萩市立地球防衛軍☆KAC2025その④【書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」編】
暗黒星雲
第1話 俺は女騎士に殺される
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
そうだ。9回目だ。
俺は夢の中で女騎士に殺される。剣で彼女に挑み、敗れる。そして女騎士に心臓を貫かれるのだ。
ベッドから起き上がる。覚醒したばかりで意識は少しぼんやりしているが、夢の中の女騎士の姿ははっきりと覚えている。比較的長身で俺とほぼ同じ。175センチくらいだろう。そしてかなりグラマスな体形をしており、胸元はミサキ総司令よりも豊かに膨らんでいる。金髪のロングボブに青い瞳。きりっとつり上がった鋭い目元は歴戦の勇者そのものだ。
冷や汗をかいている。べっとりとだ。
俺はシャワーを浴びて着替える事にした。
熱い湯にかかり意識ははっきりと覚醒する。心臓を刺された後は赤いあざとなって残っている。そこはずきずきと脈を打ちながら、俺の胸に痛みを刻み続けている。
自分が愚かだったと後悔している。
防衛軍において自分が役立たずなのは理解している。それ故、ララに自分を鍛えてくれとお願いした所、彼女はニヤリと笑った後に快諾してくれた。
ララの出した条件は酒を飲まず早めに就寝する事だった。それは睡眠時間を十分に取って体調を整え、日中に格闘技の稽古をつける為だと思っていた。
しかし、実際は違っていた。
眠りについた俺の意識はララに拘束され、実践さながらの剣術稽古を強制されたのだ。夢の中、意識の世界での剣術稽古だ。
夢の中のララは成熟した女性だった。その美しさに見とれていた俺の胸を彼女は一突きで貫いた。
「油断するな」
「無念……」
彼女の剣が俺の喉を突き、俺の意識は遠のいてしまう。目覚めた時には胸と喉に赤いあざができていた。
二日目の夜も俺の意識はララに拘束され、気付けば古代の闘技場のような場所にいた。昨夜も同じ場所だったと思うが記憶は定かではない。
「実戦は他の何よりも力が付く。果敢に挑んで来る貴様の姿勢は評価する」
「ありがとうございます。では行きます」
俺は小学生の頃に習った剣道を思い出し、剣を正眼に構えたままララ隊長へと突っ込んでいった。しかし、俺の突撃はさらりとかわされ太ももを斬られた。
俺はその場で仰向けに転がってしまう。
「くそ……殺せ」
「格好をつけるな。馬鹿者」
彼女の剣が俺の胸を貫き、俺は血反吐を吐きながら意識を失う。
その後の七日、俺はララ隊長と真剣勝負をして敗北した。計9回、夢の中で死の苦痛を味わった。
まだ痛む胸をさすりながら、俺は防衛軍司令部へと出頭した。本日は最上さんと哨戒任務に出る予定だったからだ。
「ララ隊長。いきなりアレは酷すぎます。正蔵さまが可哀そうです」
「しかし椿さま。剣術の稽古は本人の希望なのです。100回くらい死ねば結構な腕前に上達するはずです」
「正蔵様に100回死ねと? そんな惨い事は許しません!」
指令室では何故か、椿とララが口論をしていた。どうやら俺の剣術稽古について、椿がララに意見していたらしい。
「正蔵様からも言ってください。ララ隊長の剣術稽古は過酷すぎると」
「実際そうなんだけど、俺が言い始めた事だし……」
「正蔵様。ララ隊長の訓練は実際に霊体を使って行うんです。霊体が傷ついている……それが肉体に影響してるんですよ。隊長に斬られた所、酷く痛むでしょ?」
「そうなんだけど、ララ隊長からは死んだ数だけ強くなると聞いているので、もうちょっと頑張ってみようかなと」
「むうう。超グラマーなララ隊長とデート気分なんでしょ? 私、知ってるんですから。あのララ隊長はミサキ総司令よりも胸が大きいって」
「そうなんだけど、俺ももっと強くなって役に立ちたいんだよ」
「認めるんだ。ララ隊長の胸」
「いや、最初はそこに見とれた隙に斬られたんですよ。二回目以降は違います」
「言い訳は結構です。正蔵様が強くなりたいなら、そのシミュレーションシステムは私が制作します」
ぷんすかと怒ったまま、見た目三歳児の椿が指令室から出て行った。ララはその様を黙って眺めていた。
「あの……ララ隊長」
「どうした?」
「すみません。変な事になってしまって」
「気にするな。しかし、椿さまの嫉妬にも困ったものだな」
「はい」
「今日の任務は私が代わろう。貴様は椿さまに付き合ってやれ。何かのシミュレーターを作るみたいだから」
「はい」
正に死を味わう過酷な剣術稽古が終わった安堵と一抹の寂しさを感じながら、俺は指令室を後にした。
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