第33話

「お前さぁ、色々考えすぎなんじゃねぇの?」

「…え?」

「もっとシンプルに考えろ。俺とこのまま婚約してもいいのか?」

「…よくない」

「じゃぁ、好きだった男は、本当に好きのか?」

「…今でも好き」

「それでいいんじゃね?まぁ男はともかく女は相手に会社継いでもらわなきゃなんねぇしな。でも、自分の気持ち押し殺す必要なんてねぇだろ。相手にぶつけもしないのはなしだ。お前も…俺もな」

「…うん……うん?」


え?今なんて言った?

驚いていると偉央利がフっと笑みを浮かべて立ち上がった。


「俺もそろそろ前に進む。進もうと思わせてくれた女を手放したから早く連れ戻さねぇと」

「え…そうなの…?」

「あぁ、だからお前の親父さんには断り入れといて。つーか俺一条の会社とお前んとこの会社の面倒なんて2つも見れねぇから」

「…ふっ、確かにね」


前言撤回。嫌な奴って思ってたけど。

結構良い奴に変わったらしい。


何年も忘れられなかった人を忘れさせてくれる。

トゲトゲしい偉央利を、こんなに柔らかく変えた人にいつか会ってみたいな。


「だからお前も––……あぁ、まぁ頑張れよ。じゃぁな」

「?」


何かに気づいたかのように笑みを浮かべ部屋から出ていった偉央利に首を傾げる。


すると偉央利が出てってすぐに走ってくる足音が聞こえ、そちらへ視線を向けていると目の前に現れたのは…。


「え…嘘…」

「っ、…はぁ、はぁ…」


どうして、カナちゃんがここに?

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