双子の令嬢に転生した女子高生、一方は王子と結婚、もう一方は破滅を回避するために奔走する
和泉歌夜(いづみかや)
第1話 前世の記憶を思い出す
この日、ラブツイン伯爵家にとって、最大の事件が起きた。伯爵の娘である双子の姉妹が馬車の転覆により、怪我をしてしまったのだ。
二人とも頭部から血を流していたため、すぐに屋敷で、緊急治療がなされた。
王都から帰ってきたブロッサム・ラブツイン伯爵と、サンデー・ラブツイン伯爵婦人は、馬車を降りるや否や、一目散に娘達の元へと駆け寄ってきた。
「チェリー! だいじょうぶべシャリバァっ!!」
「チェリー! ピーチ!」
ブロッサム伯爵は真っ先に駆けつけようとしたが、サンデー伯爵婦人のイノシシ並の突進により、弾き飛ばされてしまった。
血まみれの伯爵が執事達に医務室へ連れて行く中、伯爵婦人はベッドで横たわる二人の娘手を握っていた。
「ピーチ」
サンデー伯爵婦人は、桃色のツインテールの女の子を見た。全身真っ白なドレスが、この状況では白装束みたいに不吉に見えた。
「チェリー」
婦人は、ピーチの隣にいる
二人の母の脳裏に、『死』という文字が否が応でも浮かび上がってきた。
「どうか……生きて」
伯爵婦人はか細くそう言った――時だった。二人がカッと誰かに電源を入れられたかのように、同時に目を見開いたのだ。
これに、周りにいた医者やメイドはもちろんサンデー婦人も驚きの声を上げた。
「ピーチ! チェリー!」
二人の生還に、サンデー婦人は感情を露わにして、抱き締めた。しかし、姉妹はまだ意識が朦朧としているのか、ポカンとした顔をしていた。
医者やメイド達が呼びかけるが、いま一つだった。
「安静にした方がいいですね」
髭もじゃの医者がそう言うと、伯爵婦人はすぐにメイドと執事を呼んで、姉妹を彼女達の自室に連れていった。その間も、姉妹は魂が抜けたようにボーとしていた。
メイド達はピーチとチェリーを彼女達の部屋に案内した。部屋は、桃色と桜桃色のグラデーションが綺麗に折半されていた。
部屋の真ん中には大きなベッドがあるが、半分に割って入り口の方がピーチ、窓側がチェリーだった。
この部屋に置かれているぬいぐるみや置き物、クローゼット、本棚などが二個ずつ置かれており、カラーはそれぞれ彼女達の髪の色に統一されていた。
二人は自分の部屋であるにも関わらず、洞窟でも探検するかのような心地で、恐る恐るその部屋を歩いていた。
そして、お互い部屋の隅にいた。喋ろうともせず、何か考えているような顔をしていた。
(これは一体どういうことなの?)
ピーチが心の中で、この状況に疑問を抱いていた。
(私は確かキノコにあたって、病院のベッドで寝ていたはず……)
ピーチは、頭の中にある記憶を振り返った。断片的だが、あらゆる映像が脳裏を過ぎった。
都会のマンション。スマートフォンを手に取り、何かを言っている。
近くにあるのは、キノコ。松茸に似ているが、色が赤い。その人は、何も焼かず煮込んだりもせずに食べる。
あっという間に完食し、満足気に笑う。が、すぐに顔を青ざめて、下腹部を抑えた。
急に若い女性の顔が浮かぶ。その人は必死に何かを呼びかけていた。その隣に、中年ぐらいの男の顔が現れた。
すると、徐々に視界が薄れていった。若い女性は首を横に振り、中年男がジッと見ていた。
ここで、ピーチはハッとした。
(これは所謂前世の記憶というやつなのでは?!)
彼女は、そういう系のアニメや漫画をよく読んでいたので、そういった知識は豊富だった。彼女の顔に光が灯ってきた。
(でも、どういう世界に転生したんだろう)
ピーチは近くにあった桃色の
(どれどれ……ん? これは!)
ピーチは自分の真っ白い姿を見た瞬間、この世界がどんなのか分かった。
("ラブツイン"の世界だ! しかも主人公!)
ピーチはそう心の中で叫んだ。
ラブツイン――それは、彼女が前世で遊んでいた乙女ゲームである。その主人公となるのは、ラブツイン伯爵家の双子の姉、ピーチなのだ。
彼女の運命は、数多のイケメン、ショタ王子達とのイチャイチャやキュンキュンするような展開を味わうこと。
その主人公に、彼女は転生したのだから、喜ばずにはいられなかった。
(でも、子どもね)
そう、彼女の年齢は今、十歳。"ラブツイン"のゲームの世界では、十六歳設定のはずである。
(ということは、ゲーム内では少しだけしか分からなかった幼少期からのスタートってこと?!)
そう結論づけたピーチは、ガッツポーズをして、天を仰いだ。
(あぁっ! 転生の神様! 本当にありがとうございます!)
ピーチは段々前世の記憶が鮮明になってきたので、さらに深堀りすることにした。
彼女の前世は陰日向だった。幼少期から引っ込み思案で、誰とも友達になれず、イジメられた事もあった。
アニメや漫画、ネットの世界を唯一の心の拠り所にしながら生きてきた前世。
そして、彼女はその世界にいるのだ。
(あぁ〜! なんて素敵なの!)
ピーチの顔は晴れやかになり、鼻歌をうたうくらいテンションが高くなっていた。
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