第3話 信頼

健一の母が数年前に話したことによると、30代の頃の母は健一が生まれる2年ほど前から、趣味として革細工の教室に通っていたそうだ。


そして、母は同じ教室に通っていた、さと子のママと知りあったという。


せっかちな母と、のんびりしている、さと子のママは、逆に不思議と気が合ったらしく、じきに友達同士になったそうだ。


母が健一を身ごもった、ちょうど同じくらいの時に、偶然、さと子のママも、さと子を宿したそうだ。


母の話を何回も聞いた健一にとっては、それは偶然ではなく、必然のように思える。それは縁というものを感じるから……、つまり、健一とさと子との(えにし)だ。


何はともあれ、健一とさと子は同い年、健一が生まれたのは、今から18年前の7月20日で、さと子はその数日後だそうだ。


当時、健一の家とさと子の家は大人の足で、5分くらいの距離だったろうか。


健一とさと子は相性が良かったのか、しょっちゅう2人で遊んでいたという。


2人は何をして遊んでいただろう……。健一が思い出し切れないほど一緒に遊んだはずなのに、赤ちゃんから2歳児頃のことは、健一も、なかなか思い出せない。


さと子は健一にとって特別だったはずの女の子だ。


2歳児くらいになった頃、さと子が


(健ちゃんと一緒にいるとホッとする)。


と、しばしば言ってくれた記憶が、かすかに健一にある。


そう言われるたびに、乳幼児の健一は


(ボクのどこがそんなに良いのだろう)。


と不思議に思ったものだ。


赤ちゃんからの付き合いだからなのか?


さと子は健一以外の素晴らしい男の子は知らずに、健一とばかり遊んでいたからだろうか。


さと子は健一のことを親しみをこめて、いつも、健ちゃん、健ちゃん、と呼んでくれた。

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