残念イケメン勇者さまと愉快な仲間たち
リン
第1話 旅の始まり
「アレンが行くなら僕も行く!」
ふたつにくくったブロンドの長い髪を揺らしながらキッと睨みつけられるが、その低い身長のおかげで上目遣いでおねだりされているようにしか見えなかった。いくら幼い頃から可愛がっているとはいえ、冒険の旅路はそう簡単ではない。しかし、剣を介さないと魔力を扱えない俺にとっては、底なしの魔力を持ち、尚且つ肝が冷えるほどの攻撃魔法や有り余るほどの回復魔法が使えるミカの存在が大きいということも重々承知だった。それに、ミカがちょっとやそっとでは自分の意思を曲げないことも、長い付き合いの中で嫌という程に分かっていた。
「はぁ...分かったよ。」
ぴょんぴょんと跳ね回って喜ぶミカを横目にこれからの旅に思いを馳せていたのが、昨日。
「はい!これで通れるよね。」
舞い上がる砂埃の隙間からみえるのは、空色のくりくりした瞳に、ふわふわ揺れるブロンド。可愛らしい見た目とは裏腹に、軽く放った魔力が目の前を塞いでいた岩を叩き割ったのだ。俺は、懸念し始めた。ミカがいることで、険しくも楽しいはずの冒険の旅が簡単に終わってしまうことを。
「いやあの、ミカさん。」
「何?」
「もうちょっと…冒険っぽく苦労しようぜ。」
「は?苦労なんかしないほうがいいでしょ。」
「それはそうだけど!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く最初の街にたどり着かないと。ほら、行こう?」
「うん…」
冒険を始めて次の日に隣町に着くというのはよくあることなのだろうか。いや、ないだろう。普通、野宿しつつ険しい山道を足に切り傷を作りながら先へ進み、街並みに浮かぶ灯りが見えてきたあたりで「街だ!」なんて浮かれ、久しぶりのベッドに感動したり久しぶりの風呂で湯船を真っ黒にしたりするものではないのか。ところがどうだ。俺は昨日風呂に入ったし、ふかふかのベッドで慣れ親しんだ枕に頭を預け、安眠を貪った。
「アレン、宿はここで良い?」
「あぁ、良いさ。」
とはいえ、可愛いミカを無下にするわけにもいかない。ミカが選んだ宿はとても冒険者が泊まるような煎餅布団や硬い枕などは見る影もなく、シワひとつなくベッドメイクされた寝床と綿あめのように柔らかい枕。それからどこかアンニュイな色で灯るライトが美しいところだった。ゆったりと足を伸ばせる湯船にお湯を張り、当たり前のように置いてあった入浴剤を入れる。白く色づいたお湯にそっと足を付けると、その日の疲れが吹き飛んでいくようだ。肩まで湯船に浸かり、一日を振り返る。村のみんなに見送られて、街に出るため森の中に入った。道無き道にミカが魔法という名の森林伐採で道を作り、その道をひたすら歩いてきた。途中の村で食べ歩いて、また森の中に入って。綺麗な滝を見つけて少しそこで休憩したころには、もうこの街が遠くに見えていた。そこからまた、ミカが作った道を歩いてきた。
「...え、旅行?」
あまりの順調さに、思わず頭を抱えた。浴室の外で、嬉しそうにアメニティを物色するミカがいることなど露ほども知らず。
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