第3話 甦る俺のリビドー

 普通は逃げるのかもしれない。だが俺は逃げなかった……それは相手の奇行の中で確かに俺に欲情していると確信したからだ!

 諦めた快楽道の極みをもう一度歩めと、すっかり落ち着いた男のリビドーが、不死鳥の如く甦り滾るのを感じる。 ※注 快楽道は修一だけの道です。

 そして、女を確りと観察する。

 歳は45歳位、いや、見た目よりもう少し若いか。身長は俺が180cmだから身長差から見て155cm程、化粧化も無く、あまり手入れのされていないのか、艶の無い背中まで伸びた黒髪を後ろでゆるりと纏め、眉毛も整える事もしてない、濃く太い山型をしており、目は二重ではっきりとしている…と言うかガン開きで血走っているので怖い。頬は少しけていて、唇は太めで大きく、全体的に見て、お世辞にも可愛いとは言えないし、漂う雰囲気はさちが薄そうである……が、今は

「ふ,ふへへへ、こ、これが、お、おお男の…へへへ」と言いながら、幸せそうに両手の匂いを嗅いでいる…女性と接点無さ過ぎて拗らせた男子高生よりヤバい。

 さっき、俺への欲情を確かに感じたと言ったが、今は欲情しか感じない。

 同様する気持ちを抑え、顔から下を観察する。首は老化を感じさせる弛みがあり、胸は気持ち程度の盛り上がりを見せほっそりしている。が、お尻は洋梨型で体型に見合わず大きく、足も意外と確りしているように見える。

 ふむ………特に問題はない。充分抱けるし、相手の対応次第では愛も囁ける。体中からチョロみ成分が吹き出ているので、早々に頂けるだろう。

 一通り観察も済んだので、未だ俺が家に上がった事にも気づかず手の匂いを嗅ぐのに夢中な女性の両肩を後ろから掴み、自分の方へ引き寄せ耳元へ顔を近づけ

「案内良いですか?」と囁いた。

「ひひゃあああ%〇&/\/◎■┓┗┳あああ」

 人ってあんな音出せるんだ。と感心させる悲鳴のような物をあげた女は

「こここ、こっち」と落ち着き無く小刻みに動きながら歩き始めた。

 ふふふ、俺はキザな事も出来るのだ。彼女が出来たら、ロマンチックな演出やムードを大切にするタイプなのだ。

 高校の時、付き合った彼女との初キッスなんて相手を家に送り、家の門扉前で別れて、彼女が門扉を開けようと俺に背を向けた時、相手の肩を、とんとんと叩いて、相手が振り向いた瞬間、優しく触れるようなキスをして

「また明日な」と手を上げて去ったりもした………実際は勢い余って歯と歯が当たり、口の中が若干、鉄っぽくなった気もした。

 訪れる沈黙に、気まずくなり、何か言って立ち去ったが覚えてはいない。人とは儘ならないものなのだ。

 そんな事を考えていると、気づけば居間で座っていた。

 居間はフローリングで8畳程で、カウンターキッチンもある。ぎりぎりLDKと言った所だ。

 120cm程の長方形のこたつテーブル(5月下旬なので布団は掛かっていない)に座りながらカウンターキッチンでお茶を入れている女を見つめる。手元は見えないが何度もお茶を入れようとして失敗しているように思える。震えすぎて溢しまくってないか?カウンター向こうの惨事を気にする事を止め、暫し目を閉じた。疲れが結構溜まってるな。

 このまま寝てしまいそうだったので目を開けると、目の前に血走った女の顔があった。

「びびゃあああ■┓┗%△○┳◆あぁぁ……はぁ…はぁ」

 お前が叫ぶんかい!と心の中で何とか突っ込めた立派な俺は、びっくりし過ぎて体が硬直して、声も出せなかった。車を運転していると、飛び出して来た動物が、こっち見たまま動かなくなる事あるけど、こういう事だったんだ。

 恐ろしく早く脈打つ心臓が収まって来て、何とか声が出せるようになり、

「…………。」

 あれ?何を喋れば良いか分からない。どうやら脳はまだ停止したままのようだ。

 そんな時、女の方から

「おちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ茶」

 ん?百裂拳食らってないよな?

 確認の為、自分の体を見ると目の前にお茶が置いてあった。成る程と

「お茶ありがとうございます。頂きます。」

 お茶を飲むだけなのに、妙に勇気がいるが飲まなければいけない。何かのテレビで言っていたが、言葉も通じない場所の原住民と心を通わすには、同じ服装をし、同じものを食べる事が重要なのだと、だとするならば、このお茶を飲む事が心を通わす第一歩なのだ。

 俺は勢いよくお茶を飲んだ。普通の緑茶だった。

 アホな事をしていると女の方から

「は、はははは初めてだだったから、お、男ぉ」

 いや、まだ、あなたの初めての男にはなってないですよ。てか初めてじゃないでしょ。と心で会話していると

「い、生きているうちに見れるなんてぇぇ」

 下を向きながら呟くように言った。意外に流暢に言えたのは思わず出た言葉だったからだろう。

「生きているうちに?」当然の疑問を投げ掛けると

「こ……こんな、い田舎に男さ来るなんて、びびびっくりして……」

 どもったり、早口になったり、自分を落ち着かせる為か深呼吸したり、何とか俺に現状を伝える為に一生懸命語ってくれた。

 そこで分かった事は、岐阜県の風早村という所で人口は100人程で住人は女性のみ、と言うか男性なんて見た人はいないとか、居るとしたら都心部だろうと、何の珍獣の話を聞いたのだろう?

 本人は一人っ子で、四十歳、名を木下洋子きしたようこと言い、この村から出た事はなく、中学をを卒業してからは、母親と農業で細々と生活してきたらしい。因みに小中学校も過疎が進み、卒業してから数年で廃校になったそうだ。母親も2年前に亡くなり、今では、年に数回農作物を出荷する時に、人に出会う位だという。普段の話し相手はTVらしい。胸が締め付けられる。せめて動物を飼おうか。

 話を聞いて整理した結果、一つの答えにたどり着いた。多少、俺の想像も入るが大体は正しいと思う。

 彼女は中学を卒業後、憧れの都会へと行き、そこで出会った男に次々と騙され貢がされたのだろう。下手したら貢ぐ為に風俗で働いていたかもしれない。

 そしてある時、心が壊れて田舎に帰ったのだ。そこで母親と農業をやるうちに身体は落ち着きを取り戻し、癒えない心の傷を守るため、男なんて会ったことも見たこともないと記憶が改変されて行ったのだろう。

 だって岐阜にキャンプに来た以外全部おかしいもん。岐阜には来たけど風早村なんて所通ってないし、キャンプ場の管理人男だったし、この女の挙動のヤバさ、出会った人の中で過去一だし

 ふと、真正面に座る、洋子と名乗る女を見た。

 なんか下を向いてもじもじしていて、時折こちらをちらちら見て来る。

 実は話が本当だったとしたら……こんな何度も騙されてヤり捨て去れていそうなおばさんが(そう言う目で見てからはそうとしか見えなくなってます)実は処女とか……興奮するなぁ。

 俺はギャップ萌えなのだ。こんなギャップに出会えたら最高だろ!

 そして天才の俺は気づいてしまった。事実を確認する方法をーーー

 俺は立ち上がりテーブルを避けて洋子の前に正座をすると、

「あなたを抱かせて下さい。」

 最敬礼の座礼をした。







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