【かつて妹だった兄のひとりごと】


やあ、僕はギルノール。

かつての名前は萩原小牧はぎわら こまき

ひょんな事からこの世界で、女から男に転生したある意味不運な奴だよ。


お兄ちゃんには何とか誤魔化して終わったけど、お兄ちゃんがこの世界に来てしまったのはわたしの所為。小牧わたしが1人は寂しいからと、お兄ちゃんを巻き込んだ。


ほんとはね、小牧わたしが1人で死ぬ筈だったの。それなのに、神様が、温情という悪魔の囁きをしてくれたから。


大好きだったお兄ちゃんも一緒にって、

交通事故で死んだ小牧わたしは、お兄ちゃんを喚んだ。小牧わたしだけじゃ、辛すぎるからって。

だって、ほぼ見知らぬ土地で、最初からまだ生きなきゃだし? そんな場所に1人放り込まれたって、無事に生き延びれるかどうか分からないじゃない。


あ、ちょっと、そこ。お前なら生き延びれそうだって言った奴、手を上げなさい。別の大陸まで殴り飛ばしてあげる。


あのね、いくら小牧わたしが腐女子で、好奇心旺盛な創作者クリエイターだからって、異世界に放たれて無邪気に喜ぶ馬鹿じゃないわ。


思ってた通り、ヤバい世界だし家族関係希薄過ぎて笑うしかない。家族に縁ないのは今世もかって、溜息吐いたよね。

そして、神様っぽい人の話、が嘘に近い感じっぽいしねぇ。


それにね、この世界。小牧わたしが読んでたかの小説の世界に似てるんだよね。その世界はね、は平和なんだ。うん、はね……、その後能力者と人間の争いがまた勃発して、世界が混沌に包まれちゃうんだけども。まあ、大丈夫でしょ。

お兄ちゃんなら、順応出来るだろうし、何よりに紹介すれば気に留めてくれるはず。


うんうん、今のところ順調、快調、絶好調!! 小牧わたしの目に狂いはなかった。これからも兄妹仲良くやっていけ、


『ネェネェ、ギルノール。コレ、ナァニ?』


「あっ!? ちょ、リィタ! それ、何処から取り出したの? 食べないで? いや、食べるな! 頼むから!! 漸く書き上げた新作なんだよぅ!」


『シンサク? ナニソレ、オイシイノ?』


「まあ、僕らにとってはある意味美味しい話かな、って、取り込むな!! せっかく1日で書き上げたものなのに!」


『ギルノール、コレマズイヨー。ナンダカヨクワカラナイケド、マズイヨゥ』


「……紙を食べて不味いって言ってるんだろうけど、内容がマズいって言ってるように、不思議と聞こえるなあ」


お兄ちゃんには書いてないと言ったが、此方でも、それの類な執筆はしているんだよね。読者が全くいないというわけでもなく、それなりにいたりする。

まっ、広めたの、僕なんだけど!


『コレ、リティシアニモミセタホウガ、イイカモ。モッテイコウ!』


「まっ! 待って待って!! それ見せたら絶対にヤバいやつ!! 僕、嫌われちゃうって!!」


悦に浸っていれば、リィタを含むスライム達が原稿をあさり、持ち去ろうとしているんだけど!? 誰だ、こんな好奇心の塊みたいなスライムを生み出したのは! ……あ、僕か。


って、こうしている場合じゃない。

せっかく落ち着いたお兄ちゃんとの日々が台無しになるのは、避けたい。何としてでも止めねば!






スライムが跳ね跳び、ギルノールが慌てながら、去っていった部屋に1枚の紙が残されていた。


お兄ちゃんは小牧わたしのヒーローでした。

虐められていた小学生の頃、虐められる方が悪い、と小牧わたしを指導していた先生に食ってかかって、小牧は何も悪くないだろ!生まれ持ってきた特徴をどう治せって言うんだ、生まれ変わって来いっていうのか!って、中学生にしては達観した人生観で、先生達を圧倒していたお兄ちゃん。両親よりも小牧こまきをよく理解してくれていました。

小牧の生まれた境遇を知っていたからか、両親の仕事が忙しかったから頼まれていただけだったのか、分からないけれど小牧わたしには救いでした。

両親もだけど、お兄ちゃんからの愛情が小牧わたしにはとてもとても嬉しかったのです。


そんなお兄ちゃんと離れたくなかったというのは小牧わたしの我儘ですか。

両親の不仲が日に日に増していくなか、お兄ちゃんに縋りたくなったのは、駄目なことですか。

小牧わたしがやってきたことは、大丈夫なことだったのかな……


文字はここまでで途切れている。


ぽよんぽよんと跳ねながら、スライムが1匹戻ってくる。落ちていたそれをぷるんと取り込み、そのままその場から溶けて消えた。




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