第247話 ガラク地方の魔塔第4階層1
ガラク地方の魔塔第3階層にて、ガードナーはじぃっと赤い転移魔法陣を見上げていた。光がどこまで伸びているのか気になったのだ。そもそも天井まですら見えない。ゴドヴァンの視力であれば見えるのだろうか。自分も視力は悪い方でも無いのだが。
「まぁ、どこまで伸びているのやら。魔塔の細かいところは本当に謎だね」
隣に立つクリフォードも上を見て言う。
クリフォードと実戦をともにすることで、また少し強くなれた、とガードナーは思っていた。
(い、いつかご恩返し出来るかな)
ガードナーは端正な顔立ちのクリフォードを見上げ、続いてセニアの方を見て首を傾げた。お似合いの2人に見えるのだが、恋人同士とも少し違うらしい。
「おじ様、大丈夫かしら」
心配そうにセニアが言う。
メイスンが既に先行して第4階層入りしている。 しつこいぐらいにゴドヴァンとルフィナから、勝手なことをしないよう念を押されていたのだが、真剣に聞いている風でもなかった。第2階層での独断専行がよほどいけなかったらしい。
「よし、行こう。執事のやつは大人しくしているかな?」
苦笑いを浮かべてゴドヴァンが告げる。
もし、軍隊であれば勝手な行動が許されないことぐらいはガードナーにも分かった。例えば第7分隊の中では、シェルダンの命令に背くなど絶対に考えられない。
(でも、ここは軍なのかな?)
ガードナーは自身のいる、てんでんばらばらな一団を見て思う。装備から考え方までみんな違うのだ。 集団で動くとなれば似たようなものなのだろうか。
ガードナーは首を傾げるのだった。
「おいっ、行くぞ。グズグズするな」
ゴドヴァンに声をかけられて、ガードナーも慌てて我に返ると転移魔法陣の方へと向かった。
そしてそのままゴドヴァン、ルフィナ、クリフォード、ガードナー、セニアの順番で転移魔法陣に乗る。
「ですから、私があの洞窟を探って参りますと、そう申し上げているのです」
第4階層に入り、視界がはっきりするや、いの一番にメイスンの険しい声が耳に飛び込んできた。
「勝手なことを言うんじゃねぇ!」
ゴドヴァンも怒鳴り返している。
見るからに2人とも、お互いについて苛立っているようだ。 また、メイスンが何か勝手をしたのだろうか。
「どう見ても、あの洞窟が怪しい。となれば、私が先行致します。なに、同じ不手際は致しませんよ」
落ち着き払って、メイスンが言う。
他の面々が呆れ顔だ。今回は勝手なことをしたのではなく、これからしたい、と主張しているらしい。
ガードナーは2人から目を離して、辺りを見回す。
今いるのは小島だ。眼前に1本の道が伸びていて、更に大きな島へと繋がる。島の真ん中には洞窟が大きな口を開けていた。あとは全て海原だ。
(どう見ても、あそこに何かいるんだ)
ガードナーも思った。
だが、途中の一本道も怪しい。左右の海中から襲われては回避するのも容易ではないはずだ。後衛の自分たち3人などは尚更のこと。
「力任せで鈍重なあなたよりも私のほうが素早い」
また、怒りを買うようなことをメイスンが言っている。 ゴドヴァン本人ならずルフィナまでメイスンに指を突きつけて何やら怒っていた。セニアなどはただアワアワしているばかり。
(な、仲間割れ、し、してる場合じゃないのに)
ガードナーは苦笑しているクリフォードの袖を引っ張った。そうこうしている間に魔物が襲ってきたらどうするつもりなのだろうか。
「ん?どうした?ガードナー」
自分の方をわざわざ向いてクリフォードが尋ねてくる。
「ひえええぇっ、申し訳ありません」
ガードナーは切り出した。これはあくまで悲鳴ではない。腰だって抜かしていないのだから。
「いや、何か考えがあるなら言ってご覧」
クリフォードが促してくれる。 話がしやすくて助かる、とガードナーは思った。
「お、俺、水中に、電撃をう、撃ってみます」
ガードナーはクリフォードと水面とを見比べて言う。
一本道も危険があるとしたら、水の中から襲われることだ。
「あぁ、なるほど。それは名案だ。倒せるかどうかはともかく、脅かすなり、怒らすなりで水中から追い出せれば、不意討ちは防げるな」
ウンウンと頷きながらクリフォードが許可してくれたので、ガードナーも嬉しくなった。
詠唱を開始する。 黄色い魔法陣が中空に生じると口論を止めて皆が自分の方を向く。
「みんな、水から離れるんだ。ガードナーが雷を撃つからね。みんなも感電してしまうかもしれない」
クリフォードが自分の代わりに警告してくれた。
皆が慌てて水際から離れて、赤い転移魔法陣の近くに戻る。
「サンダーストーム」
ガードナーは雷雲を生じさせ、自分から見て左側の水面へと飛ばす。 更にもう一度、詠唱して右側の水面にも雷雲を飛ばした。 数秒の間、雷が執拗に水面を叩く。サンダーストームの持続力はいつだって素晴らしい。
「ひ、ひえええぇ」
悲鳴を上げてガードナーは尻餅をつく。
雷雲が力を使い果たして消え去る。プカリプカリと残された水面に、おびただしい数の魚型、エビ型の魔物が浮かび上がってきた。軽く100は下らない数だ。
「お前、この量を1人で全部捌けるのか?素早いなんて言ってたけどよ」
ゴドヴァンがメイスンを睨み付けて問う。ルフィナの眼差しもまた冷ややかだ。
「そ、それは」
青ざめた顔でメイスンが言葉に詰まっていた。
いかにメイスンといえど、100匹以上の魔物から一度に襲われればひとたまりもないだろう。
「分かったら、何にでもかんにでも出しゃばるのはやめろ。あと、ガードナーにも礼を言っとけ。おかげで命拾いしたんだからな」
ゴドヴァンが言い、先頭に立った。
別に礼を言われたくてガードナーもしたわけではない。自分が出来るだけ安全に道を渡りたかったたけだ。
メイスンも分かっているのか。特に礼などは言ってこない。ただ軽く手を振って苦笑いを浮かべてきた。
自分も頭をペコリと1度下げるに留める。
(これぐらいが、き、気を使わなくって、いいや)
メイスンとは第7分隊のときからの付き合いなのだ。
「すごいわね、ガードナー君」
セニアが手放しで褒めてくれた。
ゴドヴァンとメイスンの言い合いを見るたび、心配そうにオロオロしている印象だ。
「め、滅相もないです」
美しい女性となど、ほとんど話したこともない。
ただガードナーは縮こまるばかりである。ただ悲鳴を上げるほどには怖くなかった。
6人で一本道を渡り始める。 完全にはサンダーストームで駆除出来なかった、カッタマントやロットフットという魔物がしばしば襲ってくる。
「こういう手法も取ってくるのね」
ルフィナが額の汗を拭って告げる。負傷したゴドヴァンやセニアの治療に忙しかったのだ。
「第4階層でここまで厳しいのも初めてではありませんか?」
苦笑いを浮かべてクリフォードが言う。
ガードナーなどには分からないことだ。第4階層どころか魔塔上層自体が初めてなのだから。
(こ、こういう1言が、出てくるだけでも、す、すごい人なんだな)
何度も魔塔上層の攻略をしてきた魔術師なのだ、とクリフォードへの尊敬が増すばかりである。 一本道を無事に渡り切った。
ほう、とひとまずガードナーは安堵してしまう。 だが、ゴドヴァンとメイスンが揃って険しい顔をしている。睨みつけているのは洞窟の中だ。 確かに嫌な気配がする。ガードナーもまた他の面々と同様、気を引き締め直すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます