第37紡 あと三文字

SNSで流行っている「あと三文字」という遊びがあった。

ルールは簡単。

自動変換機能に出てくる“予測変換”で、意味のある文章をつくるだけ。


たとえば「たの」→「たのしい」「たのみごと」「たのまれた」

選ばれた三文字に応じて、言葉が変わっていく。

だが、ある日、フォロワーの一人がこう投稿した。


「“しん”って打ってみて。怖いから」


橋爪は半信半疑でやってみた。

スマホに「しん」と入力する。

すると、候補に奇妙な単語が出てきた。


「しんでくれ」

「しんでほしい」

「しんだことにして」


そんな言葉、使った覚えがない。

もっと不気味だったのは、最下段にあったひとつ。


「しん……」

その先が、空白のままだった。


試しにその空白の候補をタップしてみる。

すると、画面が一瞬ブラックアウトした。


再起動後、メモアプリが勝手に開いていた。

そこには文字が一行だけ打ち込まれていた。


「もう選んだんだね」


以後、スマホの変換がすべておかしくなった。

「いえ」→「いなくなる」

「ともだち」→「さがしてる」

「おやすみ」→「もうおきない」


削除しても、直らない。初期化しても変換候補に戻ってくる。


数日後、橋爪のSNSアカウントは削除された。

ただし、最後の投稿だけはなぜか残っていた。


「“しん”って、ほんとは誰に向けた言葉だったのかな」


誰かがコメントをつけた。

「予測変換って、使った人の“無意識”を反映するんだよ」


今この文章を読んでいるあなた。

試しにスマホで「しん」と打ってみてほしい。


その候補が、誰の言葉か思い出せなかったら──

たぶん、もう遅い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る