最前線で戦ってたフィジカルチート転生者が合成魔法を手にした件

レルクス

第1話 転生者は竜を討ち、軍を追われた。

「はぁ、魔源竜は討伐したらダメだって伝承があるのに、アイツら聞きやしねえなほんと」


 ――そんな愚痴を吐きながら、深い森の中を進む一人の少年がいた。

 茶髪を短く切りそろえて、『つまらない』という感情を隠しもしない表情。


 体は細身ながらもしっかり鍛えており、シャツと上着、ズボンにブーツと、シンプルなものを揃えている。


「まぁ、伝承は伝承。俺だって確証もねえわけだからなぁ。一説には、この森で質の高い薬草が多く取れる理由は、魔源竜から質の高い魔力が漏れてるからって言われてるけど……」


 少年は、チラッと肩から掛けたカバンを見る。


「いろんなモンスター図鑑を見る限り、『森全体に影響を与えるモンスター』なんて、聞いたことねえしなぁ」


 視線を向けた以上、そこには図鑑が入っているのだろう。

 ……そう、図鑑という、明らかに重い物を入れているにしては、体の軸にブレがなさすぎる。


 少年は細身だが、それでも、戦士としての身体能力は高いようだ。


「しっかし……」


 一枚の紙を取り出す。


 その内容は、『魔源竜討伐』と銘打ったもので、総司令官の名に『ゼフリオン・バルガード』。副官の名が『ガイル・アレスター』となっている。


「ゼフリオン王子の箔付け……か」


 次期国王。とされる男の箔付け。

 ただ……これまでも、少年の働きが、森から持ち帰ってきたものが、貴族の箔付けに使われるなど、珍しいことではなかった。


「……ガイルの奴、自分たちの部隊でやるって言いだして、結局逃げ帰ってきて、それで俺一人に押し付けるって、どんな神経してるんだか。しかも、俺に押し付けるって話なのに、参戦者リストに俺の名前がないってどういう理屈だ。グラニスってちゃんと書いとけよ」


 少年、グラニスはため息をついた。


「ただ、鎧が全く傷ついてなかったのは気になるな。この森で戦い始めて長いけど、魔源竜がいる場所まで潜るのは初めてだし、何か違う部分があるのかねぇ」


 書類をカバンに突っ込んだ。


「さて、そろそろか。ん? ……うっ」


 グラニスは顔をしかめた。


「はぁ、はぁ、なんだ? 体がちょっとおかし――いや、これは、『魔力中毒』か? おかしい、この体でそんなことに……」


 少しずつ呼吸を整えて、森の中を歩いていく。


 少しずつ、少しずつ……ただ、その足取りは、先ほどと比べて重い。


「チッ。なんか思ってたより魔力が濃いな。魔源竜……魔力のみなもとと呼ばれるだけあって、やっぱり魔力は多いらしい」


 何かに気が付いたようで、少年は上を見る。


「……あれって、『竜紋リンゴ』か?」


 牙のような模様が刻まれたリンゴが実っている。


「あれって、凄い量の魔力がある場所にしか実らないはず。魔力が薄い場所に持っていくだけで腐るって話だったか? ナイフは持って……るけど、やめとくか。この体はちょっとした作業に対して不器用すぎる」


 この体は。

 どこか、自分の体に対して、『大きく俯瞰した視点』を持っている言い方だ。


「はぁ、前世だと自炊はしてたし……いや、カップ麺にちょっと野菜を切っていれる程度って自炊って認めてくれるもんかね? まあいいや。そういうことくらいはやってたはずなのに、この体ときたら、器用なことは何もできないからなぁ」


 少し余裕が出てきたのか、グラニスはリンゴを無視して歩く。


「ただ、器用なことは何もできない反面、『莫大な魔力を大雑把に使う』ことは、とても得意。そのせいで、魔法は使えないけど身体強化はすごいってのが、俺の考えだけど……」


 息を吸って、吐く。


 口から体内に流れてくる魔力が、尋常ではないレベルだ。


「……その得意なはずの魔力操作で制御しきれない。まだ少し気分が悪い。なーるほど、アイツらはここに差し掛かった段階で、あまりにも気分が悪くなって逃げたわけか」


 器用なことは何もできない。

 ただ、大量の魔力の制御は得意としている。


 そう客観的に判断したうえで、『この場所』は気分が悪くなる。


 言い換えれば、普通の人間ならば、まず立っていられるかどうか。


「……お、開けた場所がある」


 木々の先に、開けた場所がある。


 草が広範囲にわたって生えており、その奥には……黒紫の鱗で全身を覆った、一体の竜がいる。


「あれが、魔源竜か」


 木々を抜けて、開けた場所に出た時だった。


「すう……うっ、げほっ! ごほっ!」


 開けた場所。


 その場所は特に魔力が濃いのか、グラニスは思わずむせた。


「チッ、あんまりため込んで押し込んでてもラチが開かねぇ。むしろ全力で使いまくるくらいじゃねえとな」


 背中の鞘から、剣を抜き放つ。


 それは……あまりにも、ナマクラだ。


 両手用だろう。それ相応に長いが、刃はかなりボロボロである。


「はぁ、この体。研ぐのもマジで向いてねえからな。ただ……魔力で表面を固めちまえば、倒すのには十分だ」


 刃を魔力が覆っていく。

 かなり密度があるのか、真っ白に発光している。


「……グルッ」


 その光を見て、魔源竜は巨体を起こした。

 全長、十五メートルほどある。

 発達した四肢をしっかり構えて、グラニスを迎える。


「行くぞ!」


 一気に駆け出す。

 重いはずの両手剣を持っているとは思えないほどの絶大なスピード。


 呼吸するたびに体内で破裂しそうなほど荒れ狂う魔力を、全力で使い続けることでコントロールしている。


 そのためか。飛び出す速度は圧倒的だ。


「おらっ!」

「バオオッ!」


 両手剣と爪が衝突する。

 一瞬、動きが止まったが……競り勝ったのは、グラニス!


「だりゃああああっ! さあ、どんどん行こうか!」


 とにかく魔力を大量に使って、大きく動く。


 そうしなければ、体が持たない。


「ん?」


 魔源竜の口に、魔力が集まりだす。


「チッ」


 グラニスは剣に、今までよりも大量の魔力を流し込んだ。

 それをそのまま、振りかぶる。


「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「おりゃああああああああああああああああっ!」


 魔源竜がブレスを放出するとともに、グラニスは両手剣を振りぬいた。

 刃がブレスに衝突し、一瞬、競り合い……グラニスが押し切る!


「バウッ!?」

「ハッハッハ! この体はフィジカルチートでなぁ。しばらく大暴れするから付き合ってくれよ!」


 グラニスは獰猛な笑みを浮かべて、両手剣を振る。

 魔力が斬撃の形になって飛び出し、竜の体を切り裂いた。


「はぁ、まったく、実は前世ではアクションゲームじゃなくてアイテムクラフトゲームが好きだったんです。なんて言っても通用しねえな。ナマクラをフィジカルチートで補ってんだし」


 ため息をつく。

 どうやら、少し余裕が出てきたようだ。


「ははっ、ただ、こうなると楽しくて仕方がねぇ。さあ、どんどん行こうか!」


 両手剣を引き絞るように構えると、一気に突きを放つ。

 切っ先から、火山の噴火のような勢いで、魔力が吹き荒れた。


「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 魔源竜は口からレーザーを放つ。

 だが、グラニスが放った魔力の方が、勢いも、密度も強い。

 そのまま押し切って、顔面にブチあてた。


「ギャオオオオオオオオオオッ!」

「よっしゃあ!」


 全力で地面を踏み抜いて、重い両手剣を手に急接近。

 そのまま、剣に魔力を全力で乗せて……。


「おりゃああああああああああっ!」


 思いっきり振り上げる。

 魔力の本流が斬撃となって魔源竜の体を切り裂き……竜は、静かに倒れた。


「ふぅ……おっ」


 魔源竜の体が塵となって消えていく。


「やっぱり、こいつを倒せるくらいには、魔力を動かせるようになってたか……ん? 周囲の魔力はまだ多いのに、全然気持ちよさがない。魔力中毒を克服したか?」


 グラニスは深呼吸する。

 先ほどまでは思わずむせていたが、今では顔色も普通だ。


「それに、体内で作られる魔力量も多くなってるみたいだ。んー。ちょっと持ってる常識とあわないな。そういう体質なのかね?」


 うーんと首をかしげているが、事実はともかく構造はわからない。

 ただ、強くなったのは、間違いない。


「おっ」


 モンスターを倒すと、何かしらのアイテムを残して、あとは塵になる。


「これが……魔源竜のドロップアイテム。『無限竜核』か」


 黒紫色の球場の物体があとに残された。

 それを拾い上げて……。


「……ん?」


 何か、力を感じる。

 圧倒的な魔力を生み出す根源とも呼べるアイテムであり、何か、脈動を感じる。

 ただし、内側で煮えたぎっている。といったものであり、見た目は静かなものだ。


「悪いな。お前には本当の活用法があるのかもしれないが、俺には無理だ。立場でも、技術でもな」


 折りたたまれた袋をカバンから取り出して突っ込む。


「それにしても、これを何か強力な魔道具のために使うつもりなのかねぇ」


 袋に入れた竜核を見る。


「もともと魔力操作が得意で、その器が大きくなった今も、コレを扱うのは無理だと思うけどなぁ」


 グラニスはため息をつきながらも、森を後にする。

 強くても不器用な彼は、安定した給料が必要だ。


 魔源竜を倒し、無源竜核を渡して、給料をもらわなければならない。


 ★


「グラニス。無源竜核が手に入った今、お前はもう不要だ」


 いつもと同じように、安い給料を押し付けられると思っていたが、今回は違うようだ。

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