Critical Footage9-2「ティタノマキア」

『マイグラント、補充しつつで良いので聞いてください。

 我々の現在位置は、世界樹の目の前です。

 準備が出来次第、すぐに突入できる状態にあります。

 ですが、懸念すべきことも発生しています。

 先程の怨愛の修羅との交戦により、ガイア製薬の動きが早まったようです。

 あなたの存在はあちらも把握しています……あれだけの大規模な戦闘を起こしたとなれば、あなたが動いたという証拠以外の何物でもない。

 あなたが先んじて世界樹に到達していると踏んだ彼らは、すぐに先遣部隊を投入。

 第二隊長ヘイムダル率いる、軽装二足機兵隊が凄まじい速度で猛追しています。

 私たちも急ぎましょう』
























 世界樹・樹海深部

 陽が落ち、夜の闇に包まれた樹海に足を踏み入れる。一寸先も定かでないほどの重い闇と、星の光さえ世界樹の枝葉に阻まれた空間は、異様な雰囲気に包まれている。

『急ぎましょう、マイグラント。ヘイムダルの軽装機兵隊を相手にしている時間はありません』

 パワードスーツの頭部デバイスを起動し、暗視モードの視界に変えて、ブーストで飛び立つ。

『そう言えば、怨愛の修羅が遺した籠手と脇差は私が回収し、現在その材質や性能を検証しています。世界樹の攻略開始には間に合わないかもしれませんが、期待しておいてください』

 やがて樹海を抜け、遂に世界樹の麓に到達する。


 外苑

 世界樹の幹は、地上からではその高さはおろか、太さすらどれほどのものか全容を把握できないほど巨大であり、夜闇と相まって得体の知れないものと相対しているような気分にすらさせる。

『ようやく辿り着けた……さあマイグラント、早く中に入ってしまいましょう』

「待ちな!」

 年齢を感じさせる男性の声が響き、樹海からこちらとそう変わらない体格の、黄金の二足歩行兵器が姿を現す。

『流石に速いですね……マイグラント、彼がガイア製薬第二隊長、ヘイムダルです』

 そちらへ振り向き、視線を交わす。

「ほう……テュールの坊っちゃんが盛ったのかと思ってたが、本当にパワードスーツでここまで来たとはな……」

 樹海から続々と浮遊する軽装二足歩行機兵が現れ、ヘイムダルの傍で整列する。

「だが快進撃もここで終わりだ。蛮勇は振るえても、お前さんは英雄にはなれない。死んでもらうぜ」

『仕方ありません。どのみち、ガイア製薬には壊滅して貰う必要があります。殺しましょう、マイグラント』

 こちらが構えると、軽装機兵たちが散開してこちらを囲むようにし、ヘイムダルが右手の大型ハンドガンと、左手の騎士剣を模したようなビームサーベルを構える。

 ヘイムダルがハンドガンを連射し、こちらが右に瞬間的にブーストし、飛翔してくる弾丸に注目する。

『スタン弾頭……被弾するとこちらの動きが鈍る弾薬ですね。あなたの使うニードルガンと同等の機能を果たすでしょう』

 軽装機兵たちがアサルトライフルをこちらへ乱射しながら、小型グレネードランチャーで偏差撃ちを行ってくる。こちらはレーザービットを展開してあちらの回避を強要しつつ、右肩からシールドを直接投射して当て、機能不全になるほど怯ませる。そこに目にも止まらぬ速度で詰めてきたヘイムダルがサーベルを振るい、こちらが左腕を振ってパイルバンカーのフレームで受け止めると、流れるような動作で返しの刃を振ってくる。咄嗟に飛び退きながらシールドを投射し、サーベルがシールドを切断し、左肩の二連装ミサイルを発射する。それらは非常に低速で、ゆっくりとこちらを追尾してくる。

『なるほど。装甲面を犠牲に速度を高め、高速で圧力をかけ続けることで意識を自身に集中させ、低速高誘導ミサイルでの不意打ち、スタンハンドガンでの回避能力の低下を狙い、崩れたところを一刀両断する……コンセプトの明確な、確かな実力を持つ機体のようです』

 ヘイムダルは右斜め上に高速で飛翔しながらハンドガンを乱射し、こちらも空中でブースターを吹かして飛び回って狙いをずらし、いつの間にか部隊員を蹴散らしていたビットがミサイルを破壊しながら戻ってきて、ヘイムダルへ向かう。ヘイムダルは一瞬退くようにしてビットの狙いを固定しながら、一気に前方へブーストして接近し、空中で翻ってこちらの放った右手のバーストアサルトライフルの弾丸を背中で往なしつつ、勢い良くサーベルを振り下ろす。こちらはパイルバンカーをチャージしながら胴体部と自身を連結して生命エネルギーをバリアとしてサーベルを受け止め、カウンターにフルチャージしたパイルバンカーを突きつける。そして直撃し、貫いた杭が連鎖爆発を起こして吹き飛ばす。

『ヘイムダルを撃破……!?』

 地面に叩きつけられながらも受け身を取って態勢を立て直し、ヘイムダルは破壊された右脇腹を修復しつつ自身にバリアを張る。

「ケッ、伊達にへレノールを倒したってわけじゃねえか……」

『致命的なダメージに反応して物理的な即死を回避し、完全な瀕死状態で耐えるシステム……軽装機ならではの思想です』

「緊急補修を一瞬で使い切っちまったが……まあ、お前さんの負けはほぼ確定した」

 視覚からロケット弾頭が飛んできて、こちらは後退しながら着地して躱す。そちらを見ると、テュール率いる四脚機兵の大群がいた。

『数が多い……』

「山猫、今までご苦労だった。お前が居なければ、城塞の攻略も、大氷壁の破壊も、今より遥かに苦戦していただろう。俺たちはお前に感謝している、心の底から」

 テュールが飛び上がり、四脚を展開する。

「だからこそここで、死んでもらおう」

 四脚機兵たちが一斉にグレネードランチャーを構えた瞬間、どこからともなく凄まじい地鳴りが響き始める。

「なんだ……!?」

『何か……途轍もなく巨大な生物が接近しています!マイグラント、上昇してください!』

 促されるままに直上へ飛び上がり、一拍遅れて四脚機兵たちが一斉にトリガーを引く。元いた地面に激突して爆発を起こし、上空から樹海の方を見やる。すると、樹海を翻しながら視界の下半分を覆うほど巨大な何かが徐々に近づいてきているのがわかる。

「くっ……!トール!何が起きているかわかるか!?」

 テュールが叫び、通信音声が返ってくる。

『わからん……だが、長大な生命体がそちらへ脇目も振らずに進んでいる。早急に離脱したほうがいい』

「ヘイムダル!聞こえたか!兵を連れて引き上げるぞ!」

「どうなってやがる……!」

 二人が撤退しようとした瞬間、目前の樹海を引き裂いて巨大生物が頭部を顕にする。それは鋭利な甲殻が配された蛇であり、口を大きく開けて咆哮する。そのまま、こちら側の全員を飲み込まんと向かってくる。

『マイグラント、退避を!』

「総員!全速力で横に散れ!」

 超巨大蛇が大地ごと飲み込んで潜航し、機動力に欠ける四脚機兵たちが無情にも食われていく。テュールとヘイムダルは逃れたようで、こちらもブースターの噴射に任せてとにかく遠ざかっていく。

『マイグラント、このまま撤退しましょう!』
























『マイグラント、一先ずお疲れ様でした。

 撃破こそのがしたものの第二隊長ヘイムダルに致命傷を与え、大量の四脚機兵を破壊できたことはこちらにとって良い戦果です。

 そして……あの大蛇は……恐らくは世界樹を守るために、アースガルズの祖先たちが用意した防衛機構でしょう。

 なるほど、あれが最後に立ちはだかるのであれば、樹海深部の警備を行っていないのも納得です。単純な巨大さによる暴力によって、あらゆるものの侵入を拒む……シンプルですが、極めて効果的なセキュリティと言えるでしょう。

 あれをどうにかしなければ、世界樹には突入できないわけですが……少し時間をください。

 私が……策を考えます』

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