第27話 限界
洋子が、今から食事を作ると言うので時計を見ると正午を回った所だった。
俺がそばに居ると、二人が萎縮してしまう事くらい分かるので、洋子にお握りを作って外に持って来るようお願いする。
俺は倉庫の場所を聞いて外に出ると、自分の出来る事をする為、動き始める。
長屋の個人の玄関が並ぶ方を正面として裏手に回ると、誰か手入れはしているのだろう、想像よりは増しではあるが四方数メートルの草が刈ってあるだけで伸び放題の庭木は、何かの蔓と絡み合い、もはや聳え立つ巨大な壁にも見える。
下では雑草や、草とも木とも見れる様な背丈の高い植物に蔓性の植物達が思いのままに育ち、生い茂り、その勢いの前に、密林化は時間の問題に感じられた。
倉庫の扉を開けるとスコップやつるはしに色々な種類の鍬など農具の他に草刈り機やチェーンソーまであった。
俺は草刈り機を手に取り、自分の知ってる物とは違うが、使えそうではあるのでそのまま倉庫から出す。
こいつも電動で大きめのモバイルバッテリーが搭載されている。
紐を引っ張ってエンジンを掛けるリコイルスターターではなくボタンを押すだけでエンジン掛かるし、パワーもある。
これは俺が使ってた草刈り機より楽だな。
さて作業を始めるかと思った所で、お握りとお茶をお盆に乗せてこちらに来る洋子が見えた。
「お昼出来たよ、食べてね。」と洋子に言われ
「有り難う、頂くよ。」と返した。
洋子はビニールシートも持って来てくれたので、庭部分に広げて座る。
「こんなに伸び放題で荒れてるなんて…… 私も手伝う。」
洋子は庭の惨状を目の当たりにして、力強く拳を作り、手伝いを申し出てくれたが、
「いや、ここは俺一人で大丈夫だから、洋子は二人を手伝って少しでも負担を軽くしてやってくれ。」
そう言って断り、一人になった俺は急ぎ詰め込む様にお握りを貪り、お茶をで流し込み立ち上がる。
味わって食べたかったが、今は一秒の時間も惜しいので雑に食べてしまった事を洋子と握り飯に心で詫びつつ草刈り機のエンジンを掛け、黙々と草を刈り続ける。
何処までが庭なのか不明だが建物の長さと同じ位あると考えれば先は長い。
無心で作業をしていると、
「修一さん、もう三時ですよー、お茶持って来ましたから休憩して下さーい。」と洋子に声を掛けられて我に返る。
もうそんな時間かと顔を上げ、手を上げて洋子に応えると、ぐるりと周囲を見回す。
後少しで草刈りは終わりそうだと安堵のため息を吐きながら、膨大な量の刈られた草を眺めて、片付けの大変さが容易に想像出来てやれやれとため息を吐く。
ビニールシートに洋子と二人仲良く座りながら、持って来てくれた饅頭を頬張る。
つぶあんですな、こしあんの繊細さと違い、甘味がストレートにガツンと来る感じが疲れた体に活力を与えてくれる。
「鈴ちゃんは配達あるから先に帰ったけど明日またストアで待ち合わせしたけど良かったかな?」
ちょっと不安げに尋ねて来た洋子に、
「勿論OKだよ、後、俺の意見なんだけど、鈴ちゃん、家で暫く一緒に住んだ方が良くないかな? 一人にするには少し不安があると思うから。」
その言葉に洋子は、
「それは私も思ったの、精神的にはだいぶ落ち着いたみたいなんどけど身体がだいぶ衰えてるみたいだから…… 修一さんがそう言ってくれて嬉しい。」と白百合のような清廉で穏やかな笑顔を向ける。
「洋子の美味しいご飯食べてたら体も直ぐに良くなるな。」
にっと笑ながら言うと、
「えへへ、そうかな? そうだと良いな。」
少しはにかみながら地面を見つめる洋子、胸中は色々複雑な思いがあるだろう。
今夜は確りとケアしてやらねば。
「ところで此所は、その… 大丈夫なのか? 結構、限界迎えてる感じがするんだけど、裕美お姉さん以外お世話する人は何人いるんだ? 専門的な知識持ってる人とか居るのか? 通院とか出来るのか?」
不安な気持ちが先走ってしまったのか矢継ぎ早に質問してしまったが、洋子は伏し目がちに答えてくれた。
「…… 限界はとっくに超えてると思う。裕美お姉さん以外に後二人居るんだけど、二人とも体調崩して今は此所で療養してる。さっき会ったんだけど二人とも精神的疲労の方が大きい感じがしたかな、それとこんな田舎に医学的な専門知識持つ人は居ないよ。病院は…… 無理だと思う。」
「え? 無理なの? ここは医療保険とか無いの?それとも移動手段が無いとか? 」
無理と言う言葉に何やら胸がざわつきを覚える。
「医療費は社会的貢献度で決まるから村の人は殆ど病院に何度も通う様なお金無いと思う。」
そう言った後、洋子は俯き、唇をぎゅっと噛んだまま黙ってしまった。
おいおい、何だよその制度、怖いよ。誰が貢献度を決めるのよ、地方優遇政策とか何か言ってなかった? そんなのしたら地方の人間目に見える貢献何か出来ないだろ、本当に地方に人を移したいのかよ、もはや意味不明。
こんな状況の所、裕美お姉さん一人で切り盛りしてるとか無謀にも程があるだろ!
「分かった! 俺が何とかしよう。一週間は持つか? その間に手を打つから。」
洋子は目を見開いて潤んだ瞳をこちらに向ける。
「有り難う。修一さん、有り難う。」
そう言って堰を切ったように涙を流した。
俺は優しく抱きしめ、落ち着くまで軽く背中を叩き続けた――
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