つながり

星空 花菜女

第1話 ノート

 あれ? 何か落ちてる。

ノート? 表紙には乾いた泥がついてる。う~ん。数日前からここにあったのか?

中に何か書いてあるのかな? 誰かの秘密をこっそり見てみたい。

そんな衝動にかわれて、辺りをきょろきょろと見渡す。

よし。今だ。素早くノートを地面から拾い上げてページをめくると……


ふっ。何も書いてない。


 少し期待してしまったので、残念な気持ちになった。

薄汚れたノートを見つめて考える。

ま、これも何かの縁?もったいないからメモ用紙として使おう。


 帰宅して部屋のテーブルの上にノートを置いた。

しばらくノートの事は忘れて、いつもと変わらない時間が過ぎた。


 さてと明日も仕事。そろそろ寝ようかな。

ふとノートの存在を思い出す。

テーブルの上にあったボールペンを手に取り、白紙に文字を書いてみた。


あいうえお


 なんの意味もない、あいうえお。

無意識にチョイスした、あいうえお。


 一瞬こんな事で自分が日本人だな~と自覚したことが

なぜか面白く感じて、ニヤリとして寝た。





        🐓


 翌朝。いつも通りに起きて支度して家をでた。

正直、今の仕事は自分には向いていない。

でもほかにやりたい事が無い。

とりあえず生きていけるだけのお金は稼がないと。


  モヤモヤする気持ちをポケットにしまい込み

今日もロボットのように働く。


 はずだったが

何でこんなところに? 頭がぼんやりして幻覚を見てるのか?

いや。まだ夢の中か?よくわからないけど

目の前にそびえ立つ、なんの変哲もない一本の電信柱を見つめる。


 はたから見ると百パーセント電信柱を見つめて怪しい人。

でも今は他人の視線など一ミリも気にならない。


 なぜなら昨日の夜、拾ったノートに書いたあいうえおが

電信柱にも書いてあるではないか。


 これはやばい。いったいどうなってるんだ?転写された?

いや、すごいぞ?いや、とんでもないか? ただただ驚く自分。


 もしかしてあのノートには何かすごい力があるのかも。

五十数年生きてきて、こんな現象は初めての経験。

なんだこのゾクゾク感は。あ~なんか頑張って生きててよかった。

この不思議な感情をずっと味わいたいが、残念無念のサラリーマン。

時間がない。


 ということで、後ろ髪をひかれながら会社についた。

今日の仕事は、やけにはかどる。はかどる。

ふんふん♪ふふ~ん♪(普段では絶対にあり得ない鼻歌まで)


 あの謎の文字が気になって

一刻も早く仕事が終わるように、必死に脳をフル稼働させ

カタカタカタと指の速度を上げながら無我夢中に働いたのだ。


 昨日までは、魂が抜けたロボットのような自分だったが今日は別人。

待ちわびた退社時間。ジャストにタイムカードを打刻。

ガシャ‼

「お疲れ様でした」の声と共に小走りに風のように会社をでた。

あれ?今自分の耳に聞こえてきた自分の声に違和感。

元気な声に聞こえる。

なんだか生き生きしてる。こんな声出せたんだ……


 そいえばここ数年、腹から声をだしていなかった。(腹筋十回無理かも)

と言うよりも、敢えて出す必要がない、上っ面だけの生活を望んでいたのかも。

とにかく、面倒くさそうな事はやらない。淡々とお決まりのパターンで時間を過ごしていた。


 でも今日は違う。朝に見た電信柱にまだあの文字があるのか

気になって、ワクワクしている。


 あ。あの電信柱だ。

なんか近づくのが緊張するな。

ゆっくりと一歩づつ、文字が書いてあった場所に近づいた……


 うォ―――!! まだ書いてある――――‼(有頂天)

意味もなくエアーギターしたくなる気分になった。

一度もやったことがないけど。

 

 おいおい、待て待て自分。ここは冷静なれ。

朝は感情が高ぶっていたから改めてじっくりと文字を確認する。

一文字づつ真剣に……


あ  い  う  え  お


 ん―。 え? あれ?

これ……自分の字に似てるけど

ちょっと全体的に字が丸いような……

なんとなく女の子っぽい感じ?

自分の字はもっとシュっとしてるというか。

てことは、別人が書いた文字を自分が書いたと勘違いした。

あのノートの不思議な力は? 無かった。


 あ―――……

電信柱から目をそらし、空をみつめて落胆した。ズドーン……

なんだよ。神様からのご褒美かと思ったよ……



 家に帰り、テーブルの上に置かれたノートをめくる。

昨日書いた文字を見つめる。

あいうえお やっぱり違うね。あ―あ―。

床に寝転がって天井を見た。



 そーだよな。世の中、こんな簡単に不思議な事が

起きてたら、もっとこぉ、常にワクワクしてるような、奇想天外が出来事が

あっちこっちで起きていて……とにかく自分のような無気力な人はいなくなるか。


 ん~~~~。大きく背伸びを一回した。

なんか疲れたな。眠気が。

そうか、今日は別人のようにがむしゃらに働いたからか?

頭と違って肉体は正直だね。

少し寂しくニヤリとして風呂に入って寝た。




         🐓

 翌朝。いつものように支度して家を出た。

ワクワクさせてもらった電信柱の前を

今日は表情一つ変えず通り過ぎようとした時



 「○○ちゃん。そんなところに落書きしちゃダメよ。」と女の人の声。

電信柱の近くには、小さな女の子とお母さんらしき人がいた。

「ノートないから、ここにかいたの」


何も聞こえなかったふりをして

ゆっくりと歩きながら、さりげなく電信柱を見た。

え!?思わず声がでそうになった。


 なぜなら昨日見た、あいうえおの後ろに

同じ雰囲気の字体で、かきくけこが増えてる!!


 間違いない。この女の子が書いたんだ。

昨日の出来事を話したい衝動にかわれたが、突然声をかけたら

ただの不審者扱いだ。とにかく何も興味がないふりをして

歩く速度を変えず、電信柱を通り過ぎしばらく歩いた。


 ふぅ~。なぜか息まで止めて歩いてしまった。

足を止めて一回大きく深呼吸をして、また歩き始めた。


 自分が無意識に書いた文字と女の子が書いた文字が同じとは……

小学生レベルか。


 ただの偶然といえばそれまでだが、同じ文字を書く確立って

宝くじで一等が当たるくらいか?よくわらないがそれくらい

凄い確立のような気がする。


 あいうえおで繋がった不思議な出会いに感謝する。

なぜなら少しだけ元気がもらえたから。

会社についた。

よっしゃ!今日も爆睡できるくらにカタカタ頑張るか。



おしまい












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