第7話
別れて1ヶ月も過ぎたある日の夜、尚也から電話が掛かってきた。
『あ、俺だけど。久しぶりだな、……梨沙、元気だったか?』
忘れたはずなのに………。
久々に声を聞いて胸がときめいた。
「なに? 何か用?」
『あ、あぁ、まだ、カネを返してなかっただろ。今、アパートのそばまで来てるんだ。ちょっと返しに行ってもいいかな?』
せっかく忘れられそうだったのに、会えばまた未練が出てきそうで怖かった。
だけど、一目でいいから逢いたいという欲求に負けてしまった。
「そう、じゃあ、返して」
電話を切ったあと、すぐに鏡をみて髪を整え、簡単なメイクをした。
尚也はわたしの変化に、少しは気づいてくれるかな?
あんなに若くて可愛い子と付き合ってる尚也には、わたしの些細な変化なんてどうでもいいんだろうな。
玄関のブザーが鳴った。
インターホンの画像に、懐かしい尚也のかしこまった顔がみえた。
返事をせずに玄関ドアを開けた。
「あ、あれ? 梨沙? な、なんか、雰囲気変わったな。あ、、そ、そうか、随分痩せたんだな」
久しぶりに会った尚也は、少しは罪の意識を感じているのか、なんとなくドギマギして見えた。
ーーどうしてこんなに痩せたと思うの?
尚也のマンションを訪ねたら、いきなり可愛らしい彼女が居たんだよ。
あんなフラれ方したら、食欲なくすに決まってるでしょ。
尚也は、尚也はわたしと別れても平気だったの?
少しも傷つかなかったの?
別れられて清々していたの。
抑え込んでいた恨みがましい気持ちをぶちまけたくなった。
「これ、借りてたカネ。遅くなって悪かったな。利息を足しておいたから。じゃ、じゃあ……」
尚也はまだ何か言いたげに、遠慮がちにわたしを見つめた。
「ありがとう。元気でね。お幸せにね」
恨み言のひとつも言えず、泣き出しそうな気持ちをこらえて微笑んだ。
「お幸せにって、、そんなこと、そんなこと言うなよ!」
尚也が急に怒ったような顔をした。
「え? 」
「梨沙、俺が悪かったよ、謝る。またやり直してくれないか? 俺、おまえじゃなきゃダメだ。それがわかったんだ。頼むよ、梨沙」
「尚也………」
返事をする前に、涙があふれた。
「梨沙、こめん。本当にごめん」
玄関で尚也に強く抱きしめられた。
この匂い、この温もり、尚也、本当にわたしのところへ帰って来てくれたのね。
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