第19紡 無限のジュース

町の片隅に、小さな自動販売機があった。

型は古く、塗装もはげていたが、ひとつだけ変わった特徴があった。


「一度買えば、永遠に出てくる」


そう言われていたのは、真ん中の列にある赤い缶。

“フルーツミックス99” と書かれた、見たこともない名前のジュース。

誰が入れたのかも、いつからあるのかも分からない。


噂を聞きつけた少年が、ある日それを買ってみた。


ジュースは確かに美味しかった。

果物の味がぎゅっと詰まっていて、飲むたびに味が変わった。


飲み終えて缶をゴミ箱に捨てようとしたその瞬間、

カタン と音がして、また同じジュースが出てきた。


少年は笑った。

次の日も、またその次の日も、

彼はジュースを飲んでは笑った。


家族にも、友達にも配った。

みんな驚いて、喜んだ。


けれど、しばらくすると、周囲が変わり始めた。


「他の飲み物が売ってない」

「この味以外、物足りなくなった」

「また同じジュースか……」


町の自販機から、別の飲み物が消えた。

スーパーにも、違う味の飲料は並ばなくなった。


気づけば、誰もがあの赤い缶を手にしていた。

学校も、職場も、病院でも。


少年がふと空を見上げると、

雲が、赤い缶の形をしていた。


その夜、少年は夢を見た。


果物が腐っていく夢。

甘さが、どこまでも苦くなる夢。


朝、少年はもうジュースを飲まなかった。


けれど誰もそれを気にしなかった。

町の人々は今日も赤い缶を開けて、

当たり前のように喉を鳴らす。


少年は自販機の前に立ち、静かに言った。


「もう、いらない」


自販機は何も言わず、しかし缶はカタンと音を立てた。


彼は手を出さなかった。

そのまま、背を向けて歩き出した。


それでもジュースは出続けていた。

誰も止められないまま、永遠に。

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