Footage7「氷の翼」

『マイグラント、次のミッションです。

 あなたの力量を測るのに、新たな武装のデータを収集するのに、そしてあなたの更なる成長を促すのに、樹竜一体ごときではとてもではありませんが意味がないとわかりました。

 そこで、ガイア製薬の侵攻に対して展開しているアースガルズ幹部、“フレス・ベルグ”を強襲したいと思います。

 フレス・ベルグは戦場に立つものとしては珍しく女性であり、その軽量で軽快な動きに加え、次々と放たれる重火力の魔法によって、凄まじい突破力を誇ります。

 ……そうです。前に戦ったガイア製薬第三隊長テュールに性質が近い人物です。

 今回は部隊を殲滅したりということはありません。直接、彼らの営巣地に突撃します。

 回収したガイア製薬の兵器を機雷化し、それによる爆撃を行ってからあなたを投下します。

 存分に暴れてきてください。』
























 世界樹・樹海中部 営巣地

「何者かによってテュール率いる先遣隊が撃退されている。城塞街道で双方に壊滅的な被害を齎したのもそいつだという噂が流れているが……あくまでも我々の敵はガイア製薬だ。変わらず、城塞方面から来る敵を厚く警戒した陣を……」

 地面に貼られたテントの中で、机の上に地図を広げて指差す女性がいた。その外見は人間に近く、中途半端に鳥類と融合したようなものになっている。

「ですがフレス殿、あのへレノール殿が率いていた城塞は、大規模な戦闘の跡もなく陥落しており……本来ならばあそこで、ガイア製薬の司令官を引き摺り出す予定だったのに……」

 向かい合うように立っている獣人たちの内の一人がもごもごと喋る。

「はぁ。何度言えば分かる。へレノールにも負ける時はある。あいつだって超人だが、神じゃないんだ。だとすれば、私たちに出来るのはとにかく最善を尽くすこと、それだけだ。わかったらさっさと――」

 フレスの言葉を遮り、警報がけたたましく鳴り響く。彼女が兵士たちを連れてテントの外へ出ると、ドローンの群れが航空から大量のスクラップを落としてくる。それらは地面に届く寸前で爆発を起こし、殺傷と破壊を繰り広げる。

「ちっ……!魔法部隊は魔導防壁!白兵戦部隊は前方で侵入者に備えろ!」

 フレスの号令が魔法で増強されて全体へ鳴り響き、すぐさま虚空に防壁が形成され、スクラップを爆発ごと受け止める。

『ふむ、流石は歴戦の勇士と言うべきでしょうか。対応が迅速かつ的確ですね。……ええ、大丈夫です、マイグラント。魔導防壁を張られることは想定していました』

 こちらが上空から向かっていると、遠目に見える防壁の上で、ドローンたちが隊列を為して力場を生じさせる。

「転移魔法……!?ガイア製薬に魔法が流れたのか……!?」

 フレスが驚き、ドローンたちは力場を完成させてワープゲートを作り出す。そこから出てきたのは、右前足を失った樹竜の死体だった。

「樹竜の亡骸を直にぶつけるつもりか……!総員退避!衝撃に備えろ!」

 防壁が徐々に弱まり、やがて樹竜が地面に激突して轟音と土煙を上げる。

『マイグラント、お膳立ては終わりました。これからは……あなたの見せ場です。派手に暴れてくださいね』

 ブースターの勢力を強め、一気に営巣地に突撃する。視界を暗視モードに切り替え、土煙の中でフレスを捉えてタックルで吹き飛ばす。

「ぐあっ!?」

 フレスは激しく転がりながら後退し、両手を地面に突き立てて堪え、着地したこちらを睨む。

「こいつか……!」

 立ち上がりながら構え、左手を開いて幻影剣を五本生み出す。

「何のつもりか知らないが……ここは私たちの土地だ!ガイア製薬につくなら死んでもらう!」

『会話は無用です。殺してください』

 ニードルガンを一発撃つと、フレスは左に短く瞬間移動しながら幻影剣を発射し、こちらも右に瞬間的にブーストして躱しながら前方に切り返し、そこに幻影斧が振り下ろされる。直当てのパイルバンカーと相殺しあい、フレスが続いて幻影銃を取り出して振り上げながら連射し、こちらは短い距離を一気にブーストして詰めながら慣性で蹴り込み、幻影銃を弾き飛ばしながら衝撃を蓄積させる。

「この……!」

 フレスは苛つきを隠さず、けれど無理な反撃をしようとせずに衝撃魔法を自分に向けて放ち、フルチャージで捩じ込まれようとしていたパイルバンカーから逃げ、右腕を掲げて武器の幻影たちを束ね、それを螺旋状の衝撃波にして撃ち込む。

『綺麗な花火ですね、マイグラント』

 フィリアの言葉に応えるように杭を撃ち出し、衝撃波を貫いて爆発を起こして相殺し、六段三連装ミサイルを斉射してから左に切り返し、それらが着弾と同時に電撃を起こす。

「くっ……弾頭にまで魔法を詰め込んで……!」

 怯んでいるところへ回り込み、一気にブーストで詰めて脇腹に蹴りを直撃させる。強烈な衝撃で浮遊したところにフルチャージのパイルバンカーを構え――

「(これを受けたら、死ぬ……ッ!)」

 フレスは渾身の力で身を捩って直撃を躱し、こちらもそれを読んで杭の発射はせずに射出で留め、あちらが右手に幻影剣を生み出して渾身の斬り上げを繰り出し、それを潰すために胴体部を連結して生命エネルギーを衝撃波として解放し、至近距離でフレスを巻き込んで吹き飛ばす。

『追撃を!マイグラント!』

 ブースターを一気に噴射して距離を詰めていくと、フレスは吹き飛ばされた空中で受け身を取って構え直す。

「私がここで退くわけには……!」

 握りしめたフレスの右拳が氷結し、莫大な冷気を放つ。

「ここから……」

 フレスは真正面から迎え撃ち、こちらと組み合う。

「出ていけぇぇぇええッ!」

 全身から冷気を発して押し飛ばし、右拳を地面に叩きつけて凄まじく巨大な氷壁を生み出す。

『これは……!?』

 試しにパイルバンカーを撃ち込んでみると、表面が少しだけ罅割れる。

『かなりの強度です。即席で作れる強度とは思えません……一先ず、フレスの反応は遠ざかっていくようです。ミッションは完了、回収に向かいます』
























『ミッションお疲れ様でした、マイグラント。

 営巣地に残されていた指令書などを修復・解析した結果、元々あの営巣地は城塞に次ぐ防御拠点として巨大な氷壁を作るためのもので、逆転の目が見えるまでガイア製薬を押し留める作戦だったようですね。

 図らずもこの強襲によって、氷壁の展開を不完全なものに出来た……あれだけ巨大かつ強固な氷壁を一人で維持するのは極めて困難です。

 それに一度展開してしまえば、ガイア製薬もあれに注目せざるを得ない。アースガルズの目論見は大きく崩れたと言って過言ではないでしょう。

 世界樹までかなり近づいた……あの氷壁を越えた先は、樹海の深部、世界樹の根本です。

 マイグラント……あなたは……あなたは私の依頼に疑問も持たずに協力してくれていますが……あなたがこの世界に辿り着いた理由、そしてこの戦いに従う理由……いつか、私にも理解できることを願っています』

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