バスタイムショート
八谷ないる
第1話エミユリマユミ
こじんまりとした雰囲気の良いこの式場は、繭子にぴったりだ。
もともと派手なわけではないのに私たちのグループに入ってきた繭子は初めこそ浮いていたが、あっさりとした癖のない顔立ちは化粧がよく映えるし、ほっそりとした長い足はミニスカートがよく似合い、瞬く間にグループ内で一番モテる女の子になった。
見下していた子が化ける。
それを面白く思わないのは当然のことなのかもしれない。
式場のパウダールームは化粧直しをするというのは建前、本音を語らうのが本音というところだ。
「やっぱりチビデブだったね〜」
口火を切ったのはエミだ。
「あーあ、笑い堪えるのに必死だったわ。エミの予想当たりすぎだから」
ユリは睫毛を整えながら言う。
「でもハゲてはなかった〜!」あはははは。
なんて下品な笑いなんだろう。
「マユミはどう思った?」
私が答えるべき台詞は決まっている。100万年前から。
「いや、ハゲも時間の問題っしょ」
あはははははは。
「マユミひどすぎぃ〜」「最高なんだけど〜」
誰に訊かれるとも知れない所でこんな話をする私たちは間違いなく最低だろう。
いつまでもこのままでいいのか私。
一見控えめな、だけど繊細な刺繍が施されているドレスを身に纏った繭子は本当に幸せそうだった。繭子の幸せそうな嘘のない笑顔を今日ほど羨ましく感じたことはない。
このままでいいのか私。
「エミ、ユリ」
「なに?」「急にどした?」
深呼吸をする。
「私、幸せになりたいから。今までありがとう」
行こう、まず繭子のところへ。
「あと私の名前、マユミじゃないくて舞美だから」
そして私の幸せへ。
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