第11話 神楽に下された罰

期末テストも最終日。残り二科目。


北見は過去問をチェックしようと早めに登校した。ドアを開けると、半数程度の席が埋まっていた。皆うつむいて参考書をめくっている。

北見はテスト用の席次ーー前のドアから近い席に座り、窓際に目をやった。


ーー神楽がいない。昨日までは早く来ていたのに。


神楽の席は、窓際の奥。いつの間にか確認していた自分が腹立たしい。


思考を切り替える。

かつて父に言われたことがあるーー「集中するための儀式を持て」と。

北見は、消しゴムに親指の爪を立てた。

その感触が引き金になり、神楽のことが頭からすっと消えていく。


参考書をめくる。


ふらり、と誰かが目の前を通り過ぎた。


思わず目で追うと、白の半袖パーカーにデニムのすらっとした後ろ姿が、途中の机に手をついてふらつきながら窓際に向かっていた。


神楽だ。


誰も顔を上げようとしない。

北見は神楽から目を離せなかった。


ーー体調が悪いのか?


神楽は机に体を預けてぼんやりしている。


テストを受けようと無理して出てきたのかもしれない。自分には関係ない、放っておけばいい。そう思ったがーー


いや、やはり倒れそうな人間を見過ごすことはできない。

神楽の存在は腹立たしいが、それとこれとは別だ。


北見は、ちょうど入ってきた担任に、神楽が体調が悪いようだと伝えた。


担任はクラスメイトたちの間を縫って神楽の席に行った。神楽は口にハンカチを当てながら話している。


担任と神楽はちらっと北見を見る。

北見が目をそらすと、神楽が立ち上がった。

担任に笑顔を向け、頭を下げている。それからカバンを持ち、こちらに歩いてきた。


礼を言われるか。

身構えていたら、神楽が通り過ぎざま足を止め、吐き捨てるように言った。


「オレに関わるな」


ぞっとするほと冷たい声に震えた。感謝されると思って心を緩めていたら、いきなり刺された。

北見の中に怒りが込み上がる。


関わるもなにも、体調が悪そうと担任に伝えただけだ。感謝されないとしても、拒絶されるほどの出来事でもない。

けれど、なんとなく腑に落ちる。


コイツはオレが嫌いなんだ。幸い、こちらもだ。


ふと、別の感覚が北見を襲う。


なんだか、匂いがする。神楽からか?

鼻につくような、少し甘いような……。酔った父がよくこんな風な……


……アルコール?


ピピピ、とスマホが鳴った。そういえば電源を切っていなかった。父親からの着信だ。


北見は慌ててバッグを探る。

なぜか神楽もバッグを探っている。北見が先にスマホを取り出すが、鳴っていなかった。


「あ、はいーー」


神楽がスマホを耳にあてた。低く抑えた声でなにか話しながら教室を出て行く。


ああ、着信音が一緒なのか。


北見は、アルコールの匂いと着信音に、体を締め付けられるような嫌な気配を感じていた。

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