第3章:黒き影

 夜の森は静寂に包まれていた。木々の間から星の光がこぼれ落ち、道を照らしている。エリオスは慎重に歩を進めた。森の奥には、村の人々が「決して近づくな」と言っていた遺跡があるという。そこに何か手がかりがあるのではないか――そう思ったのだ。


 しかし、しばらく進んだところで、突然背筋に冷たいものが走った。


 (……誰かいる?)


 気配を感じ、エリオスは立ち止まった。森の奥から、何かがこちらをじっと見ているような気がする。耳を澄ませると、カサリ、と葉が擦れる音が聞こえた。


 「……誰だ?」


 勇気を振り絞って声を上げた。すると、闇の中から低いうめき声が響いた。


 「……星の欠片を……」


 その瞬間、黒い影が森の中から飛び出してきた。エリオスはとっさに後退する。目の前に現れたのは、人の形をしているが、その体はどこか歪み、まるで闇そのもののようだった。


 (……こいつは?)


 「星の欠片を……渡せ……」


 黒い影がじわじわと近づいてくる。エリオスは息をのんだ。背中に冷たい汗が流れる。だが、不思議と恐怖はなかった。むしろ、星の欠片が共鳴するように胸元で脈打っていた。


 「お前は、闇の使者なのか?」


 エリオスがそう問いかけた瞬間、黒い影が一気に飛びかかってきた。反射的にエリオスは身をかがめる。影の爪がすぐ頭上をかすめた。


 「くそっ……!」


 立ち上がりざまに手を伸ばすと、星の欠片が強く光を放った。瞬間、闇の中に一筋の光が走る。黒い影が怯んだように後ずさる。


 (これが……星の欠片の力……?)


 エリオスが驚いている間に、影は再び姿を変え、闇の中へと消えていった。辺りに再び静寂が戻る。


 エリオスは息を整えながら、星の欠片を見つめた。その光は、まるで彼に「この旅を進め」と囁いているようだった。


 「まだ……始まったばかりだ」


 呟くと、彼は再び歩き出した。星の導く先へと。

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