第五章 取材の申し込み


 

 担任の先生に呼び出されたのは、かなた町ハンドメイド市があと一ヶ月と迫った頃合いだった。

 

 ぼくらはあれから動画を二本アップしたがすべて惨敗。結局、有効な宣伝手段を見出せてはいなかった。

 

 廊下から職員室に入ると、ざわめきの質が変わった。空気が張り詰めてなんかいやしないのに、緊張して背筋が伸びる。

 向かうのは、いかにも「お仕事中だから、いまだけメイクをおとなしくしています」といった派手さが隠せていない月野先生の席。

 

 先生の隣には、なぜかうちの制服を着た中学生男子が立っていた。

 身長はゆうに170センチあるだろう。頭は丸刈りで、とくに目立つ丸くきらきらした目が、食い入るようにぼくたちを見つめている。

 

「はじめまして乃木ワタルくんに立水コトハさん! おれは新聞部部長の小向井ユタカという者だ。

 タカ先輩って呼んでくれ」

 

 大きなよく響く声で、ニュッと節だった大きな手を差し出して来た。

 ぼくらは顔を見合わせる。

 月野先生はタバコの匂いがする息を長く吐く。

 

「お前らに取材がしたいらしい。一応断っておくが、小向井はデカいが小学六年生だ」

 そうなの!?

 ぼくたちの視線にタカ先輩はガハハと笑いを返す。細められた目が優しい。

 

「わたしは見たことあるけれど……すごく目立つし」

 ぼくの背中から、コトハはまるで気が弱いみたいなかすれた声を出す。

 

「おおっ、キミはおれの隠れファンか!?」

「違いますやめてください」

 コトハの拒絶に顔色ひとつ変えず、ぐるりとぼくに向き直ると

 

「ともかく。この間の『ぴょんたろう配信』を見たよ! 素晴らしい出来栄えだった」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 意外なセリフだった。

 なんだか気恥ずかしい。

 彼は行き場を失った手を大きく広げて、

「正当な評価だよ! 新聞部内でも持ちきりだった。

 ――かの有名な『ズメイチャンネル』に対抗する勢力が現れたと!」

 

 んん?

 首をかしげるぼく。

 ぼくはぴょんたろうの紹介と、かなた町ハンドメイド市に出ることを言っただけだけれど?

 

「これは提案なんだが、おれたち新聞部の取材を受けてはくれないだろうか。

 トップ記事の名称は『ズメイチャンネル対『ぴょんたろうマスター』!』なんてどうだろうか。

 いやあ我ながらいいタイトルだ、ワクワクするな!」

 

 どうやらダイチとのやりとりまでは嗅ぎつけていないらしい。ホッとする。

 

 だけど。ぴょんたろうマスター……ってもしかしてぼくのこと?

 まさか裏でそう呼ばれていたとか?

 あとでコトハに確認しなくちゃ。

 ていうか、結局ダイチの対抗馬として扱われるわけか……。


「と、言うわけだ。話を受けるかどうかは乃木たちにまかせる。言っておくが面倒事は起こすなよ。

 当校生徒として、かなた町ハンドメイド市の運営に迷惑をかけるのもナシだ」

 

 月野先生は、わかったな、と言うと、シッシッと手の甲をぼくらに向けて振った。

 

 面倒事を起こすなってなんだよ。失礼だなあ。

 ちぇっ。

※ 

 「もう、いい加減あきらめてくれないかな」

 帰り道。大きな十字路の前に長い植え込みがある。

 緑の上から頭が見えないようにしゃがみながら、コトハがぼやく。

 

 ぼくたちは新聞部から追われていた。

 どこへ行った、わかりません、あっちか! という声がだんだんと遠ざかっていく。

 

「ねぇ。面倒くさいから受ける気ない?

 宣伝にはなるはずだし」

 さすがに二週間も続くとしんどいらしい。

 

 確かに、しつこい。しつこすぎる。

 月野先生に訴えても「わが校は生徒の自主性を重んじている」とスマートフォンのゲームをしながらいうだけだし。

 ようは面倒くさいんだと思う。

 

 あのなあ、とぼくはネコのように体を丸めながら

「いっただろ。悪目立ちしてどうするんだよ。

 1000人もフォロワーのいるズメイチャンネルと、一介の小学生との対抗戦なんて万一ネットに漏れたらぼくらの日常生活の終わりだ。

 学校には、中学生や高校生のきょうだいがいるやつだっている」

「だね……」

「それだけじゃない。

 野次馬が押しかければ、かなた町ハンドメイド市ひいては常連参加者の母さんに迷惑がかかる」


 チラシ等を配ろうにも資金と許可がいる。 

 ぼくの考えが甘かった。

 やっぱり当日、実力で勝負するしかない。

 がさ、と不吉な音がした。頭の上を影がさす。

 傾く太陽を遮って、大男がずずんと立っていた。

 

「ふふふ。おれが身長が高いのを忘れたかなあ〜。こんな小さな植え込みに隠れたってお見通しだッ。

 さあ、今日こそは取材を受けてもらうぞッ」

「やべ。行くぞ」

「うんっ」

 

 植え込みの右端にはメガネの女子部員。さっき遠ざかったのはフェイントだったらしい。

 すばやく視線をさまよわせる。左端は空いている。


 バカめ。

 ぼくたちはどちらともなしに頷くと、力強く地面を蹴った。

 この話、深く考えるまでもなく――ナシだ!

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