素早く素通りができた。
権力とは快適と同義語だとはよく言ったものだ。
僕は、くだらない最近の映画俳優のゴシップをアンから聞きながら、
ブツの受け渡しの色々な場面を繰り返して想像していた。
気を引き締めて行こう。
あの街は危険が多い。
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