第23話 姉弟子の受難

 「アイシクル・エクスプロード!」



 俺の氷剣が纏った巨大な氷は、俺の強い踏み込みとともに勢いよく魔力人形に降りかかり、凄まじい爆発を起こして魔力人形を粉々にしてしまった。その度にミュインの姉貴は何食わぬ顔で修復魔法を使って人形を修復していく。最初の実践訓練を始めてから三日が経過した。正直時間を言われても、こんな鉄の壁に囲まれた部屋では感覚が麻痺していてよくわからない。



 「…うん、だいぶ様になってきたみたいだな…この調子なら、そこら辺の魔物くらいなら相手に並んだろう」



 ミュインの姉貴はそう言ってうっすらと微笑んだ。



 「ありがとうございます!…んで、エルマは…?」


 「…あー…まだあっちの隅っこにいるみたいだな…」



 時は少し遡り、エルマが実践訓練を行なっていた時のことだ。ここ三日の実践訓練を通じて、俺はかなり力をつけていた。グエリアスの扱いにもそこそこ慣れてきて、魔物相手にも十分戦えるであろうとミュインの姉貴から太鼓判をもらっている。


 しかしエルマはというと、初日こそスキルの力で実力を目立たせていたが、それ以降は成長している感じが全くしない。ミュインの姉貴に聞いてみると、エルマはここで訓練を始めてから半年ほどになるが、当初から実力が全く成長しておらず、訓練の段階もずっと今の段階で止まっているのだという。そのためエルマは特別な時を除いてずっとこの訓練所にいるとのことで、毎日朝から晩まで訓練を続けているそうだ。


ただこれはミュインの姉貴が指示したわけでもなく、エルマの負けず嫌いが変な方向に向いてしまった結果、自主的にやり始めたのだという…にもかかわらず、俺が見るエルマはいつも同じことしかしない。一昨日も、昨日も、今日も…風属性魔法を変化させ、様々な属性の攻撃で魔力人形を粉砕する。十分すごいが、それだけなのである。それ以上に何かできるわけではなく、肝心な魔法の威力も少しも上がっていない。そして今日の実践訓練で、エルマは攻撃の手を止めると突然大泣きをし出し、そのまま部屋の隅でうずくまってしまった。



 「…なあ…エルマ…そろそろ訓練に戻らないか?…ほら、お前だっていつかは強くなれるって!だからさ、俺と一緒に…」


 「黙れ」


 「…えっ」



 エルマは俺を冷たい言葉で一蹴した。こちらを一瞬だけ睨みつけてから、またすぐに目を逸らし、そのまま再び何も言葉を発さなくなってしまった。



 「エルマ…お前は…」


 「あんたにはわからないわよアタシの気持ちなんてっ!どんなに頑張っても一向に力がつかない…半年間寝る間も惜しんでずっと鍛錬を積んできた!ミュインが教えてくれたこと、全部やった!…けどダメだった…ねえ、同情してるんだったら教えてよ…アタシはどうすればいいの!?」



 エルマは目を真っ赤にしながら俺に怒鳴ってくる。悔しさと怒りが混じり合った複雑な感情であることだけはわかるが、だからと言って俺に何かできるわけでもなかった。俺は黙ってその場に立ち尽くし、己の無力さを実感するしかなかった。…こんな時どうすべきだろうか…一つだけ確かなのは、下手に手を出せば余計に関係に溝が増えるということだ。



 「…シラノ…」


 (…へ?…まさかとは思いますけど…ソウタさん、ここで逃げるんですか?…わっ、私には何も言えませんよ!?)



 俺はシラノを頼ることにした。…わかっている…ここで逃げるようなことはしてはならないと…だがこうするしかないのだ。



 「シラノ…頼む…俺にはわからないんだ…他でもないお前だから頼めることなんだ…俺はお前のことを信じてる」



 シラノはしばらく沈黙した。その後小さくため息をつくと、引き戻されるような衝撃とともに俺と魂を入れ替えた。



 「…あの…エルマさん」


 「!!」



 エルマは驚いた表情を浮かべてこちらを見た。



 「あんた…シラノ…?今更出て来て何のつもり?」


 「あ、いや…えっと…」



 シラノは一瞬後退りしたが、呼吸を整えるとそのままエルマの前で正座した。



 「…何のつもり?」


 「あの…私…エルマさんの気持ち、全部はわかってあげられないかもですけど、寄り添うことくらいはできるかと」


 「…あんたに何がわかるっていうの?元々才能に恵まれてるあんたが、アタシの気持ちなんてわかるはずがないのよ」



 エルマは俯いたままぼそっと呟いた。それを聞いたシラノは少し間を空けてから落ち着いた声でエルマに語りかけた。



 「…誰しもが完璧というわけではありません。エルマさんが戦闘を苦手とするように、私も苦手なことはあります。…ほら、エルマさんと違って、私は自己主張とか苦手ですし…それに、つい最近まで呪いを背負って生きてましたし…ていうか、今こうしてソウタさんの中に入ってるだけで結構不便っていうか…」



 そう言うシラノをエルマは少しだけ穏やかな表情で見た。



 「…あんたも…大変なんだね…はぁ…もういいよ。なんかどうでも良くなった…」



 そう言ってエルマはゆっくりと立ち上がり、シラノを横切って歩き出した。



 「…訓練、やるよ。シラノ、ソウタ。アタシに遅れをとるようじゃ承知しないんだから」


 「…!はい!やりましょう!」



 それから普段通りに実践訓練が始まった。それにしても流石はシラノだ…俺の体のはずなのにまるで動きが違う。魔法の威力も段違いだ。エルマは…まあ相変わらずだったが、前のような威勢を取り戻しているようだった。こうして時間は過ぎていき、夜になり、夕飯を食べて軽くシャワーを浴びてからベッドに入る…明日からもまたこんな感じで1日を過ごすのだろう…一体いつまでここにいればいいのやら…


 …その頃、聖炎の宿から少し離れた場所では、黒いマントにフードを被った怪しげな人影が、ランタンを片手に暗い夜道を歩いていた。その前方には、淡い灯りを放つ聖炎の宿が小さく見えていた。



 「……あれか……あそこにプリナ嬢の仇が……よかろう。鋼の祭司であるこの私が葬ってやるとしよう」



 フードの下には血のような赤い目が禍々しく光を放っている。その目には確かに殺意が宿っていた。    


 

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