第9話 追憶──学園封筒──玖済のリターンエース

 また同じ事を繰り返す。予定を変えて行く先を変えて、何処か遠くに行けるわけもなく。どうせまた死ぬと、そう考えて包丁を持ち歩く事もあった。流石に少しずつ頭がおかしくなってきた頃だろうか。あの機関のヤツが現れた瞬間、自分から殺そうとして返り討ちに遭った、それにスズが巻き込まれてまた死んだ……俺のせいだ。警察に行った、最初は相手をしてくれたのだが一本の電話が入った後、何故か即座に追い返された、そしてそこから数分と経たないうちにまた……。



 ───そして、また目覚める。



「だ、大丈夫……?夜まで寝込んでいたけど」

 目が覚めたのは夜だった。同じ日を何度も繰り返し、此処に戻って来ては意識を失い数分から数時間後に目が覚める。いつものようにひどい頭痛と吐き気。俺の顔を心配しながら見つめる彼女の死に様がフラッシュバックする。


「まだ何処も、何処も大丈夫じゃ……」


「き、急に倒れるから……」

 と、スズは言う。


 そして、ひいろが後ろからあの銀色の封筒を渡してくる。俺のベッドの横にある電灯の淡い光がそれを恐ろしく映し出す。


 このままじゃまたスズが目の前で死ぬ。死んでもこの封筒を受け取って、またアイツに殺される。また近くにいる俺も殺される。彼女が殺されるのを見たくない。殺されたくない殺されたくない殺されたくない殺されたくない……。


 思い返せば目の前の光景を忘れるように虚ろになった彼女の目を思い出す。赤く流れる血液が床を浸すのを思い出す。アイツが、機関のアイツが見えない表情を変えることなくその次に俺を殺すのを。


 気付けば俺はこんな事を口走る。


「俺は……俺はな見たんだよ。さっき昏倒してたって言ってたろ?そうだよあのとき、夢じゃない走馬灯じゃない。スズがアイツに殺されて……」


「キミは何を……?」

 ひいろの顔から徐々に余裕が消えていく。

「その後に俺も殺されて……」


「また目が覚めたら今日になってて。起きたら来るんだよ、あの封筒が。そしてまた数日経って前回とは違ってショッピングモール行ったんだぜ?そしたらまたあのジャンパーのヤツが現れて、俺の目を切った後にスズは殺されて。その悶えたままの俺も腹を切られて。それで……また目が覚めて」

 口に出す度に、いつものあった日常が消えていっていることを感じてしまう。実際にそうなっている、友人が目の前で殺される。そして自分も……。何かがズタズタに壊されるような心が何処か深い場所に突き落とされるような息が止まるような身体中の切り傷が焼かれていくような。


 アイツに殺されずに死ねば……変わるか?


 どうせ俺なんかじゃアイツを殺せやしない。何度も死んでここに戻って来ているだなんて伝えてもどうしようもないんだ……。


 そんな思考が頭をよぎる。


 ふらふらとした足取りで玄関に向かう。


 マンションの廊下に出て階段でゆっくりと上の階へと向かう。後ろから聞こえてくる声も俺の腕を引っ張る腕も何も……。


 ただの夏休みだ、高校受験に向けて頑張っているだけ。3人で目指すものは違えど偶然にも同じになった志望校。そこを目指して普通に生きていただけなのに。なんで、彼女が殺されなきゃいけない……。


 綺麗な星だ、まだ蒸し暑いが風も心地が良い。


 最上階、外を一望出来るテラス。そこの塀を乗り越えて一歩───


 スズの髪色のように美しい星空に俺は落ちていく……。このまま意識も無くなって、また目覚めたら夏休み封筒の届かないいつもの昼。3人で頭を寄せ合って……。


「さきとくーん!!!!!!!!!!」


 今頃になってスズの声が聞こえてくる。


「そうだよな……此処に居たんだよな」

 さっきまで目に映っても居なかったスズが俺の落ちる体を見……。


「あっ……」

 彼女が一歩踏み外す。そしてそのまま落ちて……。俺の体は勝手に彼女の方へと手を伸ばす。だが、もう遅い。スズは、彼女はマンションの壁から出ている鉄骨の部分に頭を打って血を流し虚ろになって……。



「うわぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!!」



 そして俺も悲鳴のような声を出し終える間も無くそのまま体を地面に打ちつけて。



───悪夢なら誰かこのまま俺ごと壊して無かったことにし……





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 意識を失って数分、数時間が経った頃だろうか……。いつもみたいに目が覚めない。意識があるのに目が開かない、体が動かない。


 何処からか聞いたことのあるような少女の声がする。


───昔とある男は言った。あなたが出会う最悪の敵は、いつもあなた自身であるだろう


 その言葉を聞いて一人の打ちひしがれた少年は思った。最悪の敵が自分であるのならば己を殺して仕舞えばいいと


 そして……身を投げて死んだ


他の人々はそのザマを見てどう思ったと思う?


 アイツは己に負けたんだ、と……それもソイツを救える側に居た人間たちが他人事のようにな。


 だから起きろ〜。敗北者ルーザー


 此処に意志の弱いヤツは要らない、命の解放者、別天裂斗の何に相応しくないヤツは要らない。だから───目を覚ませ


 黒い大地、黒い空。何処までも無が広がるように。光一つないその世界、そうであるのに恐怖のような感覚は一切無く。むしろ心地が良いかのように深く息を吸って吐く。


「……此処は?」


「はぁ〜……。はいはいこれで約99999999回目の此処は何処?だよ」


「我の名は、悪魔の破壊者、デストラクション・ナイトメア。名前通りの……」


「てん、し……」

 口が何かを覚えているように彼女のセリフの続きを吐く。


「おうよ、分かってんじゃねえか」

 そう、そうだ。悪夢の破壊者、デストラクション・ナイトメアは天使である……。白金の神に青い目をしたスズによく似た少女。彼女のように優しげな表情はなくどちらかと言えば目つきは悪いし、口も悪い。天使の輪を指先でくるくる回しながら粉砕して遊んでいる。


 そして、尖った八重歯が見える口でにんまりと黒い大地に突っ伏す俺を笑い飛ばす。


「ふっ、ははははっ!!!!まあ、いい。本ッ当に無様な面だ!いくらやり直してもその面構えじゃ無理だ無理。ファイブなんて殺せやしねえ。そのうえアイツを守りきる事なんて夢のまた夢だよ」



───ああそうだな、うん。改めて、話をしようか。別天裂斗、お前の能力について

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