第5話わはは、大人気だ・・・。(白目)

「めっちゃ肩身が狭い・・・。」

生駒の方こと類の部屋の隅っこで、居心地悪そうに座り、ボソッと呟く小吉。


1561年10月、現在類の部屋では、キャッキャッウフフと、美少女2人と美女1人が楽しげに、ガールズトークに華を咲かせており、賑やかな雰囲気を醸し出していた。


大概の男だったら、両手処か三方に華状態に、狂喜乱舞して喜ぶのだろうが、生憎と美少女A=寧々(実姉)・美少女B=松(人妻)・美女=類(人妻)の3人なので、全く嬉しくもない小吉である。


ワンチャン人妻好きなら、大いに喜ぶかも知れないが、流石に実姉の前で口説く猛者は、居ないと思われるので、どっちみち小吉の様に、居心地悪く大人しくしているのが、関の山だろうが。


それはさておき、


この様な事態になった発端は、小吉がノッブこと織田信長から、笛の演奏で銭を巻き上げた事に、端を発していた。


森のオッちゃんが、息子の古着と共に30貫を届けてくれて、恐縮しきりの寧々姉さんは、オッちゃんが帰った後に、姉ちゃんパワーを使って小吉に詰問。


ぺらぺらさえずる小吉の話を聴いた結果、寧々姉さんはとりあえず、切欠きっかけを作ってくれた類さんに、お礼の挨拶をしに行く事となる。


其処で類と邂逅し、同性の気兼ねの無い話相手に飢えていた、類は喜んで寧々を歓待し、最初こそ遠慮がちだった寧々も、生来物怖じするタイプではなく又、話し好きでもあった為、あっという間に打ち解けて、ちょくちょく訪ねる様になり、旦那を通じて親友となった、前田利家の妻・松も引っ張り込み、ワイワイとガールズトークに、自然と華を咲かす事となっていた。


(まぁ、それは良いんだけどね・・・)

ライトな流行話からディープでピロー的トークまで、かしましく賑やかに話す姉達の話を、小吉が左右に聞き流していると、


(ちょっとぉ~お方様!?

今、殿達が大事な話をされていますので、もうちょっと音量を、抑えてくださいませ!)

糸目で穏和そうな顔付きの青年が、困った様な表情をしつつ、隣室の障子を開けて、ヒソヒソと注意する。


「あ、五郎左ごろうざ(丹羽長秀)殿、ごめんなさいね?楽しくなっちゃってつい・・・。」

片手で「ゴメンね?」のポーズをとり、寧々達には口に指を当て、「静かに」と伝える。


類のお茶目な行動に長秀は嘆息すると、スッと障子が静かに閉まり、隣室から討論らしき声が響き始めた。


実は信長が、ちょくちょく生駒屋敷に訪ねていたのは、一応類の見舞いも兼ねているのだが、見舞いと称して、腹心の家臣を供として伴い、家の方針を討議する、謂わば裏の評定の場所であったのだった。


居城では多数の耳目が有るので、機密性に多少の問題があり又、老臣や譜代の者を抜きにすると、「殿は我々を蔑ろにされている!」と、不平不満の元になり、面倒事になりかねない為に、プライベートな用事にかこつけてこっそりと、生駒屋敷で開催している。


小吉が生駒屋敷に、出入りし始めた時は、多忙だったのか無かったのだが、最近は頻繁に開催されていた。


「・・・お方様、殿様って何を話されていらっしゃるのですか?」

声を潜めて寧々が類に問い掛ける。


「・・・う~ん、何でも美濃の国に程近い、殿様にとって従兄弟に当たる、犬山城の信清のぶきよ殿の攻略に、手こずって難儀しているらしくて、美濃攻略が覚束ないとか何とか?」

顎に指を当てて、自信なさげに伝える。


一般的に田楽狭間戦に於いて、今川義元を討った信長は、全国に轟かせた武名を以て、尾張統一を果たしたと思われがちだが、実際には田楽狭間戦後も変わらず、反信長勢力が国内に盤踞ばんきょしており、敵対勢力との抗争に明け暮れていた。


そして戦後から1年を掛けて粗方あらかた討伐した、国内に於ける敵対勢力で、最後の大物が信長の従兄弟で、美濃の国との境にある、犬山城の城主・織田信清である。


義父・斎藤道三さいとうどうさんの敵討ちの大義名分を掲げて、美濃攻略を目指す信長にとって、犬山城の信清の存在は、常に横っ腹を突かれてしまう、邪魔でしょうがない存在であり、信清の排除が喫緊の課題であった。


「・・・へ~そうなんですねぇ。

あ、ねぇ小吉、アンタならどうすんの?」

貝の様に沈黙している弟に、話題を振る。


「え、俺だったら?

姉さん・「な~に?」いえ!奥方様!

又者の俺が考えても、意味無いでござ候!」

寧々の猫なで声を聴いた途端、えもいわれぬ緊張感が走り、背筋を伸ばして謎の言葉遣いで、ハキハキと返事をする小吉。


「例えばの話よ、例えば。

アンタだって武士の子だし、旦那様の家臣なんだから、いずれはそういう立場に、もしかしたら成るかも知れないんだから、思い付いた事を言ってみなさいよ。」

良いから言えと、目線で催促する姉。


「う~ん、とりあえず正面切ってのいくさは、かなりの消耗戦になるから、止めておいた方が良いと思うな。」

「あら、小吉君何で?

信清殿の支配地域は、もう犬山城の周辺しかないって、前の討論で言ってたわよ?」

小首を傾げて尋ねる。


「だからですよお方様。

其処まで支配力が落ちているのに、大殿様が犬山城を攻めあぐねているのが、何よりもですから。」

「兆候ねぇ?それが何か判るの小吉?」

頭上に疑問符を浮かべた。


「先ず間違いなく、美濃・斎藤家の後援バックアップが、織田信清に付いているのは確実です。」

はっきりと言い切る。


「隣国の斎藤家が?何で?」

「俗に言う、「敵の敵は味方」でしょうね。

それに斎藤家にとって観たら、犬山城を大殿様に対する、外部的な防御壁する事で、その間に自国の防衛力強化や、先代・義龍よしたつが不慮の病死で、代替わりしたばかりの新当主・斎藤龍興さいとうたつおきも、基盤固めに専念出来ますし。」

寧々の矢継ぎ早な質問に、スラスラ答えた。


実は約半年前の6月に、「父殺し」の下克上で「美濃のまむし」と謂われた、父・斎藤道三を討つという、非道を以て強引に家督を奪った斎藤義龍が、突如として病死をしており、まだ元服前だった子の龍興が、慌てて家督を継ぐ事態になっていた。


マトモな家督委譲が行われず、急な話で斎藤家がゴタつくと踏んだ信長は、当然「美濃攻略の千載一遇の好機!」とばかりに、積極的な攻勢に出たのだが、初手である犬山城の信清攻略に手こずっており、美濃攻略の入り口にすら、未だ到達していないのである。


余りにもかんばしくない状況をどうにかすべく、連日の様に表裏を問わず評定を開き、打開策を模索している信長であった。


「ねぇねぇ、小吉ちゃん。

じゃあ信清殿の方は、備えだけを置いて無視して、後援している斎藤家を、直接攻撃したら駄目なのかな?」

今まで黙っていた、松が小吉に質問する。


前田利家の妻・松・・・寧々の1歳年下で有りながら2年前、満11歳で子供を出産しているという、金八先生もビックリな超早熟な経産婦であり、寧々にとっては最早、人生の先輩に等しい存在になっていた。


因みに旦那の前田利家は満21歳であり、世が世なら少数の特定の人からは「ロ○の帝王」と尊敬され、圧倒的多数からは、「リアルロ○ータ」・「性獣」と非難され、黒と白のツートンカラーが特徴の特殊車両に乗った、とある公務員さん達に囲まれ、「署まで同行を願います」案件は確実である。


因みの因みにだが、利家と松の間に生まれた嫡男・利長としながも、20歳の時に信長の娘=8歳と結婚しており、親子揃ってローティーンな、嫁さんを貰っていたりする。


世が世なら親子2代に渡って、自宅から所轄の署までを、手錠をしたまま特殊車両で、とある公務員さんと共にパレードをする事になる、筋金入りのロ○コンになる所であった。


それはさておき、


「う~ん・・・多分ですけど、信清を無視して美濃を直接攻撃しても、却って龍興にとってに成るでしょうね。」

「「え?何で殿様から攻撃されている、斎藤家の利益になるの!?」」

意味が解らず、幾つもの疑問符を浮かべる、寧々と松コンビ。


「まぁ、有る意味ソレで大殿様の先代様が道三公に、利をもたらした上に敗れ、義龍に対しても大殿様が負けまくって、美濃攻略に失敗している要因ですからね。

無茶しなければ良いんですけど・・・。」

腕を組んで目をつむり、首を左右に振って溜め息を吐いた。


「うん?アレ?奥方様達、どうしました?」

小吉が目を開けると、寧々達が一様に平伏して畏まっていた。


どうしたん?と疑問符を浮かべた瞬間、ポンポンと優しく肩を叩かれて、不意に叩かれた方をふと観ると、


「・・・おい、小童貴様、中々面白い事を吐かしておるではないか、うん?」

額に青筋をピクピクさせつつ、とっても素で敵な笑顔で中腰になり、小吉に目線を合わせている、第六天魔王ノッブが真横に居た。


「あ、お疲れ様です大殿様。」

前世の常套句となっていた、挨拶を自然に述べて、「致死性の高い動物に出会った」かの如く、引きつった愛想笑いを浮かべ、誤魔化しにかかる。


「・・・さてさて小猿様よ。

亡き六尺五寸197センチ(義龍)に負けまくっていて、美濃攻略に失敗し続けている不覚者の儂に、どうして勝てずに失敗するのかを、ご教授願えるかのう?」

小吉の挨拶を無視し、やたらと丁寧口調で小吉に問い掛ける魔王。


因みに小猿とは、信長が小吉に付けたあだ名であり、「まるで猿の様に、小賢しさを持つ小僧」という、意味で付けられた名である。


その影響か主君の藤吉郎は、ハゲ鼠から猿にあだ名が変わり、「呼び名が鼠から猿に変化したぞ?よっしゃ、信長様の信頼を得た証拠じゃ!」と、無邪気に喜んでいた。


「・・・おい、寧々よ。」

「は!?はははい、な何でしょう殿様!?」

「お前の弟の小猿を、ちょっと借りるぞ?」

「ど、どどうぞどうぞ!煮るなり焼くなり、御自由になさいませ!?」

雲の上の存在に話し掛けられ、あたふたとどもりつつ、実弟を貸し渡す実姉の寧々。


「来い、小猿。」

「ちょっとぉ!?姉さん~?助けて~!?」

魔王に襟首えりくびをがっしりと掴まれて、ズルズルと引きずられていく小吉。


そのまま討論と評定会議中の、隣室の中央まで引きずられて、ポイッと置かれると、


「喜べ皆の者。

この小猿様が、亡き親父殿が蝮殿が負けて、六尺五寸に負け続けて、美濃攻略失敗をしている要因を、有り難くご教授してくださるそうじゃ。

各自、心して聴くようにせよ。」

脇息を前に持って行き、もたれ掛かるに体を預けると、ニヤリと笑って部下に告げる。


「「「「ほほう?」」」」

怒りと殺気走った目で小吉を睨みつける、信長の腹心達。


そんな殺意と敵意に当てられた小吉は、


「エヘッ、エヘエヘヘへ・・・。」

どうにか愛想笑いで乗り切ろうと、無駄な努力をするのであった。


                続く

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