太閤「便乗」立志伝

@iyomatuyama

第1話気が付けば室町時代後期(戦国時代)

(んあ?・・・あれ?オレどうしたんだっけ?・・・確か、○○の建築現場でスラブ(階下の天井・階上の床部分)の棟上げをしてたら、天井部分が崩れ落ちて来て、それから・・・あれ?その後どうしたんだ?

つうか、オレの名前って何だっけ?)

真っ暗な空間の中、必死に記憶を辿って自分の情報を得ようと試みる。


(・・・・・・ダメだ、自分ががきんちょの頃から、両親・祖父母・兄妹・親戚の記憶は有るのに、顔とか名前とかが自分を含めて、サッパリ思い出せねーわ)

もしかして現場事故の怪我の影響で、特殊な記憶障害になったのかと、陰鬱いんうつ暗澹あんたんとした気分になる。


目を開けたくともマトモに開かず、ジタバタともがいてみても、動かした感も無くて、焦りと戸惑いが増していく。


(ヤバい・・・もしかしてオレって、現在進行形で植物状態って奴か!?

イヤだイヤすぎる!ぬおお・・・!どうにか覚醒してくれ、俺のシックスセンス第六感!!)

極度の混乱状態に陥って、恐らく何の役にも立たないと思われる、覚醒を念じる男。


そうこうしていると急に、ウォータースライダーみたいな感覚がしたと思ったら、いきなり光が差す空間にさっと躍り出た。


「オンギャー!!オンギャー!!(な、何だいきなり!?)

ギャーッ!!ギャー!!(あれ、声がマトモに出ないんだけど!?)」

ギャーギャーしか発声出来ない状態に、困惑して戸惑っていると、


「おめでとうございます奥様!

元気いっぱいの男の子ですよ!」

祝福する女性の声が耳に入る。


そしてふわっとした浮遊感がした後、別の場所に自分がくだんの女性に、持ち上げられて移されたと判った途端、


「本当に元気な男の子だ事。

コレで我が杉原家も、2人目の男子に恵まれたから、安堵出来たわ。」

すぐ側から別の女性のホッとした声が、自分の耳朶じだを打った。


「オンギャー!!オンギャー!!(一体全体どうなってんの!?まさか、逆行転生って奴なんかコレは?)

フンギャー!!フンギャー!!(嘘やん!何でこんな事にいぃぃ!?)」

心の底から泣き叫ぶのであった。


8年後・・・


「うう、本当に記憶障害になりてぇ。」

頭を抱えて悪夢に悩む。


良い歳扱いたオッサンの記憶を持つ男が、赤ちゃんプレイをリプレイしたという、暗黒の歴史を封印したいと願う今日この頃、杉原定利すぎはらさだとしの次男・小吉こきちとして、病気もせずにすくすくと成長していた。


家族構成は、

父・定利(婿養子のマス夫)

母・おこい(家付き娘でカカア天下)

兄・大吉(小吉限定のオレ様体質で仲悪し)

姉・奈々(ほんわかな長姉)

姉・寧々(地上最強の姉ちゃん)

自分・小吉

妹・椰々やや(やんちゃな可愛い妹)

の7人家族である。


本来は母・おこいの兄で伯父の家次いえつぐが、杉原家を継ぐ筈だったのに、風変わりな伯父は商人を目指した為に、祖父から廃嫡されてしまい結果、残ったのは姉妹だけになったので、長女だった母が婿を取って家を継ぐ形となるという、かなり変則的な相続をしていた。


そして小吉の生まれた杉原家は、尾張国(愛知県西部)の戦国大名・織田信長の家臣で、弓兵部隊の隊長を勤める、二百石取りの下級武士の家柄である。


それを知った当初は、「うぉぉ・・・ノッブの家臣か!コレって立身出世が、出来ちゃうのちゃうんか?」と喜んだが、杉原家自体の家格が低過ぎてノッブこと、織田信長に会うことも叶わない身であった。


偶然を装って、どうにか面識を得ようとした時期も有ったが、杉原家次女で姉の寧々姉さんに、「殿様って癇癪かんしゃく持ちで有名だから、下手な関わりかたをすれば、バッサリ無礼討ちにされるわよアンタ?」と諭され、スッパリ諦めた小吉であった。


(ハァ~・・・んだよ、只のモブとしてクソ兄貴の予備扱いの部屋住みで、一生を終える人生ってか?

それなら家次伯父さんを見習って、商人でも目指すかね~?)

居丈高に尊大な物言いや、暴力を振るってくる兄・大吉と、何十年も顔を合わす事になる事に、嫌気が差す小吉。


一応、落とし穴に落として泣かしたり、流言をばら撒いて風評被害を与えたりと、しっかりと仕返しはしているが、それはそれ、これはこれである。


そうしてモブ人生を送ると思っていた矢先、とんでもない出来事が発生する。


寧々姉さん(13歳)の、降って湧いた恋愛結婚騒動で有る。


寧々が突如として父・定利に、「紹介したい人が居るの父上!」と言って、伯父の家次と母の妹婿で叔父である、浅野長勝あさのながかつを引き連れて来て、その後にやたらと貧相で小柄な青年が、家を訪れたのである。


恋する乙女の大胆且つ、巧妙な根回しに面食らった定利は、動揺しつつも対応して貧相な青年と対面、済し崩し的に会談となった。


藤吉郎と名乗った青年は、恐縮しきりに寧々との婚姻話を切り出し、ぶりっ子な(小吉視点)姪を殊更可愛がっている、温厚なダブルおじさんが、後押しするといった形で始まった会談だったが、落ち着きを取り戻した定利は激昂し、母・おこいは卒倒した。


何せこの藤吉郎さんは御歳25歳であり、定利と10も年が離れておらず、尚且つ庶民出の者であって、武士ですらなかった。


そして現在の身分は台所奉行という、出世の見込みの無い軽輩であり、娘の嫁ぎ先としては、大ハズレもいい所であったので、激昂しても普通に無理からぬ話である。


ついでに25歳の男が、13歳の女の子に求婚するという、世が世なら100%警察事案でもあった。


(うわ~・・・そりゃきっついわな~オトンからすりゃ。

自分の婿が、兄弟と変わらん年齢差はなぁ。

俺も前世で妹婿が、一回り(12歳)以上離れた人だったから、高校生の自分(17)が妹(16)の旦那さん(29)に、「義兄さん」て呼ばれるのはかなりきつかったからな~)

大騒ぎしている居間を覗きつつ、定利に深く同情と同調する小吉。


口から泡を飛ばして罵り、刀を抜いて成敗しようとして、ダブルおじさんに取り押さえられている定利に、エールを送っていると、


(・・・うん?藤吉郎?

ウチの姉ちゃんは寧々で、叔父さんは浅野姓でって・・・え!?マジか!?あの貧相でチビでピー(自主規制)コンなオッサンが、豊臣秀吉って事か!?)

突如として驚愕の事実を悟ってマジマジと、平身低頭定利にペコペコしている、後世の太閤さん(仮)を見つめる。


(コレってもしかして、俺にとっては大チャンスなんでは?

豊臣秀吉の下っ端時代から、家臣になってはべっておけば古参として、無能でも年功序列で偉そうに出来るし、秀吉の立身出世に便乗出来て、俺もちょっとした大名に成れちゃうかも・・・ウッヒッヒッヒ)

皮算用をしつつゲスい笑みをうかべて、自分が殿様になった事を脳内で夢想妄想する小吉。


実姉の婚姻話のドタバタ騒ぎで、父に斬られかけて右往左往している藤吉郎を尻目に、虎視眈々と機会を窺う小吉であった。


この物語は、藤吉郎=後の豊臣秀吉の立身出世に便乗し、己の左団扇な生活を夢見る、とある逆行転生者の物語である。


                続く

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