第6話 はじめまして


「こんにちは」


 意を決して事務所の扉を開けたが、初めてのアルバイトであったため、第一声が控えめな声量となってしまった。翔子は、内心やってしまった……。と心の中で反省しながら、事務所の中にゆっくりと入っていった。


「はじめまして、あなたがバイトに応募してくれた子かしら ?」


 翔子の背後から透き通った美声が聞こえてきた。声の方を振り向くと、モデルのようなスタイルを持った女性が立っていた。顔も小顔だ。流石芸能事務所と、翔子は関心しながら女性を凝視していると


「あら?違ったかしら?」


と、女性は翔子に聞き直した。翔子は、慌てて


「あっ、えっと、そっそうです!応募しました!」


やや、大声で叫んでしまい言い終わった後、途端に恥ずかしくなってしまい、思わず視線を足元に下げてしまった。そんな翔子を見た女性は上品な笑みを浮かべた。


「フフフッ、ごめんなさいね、あまりにも可愛らしい反応だったからつい笑ってしまったわ。初めまして。私が、電話で対応させて頂いた、Passion Music事務所マネージャーの佐倉伊織よ。よろしくね」


 これが、バイト先(仮)の始まりだった。


***


 佐倉との衝撃的かつ、失態を冒してしまった出会いの後は簡単な挨拶を含んだ翔子自身の自己紹介や、履歴書に目を通した佐倉からの簡単な質疑応答が繰り広げられた。

しかし佐倉から色々と質疑応答をされた中に所属タレントについて知っているかという質問に対しては翔子の返答が佐倉は気になったようだった。

 ここは芸能事務所であるが、翔子の返答が今までの応募者と違っていたらしく、今までの人たちではあり得ない返答をしてしまったらしかったからだ。しかし、その返答が佐倉は気に入ったようだった。


「あなたが初めてよ」

「え?」

「Non-Fictionsを知らないって言った人」

「い、いえ!存在は知ってました。ただ、興味が無かっただけで、どこの事務所にいるとか知らなかったので……。 あっ、すみません。所属タレントを興味なかったなんて、失礼なことを」

「いいのよ。それが決め手となったから。あなたのバイト面接の合否が」

「えっ、じゃあ!もう、合否は決まっていると……?」

「えぇ。早速お伝えするわ。合格よ。これからよろしくね」

「えっ、ほっ、本当ですか ⁉ あっ、ごめんなさい。食い気味に……」

「いいのよ、じゃあ明日朝九時に事務所に来て頂戴。実際に明日から働いてもらうわ。」

「はい‼ ありがとうございます!! 精一杯務めさせて頂きます!!」


 翔子と美人マネージャー佐倉とのやり取りはお互いに握手をして終わった。


 翔子はバイト採用合格を貰い事務所を後にするため事務所の扉から外に出るとすっかり日が暮れていた。

今日あった出来事を振り返りながら充実した日だった、と気持ちの昂りを抑えられずにいた。

マネージャーの佐倉は、色気のある仕事のできる女性像といった人物であり、この人と一緒に働けると思うと翔子は自分が大人に近づけたように感じた。

佐倉と話すにつれ、佐倉が翔子の憧れの女性像へと変わっていったのだ。それほど、佐倉は魅力的な女性だった。そして、佐倉の言葉は全て本心でありストレスを一切感じさせなかったことも嬉しかった。声が雑音に聞こえなかったことが、翔子にとって貴重だったからだ。


こうして、翔子にとって人生初のバイト面接は無事に終わった。

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