第19話 姉貴の特別メニューってやつ

 ホド姉さんが去っていった後、俺とシラノとルカ姉は宿の中に戻り、朝ご飯を食べることにした。といってもまだほとんど日も昇っておらず、半分夜食のようなものだが…


 ルカ姉はキッチンへ向かうと、戸棚から大きな麻袋を取り出した。そしてニヤニヤと笑みを浮かべながら俺のところにその麻袋を持ってくる。



 「えへへ…こんなのしか無くてごめんね?でもウチのお気に入りなの…ミュイン姉さんに勧められて食べてみたんだけど、ヘルシーな割にしっかり栄養も摂れていいなって思ったんだー」



 ルカ姉は麻袋の紐を勢いよく開いた。中を見てみると雑穀のような物がパンパンに詰まっていた。



 (これ、シリアルみたいな物か…?)


 「ソウタさん、知ってるんですか…?この、ゲテモノ…?」


 (ああ、俺の故郷に似たようなものが売ってあるんだ。まぁ好き嫌い分かれるみたいだけど…)


 「ソウタ君は知ってるの?あとシラノちゃん、ゲテモノじゃないから…」



 この雑穀の名前を聞いてみると、「グラノー」という健康志向な人を中心に人気のある商品らしい。要するにシリアルだろう。俺たちは皿に盛られたグラノーを平らげた。各々牛乳をかけたりかけなかったり…俺はそのまま食べる派なのでかけなかったが、この世界のシリアルもなかなか悪くない味だった。味覚を共有しているシラノも美味しいと言っていたので俺の頭がおかしくなっているということもないだろうし…



 「…ごちそうさまでした」


 (ごちそうさまでした)


 「うん!なかなか悪くなかったでしょ?」


 (結構美味しかったです)


 「ソウタさんが美味しかったって言ってます。…つまり私も同意見です…!」



 シラノが俺と体を共有し始めてからというもの、片方が裏に引いている時はもう片方がその声を外部に伝えるという方式で他人と会話をしている。だが流石にそろそろ面倒くさくなってきたと思うところもある。 



 「じゃあ…シラノちゃん、ソウタ君、食べ終わったなら、次は特別メニューをこなしてもらうよ?どうせ暇なんだろうし、外出禁止なら尚更でしょ!」



 そう言ってルカ姉は不敵な笑みを浮かべて俺たちを見つめる。



 「…とっ、特別メニュー…?(…とっ、特別メニュー…?)」


 「そっ。…そろそろ例の人が来る頃じゃないかなー…あ、来たみたい」



 ルカ姉は玄関の方に目を向けた。ドアの窓からうっすら見える向こう側には、大きな人影が立っているようだった。そしてドアを開けて入って来たのは、いつぶりの対面だろうか、ミュインの姉貴であった。薄いタンクトップを着て、金髪のロングヘアをサラサラと揺らしている。
 



 「お、いるなぁ…久しぶり、ソウタ。シラノもな…あ、いや、シラノは正確には初めましてだっけか?さっきルカネから急に連絡テレパシーがあって、何かと思えばソウタがシラノを連れて帰ってきたんだって…信じられなかったよ。とうとうルカネのやつが幻覚を見始めたのかとも思ったが、あまりに熱心に言うものだから傭兵業バイトを早めに切り上げて来てみたら…ほんと、驚きだねー」



 ミュインの姉貴の声は相変わらず体の芯に響くような重たい声をしている。



 「えっと、つまり…ミュインさんがここに現れたってことは…」 


 「そうだよ?ミュイン姉さんには君たちの戦闘力増強に協力してもらおうと思って。シラノちゃんは知ってるだろうけど、すでに何人かの家族がミュイン姉さんの元でトレーニングしてるんだよね。一人を除いてもうみんな卒業しちゃったけど…」


 (ん?一人を除いて…?)


 「じゃあこっちに来るんだ。訓練所に案内してやる」



 ミュインの姉貴は俺たちを連れて自分の部屋へと案内した。そこには触ったらいけない気がする武器がこれでもかと並べられていた。そしてミュインの姉貴はクローゼットの前に立つと、扉に手をかざし、魔法を唱えた。



 「ダクト・ポルタ!…門よ、導きたまえ…!」



 するとクローゼットはたちまち虹色の光を扉の隙間から放ち始めた。ミュインの姉貴は扉を開けると、先の見えない光の中に飛び込んだ。



 「何してるんだ?早く来い!」



 ミュインの姉貴に手招かれ、俺たちも光の中へ飛び込んだ。すると視界は一瞬にして眩いばかりの光に包まれてしまった。そして次に視界が晴れた時、俺たちは鉄の壁と天井に囲まれた異空間のような部屋に立っていた。


 時は少し遡り、俺たちが朝食を食べていた頃、ホド姉さんは窓辺に止まった黒い鳥の嘴から封筒を取ると、普段のホド姉さんからは考えられないような丁寧な手つきで封蝋を剥がし、中の手紙を抜き出した。その手紙はなかなかいい材質の紙を使っているようで、そこには育ちの良さを感じさせる達筆な文字が並べられていた。



 「…なんだってー?…ふーん…やっぱりか。今この時期にここを離れる訳にはいかないんだけど…先生が言うんだ。しょうがないよね」



 その手紙に綴られていた文章はこうだ。



 『拝啓 ホド==ヤヌデル殿。耳に入っているかわからないが、風の祭司が逝去された。故に、貴殿を大聖堂に招集する。当然だが、これに拒否権などない。それに、貴殿の師として、そして【時の祭司】として、貴殿に話しておきたいこともあるのだ。では、早急に大聖堂に来てくれたまえ。 草々 カルダ=テンプス=トルデントス』



 ホド姉さんは手紙を読み終えると、また封筒の中に丁寧に入れ直し、部屋の隅のポールハンガーに掛かってある上等そうなショルダーバッグにしまった。そして大きく深呼吸をすると、そのショルダーバッグを手に取り、静かに窓から飛び降りて聖炎の宿を後にするのだった。


 …それからわずか数分後、アイマ王国にある聖魔導教会の総本山、デウス・ルクス大聖堂にて、門の前で箒を持ちせっせと掃き掃除をしていた若いシスターは、妙な寒気を感じていた。



 「…なんだろ…なにかが近づいてくるような…それもものすごい速さで…」



 次の瞬間、そのシスターの前に音も置いていくようなスピードで何かがやってきた。よくみるとそれはホド姉さんであった。



 「うわぁ!…って、ホド様…お久しぶりです。前にその移動法はびっくりするからやめてほしいって言ったこと、綺麗さっぱり忘れてるようですね」



 シスターは呆れ顔で小さくため息をついた。



 「あはは…ごめんごめん…でも今回は急務なんだ。詳しくは言えないんだけど、先生のお達しでさ?」


 「先生…トルデントス卿のですか?わかりました。頑張ってください!」


 「うん。んじゃ、行ってくるよ」



 ホド姉さんはそう言って大聖堂の中へと歩みを進めた。その後ろ姿はどこか重々しい空気を纏っていた。 

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