霧峰ラリーアカデミー

ぺじゃう

プロローグ

 ラリーは見えない戦いだ。



 ブラインドコーナーの先は闇。路面は嘘をつく。

 頼れるのは、ペースノートに刻まれた道と、ナビゲーターの声。そして、ドライバーの腕だけだ。


 グランドスタンドで巻き起こる拍手喝采も無ければ、ボディ同士をこすり合わせるような熱いデッドヒートもない。

 ライバルは頭の中にしかいない。タイムという冷たい数字がすべてを決める。


 次のコーナーが右か左か、崖か木か——導くのは相棒の声だけ。


 ノートに命を預け、悪路を最速で切り裂く。技術と信頼が絡み合った瞬間、未来が開ける。


 全日本女子ラリー選手権——JGRC。


 全国のアカデミードライバーたちが夢を賭けて集う戦場。プロへの切符を握り潰す覚悟で、彼女たちは挑む。


 15歳の夢追い人がアカデミーに集う。


 ピンクの髪をヘルメットに押し込み、ステアリングを握る少女が笑う——

「私、この車を乗りこなすよ!」


 金色のツインテールを揺らし、ペースノートを握る少女が頷く——

「なら、私が道を示す!」


 観客席も歓声も聞こえない世界で、JGRCの頂点が輝く。

 彼女たちの胸は、燃える情熱で溢れている。


 ラリーは見えない戦いだ。


 轟音と振動の中、ノートがめくられ、タイヤが路面を睨む。ペースノートを頼りにコーナー先を想像し、アクセルを踏む勇気が試される。


 10年前、一人のナビゲーターが夢の半ばで血を流して散った。

 コースは今でも静かに待つ——次の挑戦者を、試練を。

 それでも少女たちは恐れない。見えない道に挑むことが、彼女達の誇りだから。


 誰も見ていないところで、汗と笑顔が響き合う。タイヤが路面を蹴り上げ、サスペンションが跳ねるたび、心が躍る。


 次の瞬間にはコースが牙を剥く瞬間が来るかもしれない。それでも少女たちは走る。


 なぜなら、ラリーは予測できない道の先にしか見えない景色を約束するから。


 夢を胸に、少女たちはステアリングを、ノートを握り、未来へ飛び出す——今、この瞬間から!

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